月の問いかけ
ふと夜空を見上げる。実家にいた頃は確かに見えたはずの星々は、街明かりに気圧されたように鳴りを潜めていた。澄み切った夜空に浮かぶ孤高の満月。自身の存在を知らしめるように煌々と輝いている。
「穴が開いたみたいだ。」
懐かしい感覚が蘇る。月光が忘れかけていた記憶を浮かび上がらせた。実家の庭で父と見上げた、溢れるほどの星空。満月もその中にあった。
いつからだろう。都会の喧騒の中で自分を見失っていた。忙しなく過ぎる毎日に、空を見上げることさえ忘れていた。夜を貫く大穴が私を覗き込む。問われている気がする―― このままでいいのか。
冷たい風が頬を撫でた。深く息を吐く。いつからか心にぽっかりと開いていた穴が、月光と共鳴するように疼く。このままではいけない。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。芽生えた決意が、静かに心に満ちるのを感じた。
満月は相変わらず孤独に輝いている。しかし、どこか優しく見守っているようにも感じた。
―― 月影に幾星霜の声を聴き夜を貫く勇気授かる――