【BL】季節の気持ち:卒業前の2人
※左詰めは、キャラクター性です。わざとです。
(夏の目線で)
今日は、バレンタインデーだ。
僕が冬からチョコを貰う日なんて、あるわけないから、そんなに大きなイベントではないかなって思っていたのに…………
「あの!コレもらってください!」
僕は学校の後輩からチョコを受け取ってしまった。
「え?いや、困るっっ!あ、ちょっと!」
僕の手の中には、部活の後輩からのチョコが残ってしまった。
「どうしよう……」
僕は地元に戻るまでに、どうにかしないと!と焦りに焦って、いつもの公園のゴミ箱にそれを放った。
「おい…………」
僕は後ろから話しかけられて、その声にビクッと体をすくめて振り返った。
「………………冬?!」
なんで?なんで?なんで?冬がいるの?!
僕の近くまでやってきた冬が、後輩がくれたチョコの紙袋を拾いあげる。
「お前が貰ったんじゃないのかよ」
「え………そうだけど………」
見つかるとは思っていなかったので、バツが悪くてモゴモゴとしてしまった。
「こんなことする人間だとは思わなかったわ」
冬の冷たい視線が心に刺さる。
「………だって、冬に勘違いされたくなくて…」
「何を勘違いするんだよ」
冬は、今日も少しイライラとしていた。
「あ、うん…」
そうだった。僕達はべつに付き合ってるわけでもなんでもないのに………。
冬は、後輩が作ったチョコの箱を取り出して開ける。
「チョコに罪はないだろ」
冬が、僕の口に女子が作ったチョコを押し込む。
「う、むぐぐ……ぅぅ」
そりゃーチョコは美味しくないわけじゃない。
冬が作ったわけでもないのに作業のように僕の口に運ばれていく。胸が苦しくなりそうだ。
「う゛………うぅ」
「なんで泣くんだよ」
今日も冬は僕に対して呆れ顔を向ける。
「だって………僕が女の子から、チョコ貰ったとしても冬は嫉妬してくれるわけなくて、虚しくてチョコ捨てちゃったんだけど……本当はやっぱり冬に嫉妬して欲しかったってゆーか……それなのに、冬は平気な顔して他人のチョコを僕の口に押し込むから」
ぐちゃぐちゃの僕の心の中を、頭で整理する前に口に出そうとするから、何が言いたいのか自分でもよくわからない。
「なんだよ。まるで、俺からもチョコ欲しかったみたいな言い方すんじゃん」
「そりゃ欲しいよ!!くれるわけないって判ってても!!」
現実を受け入れたくないのに、冬が現実を突きつけるから、なんだか言い合いみたいになってしまった。
「なんだよ。いらないのかよ」
冬が、僕に腹パンするかのように、グーにした手を僕の体に押し当てた。
「え?」
僕は言っている意味がわからず、手を差し出すと、そこにはコンビニで売っている正方形の小さなチョコがコロンッと冬の手から転がってきた。
そこにはイチゴ味の文字が書かれている。
「っ!!」
僕はクリスマスの事を思い出してしまって、息を呑んだ。
「なんだよ……忙しいやつだな。泣いてたかと思ったら次はなんだ」
「だってだって!こんな………イチゴ味なんてもらったら、クリスマスのこと思い出しちゃうじゃんか!人生でもう1回なんてあるわけないのに、ただ僕だけドキドキしちゃうじゃん!」
「なんで?」
なんでって………僕達が付き合ってないって言ったの冬じゃんか…。
「俺からキスすることはなくても、夏からキスしたらいいんじゃないの?」
「……は?え……ぇ?なに言ってるの?して、いいの?」
いいとも悪いとも言わない冬が重いため息をついたあとに、僕の目の前でその瞳を閉じる。なに、これ…夢じゃないよね?
僕達のキスの味はいつもイチゴ味ってこと?
イチゴがキスしてもいい合図?なのかな?
僕は、冬から貰ったチョコを口にふくんだ。チョコとチョコの間にあったイチゴジャムが、口の中に広がっていく。
震える手を必死に抑えながら、冬の口に自分の口を押し当てようとした。
ガチンっ
「いて…」
勢い余って、自分の歯と冬の歯が当たってしまったみたいだ。
「ごめん!……なさぃ…」
「下手くそか(普段シュミレーションしてるって言葉はなんだったんだよ…」
せっかく冬がなんかよくわからないけど気持ちを許してくれたような気がするのに、初めてのことで失敗してしまった。
次もあるかどうかわからないのに!!!
「チョコ美味かった?」
「え?わかんない………(イマ話しかけないでもらえると…嬉しいのですが…」
絶望的な事態の前に味わってる暇なんてなかったですけどねぇ!!
「それ、俺も食べたことなかったから今日買ったのに」
「え、僕のために買ってくれたのかと思った」
なんだ、たまたま買って持ってただけか。そりゃそうだよね。それなのに、イチゴ味はキスしてもいい合図とか、意味わからないこと考えてた自分が恥ずかしくなってきたよ…。なんか、ごめんね。
「俺、高校卒業したら関西行く」
「えぇ?!」
不意に、冬が爆弾発言するから、思考が追いつかなくて本当に困る。
「それ、伝えに今日来た」
やっぱり冬にとってバレンタインがどうとか、関係なかったらしい。期待するだけ損な事は、この3年間で嫌と言うほど学んできている。
「なんで??地元から離れちゃうの??」
「でも、春と秋は東京に残るし」
「そうじゃなくて!なんで急に……」
高校は別々だったから進路のこととか、あまり詳しく知らなかったな。でも、東京からしたら関西ってすごく遠いじゃん…。
僕が好き好き言ってるのが、ついに嫌になっちゃったのかな…………。
僕がグルグルと考えている間に、冬が話を進める。
「それで………その、もしも夏が大学卒業しても俺のこと好きだって言うなら、付き合ってもいいけど」
「え……?!(いま、なんて??」
僕と冬が付き合ってもいいよって言ったの??
「まー今までみたいに頻繁には会えないし、大学に入ったらお前は別のヤツ好きになるかもしれないけど」
僕のビックリして声もでないでいる間に、なんか冬がどんどん話を進めていってしまう。
「そんなことない!!大丈夫!ずっと好きだから、冬のこと」
なんとなく、余裕がなくてもソレだけは伝えなくちゃって思った。
「無理はしなくてもいいんだけど、案外4年間って長いだろうし、今日みたいに女子から告白される事だってあるだろうしさ」
なに?なに?なに?冬と付き合えるかもなのに、なんで別の女の子の話が出てくるの?!
「この3年間ずっと冬のことだけ見てきたんだよ???僕は冬のことしか好きにならないよ???」
「うん………だから、その…信じさせて欲しくて」
……………信じさせて欲しいってナニ??
とりあえず、なんか話が見えない。けど、重大な事を話し合っているような気がするから、僕もなんか答えなくちゃ…!!
「えと、いまは…付き合ってもないし、冬は僕のことは好きじゃないんだよね??」
「うん………でも、気になってはいると思う」
ん???好きと気になるって、どう違うの???もう、誰か教えてよ……!!!
でも、冬が僕を好きになるためには、僕が今までとこれからもずっと気持ちが変わらないって証明してほしいって事なのかな…?僕は、冬にこれまで通り『好き』って言い続けてもいいって言ってもらえてるんだよね??…たぶん?
「冬の不安は、4年後になくなるわけじゃないんだよね?」
「そうだね」
たとえ、4年をついやしても冬の心を変えられないかもしれないから、ツライなら今諦めれば?とか言われてる???
「でも、僕のこと傍に置いてくれるの??」
「幼馴染じゃん」
今は、友達の延長上にいるから、そりゃそうだろうけど。男と男が付き合うことに関しては、嫌悪感とかなくなってきてるのかな…。
「どうしたら、信じてもらえるか分からないけど、大学通っている間に冬は恋人作らないの?」
「工業大学だから、ほとんど男子しかいないし、俺は今年もチョコなんて貰ってないし、そもそもモテたことないし?」
えっと…なんか、怒られてるの??何故?
「……もしかして、チョコのこと意外と嫉妬してたとか??違うからね!!部活の後輩だけど、僕に好きな人いる事ちゃんと知ってるし、卒業しちゃうからとりあえずみたいなやつだからね??心配するようなこと何もないからね?!?」
だから、勘違いされたくなくて証拠隠滅をしたはずなのに………
「ソウナンダ」
「あー信じてないでしょ!!」
「だって、手作りだったし」
冷たい目をした冬が勝手に帰ろうとする。
「あ、待ってって!」
僕は冬が帰ろうとする背中を追い掛けて抱きしめた。
「本当に僕が好きなのは、冬しかいないから」
アホみたいって思われるかもしれないけど、抱きしめて足止めしたくせに、それ以外の言葉がでてこなかった。
「………春休み、引っ越し前にデートする?」
それでも冬からの言葉は意外な一言だった。
冬に好きを証明することも出来ない僕に何故か今日はとびっきり優しかった。
「する!します!させてください!!」
返答に3秒しか待ってくれない冬の気持ちが変わらないうちに、僕はすぐに返事をした。
「また、連絡する」
「うんうん!絶対だよ??」
僕は冬の顔を見ることが出来ないまま、僕の腕をするりと逃れてそのまま帰っていく冬の後ろ姿に話しかけた。
「またな」
卒業したら、離れ離れになるって聞いた時は絶望でいっぱいだったのに、冬の「またな」という言葉に春休みの用事が追加されて、僕は少しだけホッとした。
けれど、どさくさにまぎれて、冬のこと抱きしめちゃった事、気持ち悪がられてないかな。
冬が僕のこと気になるって言っていたけど、それはどんなところなんだろうか?
普段の冬からは想像できないかも。
秋ちゃんのドッキリとかだったりしないよね。
たかがドッキリなんかで、冬がキスさせてくれるわけないか。
「信じさせて……………か」
それは、僕も同じ気持ちなんだけど……な。
4年後に付き合ってくれるって本当なのかな。
4年あったら人の気持ちってどれくらい動かせるものなんだろう。
いままでみたいに会えなくなったら、少しは冬も寂しいって思ってくれたりしないのかな。
「……冬がそんなこと思うわけないか」
もう、あと1か月もしないうちに僕達は高校生ではなくなってしまう。冬と同じ高校生活ではなかったけれど、それでも中学の時よりはなんとなくだけど前進出来ている気がする。
中学を卒業する時は、僕が冬に好きって言うつもりはなかった。高校生になって、ずっと傍にいた人と離れ離れになってみて、告白しようって思ったんだよね。
でも、今度は冬は地元から遠く離れてしまうなんて………もう、すでに淋しいかも。
僕は寒空の下、自分の唇を触った。
さっき一瞬だけくっついた唇が熱を持っているような気がした。
「こういうのを友達以上恋人未満って…いうのかな……」
なんだか、喜んだらいいのか悲しんだらいいのかが、よくわからなくて泣き出しそうになってしまった。
「やっぱり…イチゴを見るたびに思い出しちゃいそう。今日も頭の中、ふわふわする……」
失敗しちゃったけど、冬がキスさせてくれた事が、僕にとってはすごいすごいすごい嬉しかったんだ。なんか、自分のことを幼馴染としてじゃなくて、少しだけ認めてもらえたような気持ちになれたような気がしたんだ。
この時の夏は4年後に付き合える。と、思っているが、実際は夏が大学院に通うことになって、付き合うのが4年後ではなくなることを、いまの夏はまだ知らない。