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日常への侵食2

 授業開始までまだ数分ある教室、アイツの発言を皮切りにまたも騒がしくなっていった。この授業がを取る者は、俺に纏わりつく『藤宮と付き合っている』を知らない人が多いせいで盛りつく。


「藤宮さんって、あの夏野と仲良いんだな」

花奏(かなで)ちゃん……もしかして彼氏だったり?!」


 男子からは羨望なのかため息混じった声、女子はつんざくような声を上げ俺を観察しているみたいだった。左端で後方の席から見える景色には、鹿取さんが少し目を見開いて俺を見ている……その心の中は分からない。


()()()()って……まさかまさかの!?」

「まさかの仲だったり?!」


 あれは確か、藤宮の取り巻きの片割れだ。黒髪が多い教室にはかなり目立つ金髪だが、顔と全く見合っていない女子。それと藤宮や権力者の発言にただ同意するだけの女子。その2人が主体となっているようだった。


「……」


 Rineにポンポンと来る通知音と教室の雑音が重なる。そのデュエットは、教室で寝たフリして休んでいても耳鳴りを誘う。

 俺を照らす太陽、黒い制服に当たりジリリジリリと体温を上昇させる。時計を見ると授業開始だったけれど鳴っていない。チクタクと動く時計は、偏差で見える時間が違うんだろう……あと1分ぐらいだが長い。


「……はぁ」


 漏れ出ていた嘆声(たんせい)は、教室のざわめきとともに消え去った。うつ伏せでも分かってしまうこの好奇心の目。早く鳴って欲しい、そう願っても侵された俺の日常はずっと視線に晒され続けていた。




 頭痛がする。熱っぽさもあるような気がする。今はもう授業が終わり、昼食の時間だけど買ってきたパンを口に入れる気力がない。

 いや今はこの頭痛と熱よりも、酷い現実が目の前に広がっているせいで食事に手がつかないかも知れない……


「ねね、ナツくんー。ご飯食べないの? 食べさせてあげよっかー?」


 いつもは自席でグループを作って陣取っている藤宮が、俺の隣で勝手に机を付けて喋り倒している。より頭を悩ませるのは、その机が()()()()の物だということ。いつもは触れたくない物として扱ってきたくせして、どうしてこうも知らんぷりが出来るんだ。


「……いや」


 やけに彩りの良いお弁当を俺に見せつけている藤宮。箸を器用に使ってミートボールを俺に食べさせようとしてきた。その箸を持つ所作は美しかった。細く綺麗な指先と、木で作られた箸がマッチしており妙に目に取られてしまった。正しい表現か分からないけれど、爪先もテカっていた。

 左に映していた視線を正面に戻し、レジ袋に入ったままのパンをもう1度眺めてみても食欲が湧かなかった。逆に湧き上がる物は吐き気、なんとかそれを抑え込んでパンを取り出す。


「あの人達は良いんですか」


「んー? あー大丈夫大丈夫、みんなそろそろ私から独り立ちしないといけないしねー」


 自分でも分かるぶっきらぼうな口調。隣の彼女は察してくれて後ろにちょっと目配(めくば)せしつつ、何ひとつ問題ないようにそう言った。彼女の視線の先を見ると、いつもの取り巻き4人と浜名さんがいる。4つの机では合っていないのか浜中さんは肩身狭そうな様子でいる。

 ガサゴソと音を立ててパンを取り出す俺の視線が、窮屈そうにお弁当を持っている彼女とぶつかった。ぱっつんと切られた重い前髪、ハイライトの薄い真っ黒な目は鉛筆で塗りつぶしたようにも見える。眉は隠れていたけど、なんとなくその前髪の下には困り眉がありそうだった。


「それに今はもっと大切なことがあるからね……ね、ナツくんー?」


 そう言いながら藤宮は取っていたミートボールを口に運んでから、箸を握っていた方の肘でこちらをつついてきた。残念ながら中央席なので、目撃者多数の後方から甲高い声が鳴り響いていた。位置的には藤宮のいないあのグループからの歓声……キャーと聞こえたそれは、いつ聞いても耳障りに変わりなかった。


「……ふぅ」


 うるさい歓声と一緒にパンを飲み込むことにした。アンパンと砂糖のかかっている甘いパンの2つ、喉に餡と砂糖が残ってしまい違和感を覚えてしまった。


「はい、飲みかけだけどあげるー」


「え……い、いや」


 どうして察したのか分からなかったのが薄ら気味悪い。ため息でもないでもない、ただの息を吐いただけの俺をどうして飲み物を欲していると分かったんだ? 

 ストローを俺に向けた紙パックジュース。味はピンクと白のラインからいちごオレと想像がつく……嫌なことに俺が好きなジュースだ。


「じゃーねー、ナツくん。ゴミは自分で捨ててねー」


 そう言うと、俺に飲みかけのいちごオレを渡してきてせっせと自席に戻っていった……自分でくっ付けたなら片付けもして欲しい。なんて思いながら、手渡されたジュースを机に置いて処遇はとりあえず置いておいて、根原さんの席を直すことから始めた。

 教室は通常運転で騒がしかったので、ギイギイと音を立てても気にしている人はいなさそうだった。その興奮する教室内では、自席に戻っている藤宮が少し火照った顔で取り巻きと会話しているようだった。


「あと半日……」



 目立った事件は、飲みかけのジュース以降とくになく無事に1日を終えることが出来た。ただクラスメイトの男女どちらともから揶揄(やゆ)された程度だった。やるじゃねえかとかデートはしたのとか、甘ったるい内容ばかり話しかけられた。

 ただその瞬間も、藤宮は俺に突撃することなく苦笑いしか出来ない俺を眺め続けていた。途中ポンポンと鳴る通知音、それを確認するスマホ越しにニヤニヤしている藤宮も見えてそれも気味悪かった。


「やーやーナツくん。結局飲んでないねー、私のジュース」


 午後の授業は教室のみだったからずっと机の上にジュースを置きっぱなしにして、ずっと放置し続けていた。頭痛のせいか正常な判断も出来ず、一瞬それを飲んでしまおうかとも迷ったけど何も行動せず。空白となっている左側の光景、欠けていても気にしていなかった景色が俺を抑え込んでいたんだ。


「……帰ってから飲みます。まずは公園に行きましょう」


「んー。あの子たち先帰ってもらってるから、2人きりのお話だねー」


 教室内の人はまばらだった。前の俺のように速攻で帰宅する者、部活に行く者、友達と帰る者、そんな人達がいないここは俺と藤宮、そして他クラスの人を集めてマルチゲームする者のみ。

 藤宮は黒い髪の毛をサラリと触りながら、俺の足元を見ているようだ。胸の動悸を鎮めて俺たちはその共通意識にある公園に向かっていった。校門から出たときにやっと侵食された日常から抜け出した感触がした。

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