眼鏡交換
「眼鏡が見当たらない」
見当たらない、という言葉
口に出して言ってみたものの、しっくりこない
だって、そもそも見えないのだもの
そこここに手を伸ばしても、指にさえかすらない
眼鏡をかけたら目が無ぇ、とはよく言ったものだけれど、かける眼鏡が無ぇ
「眼鏡、知らない?」
「さあな」
探してもないくせに、と心の中で不満を言う
聞こえたのか、こぶしで頭をコツンと叩かれた
「目を閉じて、顔上げて」
目を閉じる前、分かっちゃた
あんまり見えないけれど、でも見えちゃった
だって、握った手からはみ出した無機質なもの、きっと眼鏡のフレームが、少しおでこに触れたように思うから
落ちた髪を耳にかけてくれる、肌に触れる指の温もりが嬉しい
そのまま眼鏡をかけてくれると思ったのだけれど、予想が外れて、耳をかぷりとかじられた
鼓膜を震わす吐息と音に、ぞくぞくする
近過ぎて見えない、耳のそばにあるだろう唇を想像する
それ同士が触れ合ったときの柔らかさを思い出す
カチャリ、眼鏡を外す音
「かけてよ」
「誰に?」
「俺に」
なんのために? 外さなきゃいいのに
不思議に思いながらも、目を開け、渡されたそれを言われたとおりにかけてやる
交代で、手の温もりがほのかに移った眼鏡を、やっとかけてもらえた
「次は、指輪を交換しような」
嬉しくて、すぐに唇を寄せ合えば、カチャチャと、眼鏡と眼鏡もキスをした