第八話「やっぱり定番はホラー」
なんでか知らんが、俺は登録者数を増やすことに成功し、首はつながった。
いや、たとえ0人でも首にはならんが、栄子先生は喜んでくれた。
「イブ、よくやった! 一位に躍り出たぞ!」
両肩をバシバシ叩かれ、俺は思わず顔を歪めた。
痛いからではない。
てかアバターだから痛覚はないし。
まだ安心はできないんだよ。
だって、増えたっていったって、絶対にネタ的に登録しただけだろ?
このままじゃ、すぐ飽きられてしまうぞ。
もっと視聴者数も登録者数も定着させなければならない。
やはり安定して人気があるのはゲーム配信か?
でも普通のゲーム配信じゃな……。別に上手いわけでもないし。
そんな考え込む俺に声をかける存在があった。
「なんか悩んでるみたいぴゃね?」
このあまりに独特な語尾は確か、狛犬ことねか!
犬を擬人化したアバターで、茶髪に犬耳が特徴的なヤツだ。
確か、ゲーム配信で大人気と聞いている。相談相手としてはうってつけかもしれん。
俺はカクカクシカジカと経緯を説明した。
「面白い配信ぴゃ? そりゃやっぱ人気があるのはコラボ配信ぴゃね」
コラボ配信とは複数人で協力して配信することだ。
人気のある人とコラボできれば、その視聴者に自分をアピールすることができる。
それに、自分一人では出せない、その人との“絡み”という新たな魅力が発掘されるときもある。
相性の良い相手と組めば、一気に人気爆発ということもありえなくはない。
「なるほど。そんならことね、せっかくだし一緒にやってみないか?」
「もちろん、良いぴょ! なんのゲームがいいぴょ?」
「やっぱ定番はホラゲーかな?」
「オーケー!」
ホラーゲームはコラボしやすいジャンルの一つだと俺は思う。
お化け屋敷でも心霊スポットでも、一人で行くのはあまりに怖すぎて笑えないのだ。
複数でギャーギャー言っている方が、やる方も気楽だし、見ている方も楽しめる。
※※※
舐めていた。
VRホラーがこれほど怖いとは……360度、どこから何が来るかわからん、というのがこれほど恐ろしいなんて。
リアルすぎて、これじゃ本当の心霊スポットに行っているのと変わらねーじゃねぇか!
「情けないっぴゃなぁ」
ことねは意外にも、まったく怖がる素振りを見せない。ずんずん進んでいく。
気づくと、俺たちは廃墟の中にいた。
真っ暗でほとんど見えん。
漆黒の闇から何かが飛び出た気がして、俺は夢中で走り出した。
「ギャー!」
「ちょ! どこ行くっぴゃ!?」
ことねを置き去りにして……。
俺のビビリっぷりが良かったらしく、配信はウケたのだが、ことねを見捨てたことで同期の間での評判を落としてしまった。
それから俺は、しばらくコラボ相手が見つからず、苦労することになってしまうのだった。
この作品は有名VTuber事務所が好きすぎて書かれたものですが、フィクションです。実在する団体、個人、VTuberとは一切関係ありません。
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