第七話「散々な初ASMR」
自慢じゃないが、俺の胸はまな板だ。
邪魔なだけだと思ったんだ。
どうせ別に、ねぇ? 使い道は無いわけじゃない?
「くっ! なんでモデル制作時にちゃんと父ちゃんに依頼しなかったのかっ!」
アバターは制服以外は自由だが、自前で用意しなければならない。
大半はプロ・アマどちらかのモデラーにお願いして作ってもらっている。
その作者を、3Dモデラーだったり男性モデラーの場合父と呼んだり、2Dデザインだったり女性モデラーの場合は母と呼んだりする。
呼び方は色々だ。
俺はアマチュアだが腕のあるお方に依頼し、作ってもらった。多少お金はかかったが、これくらいは初期投資だ。
一般の学校の入学費に比べたら安いもんだ。
それにしてもべこらはでけぇな。
牛女、というコンセプトだからってことかな。
そしてべこらは、それを知ってか知らずか上手く使ってる。
これは俺にはマネできん!
だが、ASMRは音と声が大事だ。決して胸ではないよな。な?
実は、声はかなり練習したんだ。
練習に練習を重ね、イメージ通りの“ボーイッシュな女”の声が出せるようになった。
ならば、チャレンジしてもいいんじゃないか? ASMRとやらによぉ!
俺はべこらに相談してみた。すると、なんと新しいマイクを買ったので、古い方を貸してもいいという。
住所を教えることになるが、まぁべこらなら信頼していいだろう。
※※※
「こ、これが100万のマイク!」
届いた包を開ける。厳重に梱包された中には、まるで小さなモアイ像のような物が入っていた。
大きさはちょうど人の頭くらい。耳がちゃんとついていて、そこがマイクになっている。
セッティングを済ませ、初のASMR配信を始めた。
『ごんばんば。V高一年、袰屋イブでず。今゛日はASMRでみ゛んな゛の耳゛を癒やじだいど思い゛まず』
あ、あれ? いつもの声が出ないそ!!??
ASMRは高感度マイクを使うので、ささやき声を出さなければならないのだが、どうやってささやき声を出せば良いのか、コツがわからん!
どんな反応がきているか、恐る恐るコメントを見てみる。
【声ヤバすぎ】
【死にかけのアヒルですか?】
【草】
【なんでASMRやろうと思った】
【耳が破壊される!!】
『う゛、う゛るぜぇ!』
ダメだ、散々なASMR初配信となってしまった。
もうおしまいだ……。
※※※
次の日。
失意の中、念のためチャンネル登録者数を見てみると、なんと11万人に増えていた。
なんでだよ!!
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