第六話「活かそう自分の長所」
ある日の放課後。べこらがV活動を始める前に、声をかけた。
べこらは牛女。牛のような耳、黒と白のツートンカラーの髪が特徴だ。
「おーい、べこらー!」
「ん? イブか。どうしたべこ?」
そうだ。べこらは語尾に“べこ”を付ける語尾キャラだった。
その設定、のちのち苦しくならなければ良いがな!
俺は事の経緯を説明した。
「ふーん。チャンネル登録者を伸ばすには? べこかぁ」
「そうなんだよっ」
「べこらはASMRをやったらいっぱい増えたべこ」
「ASMRか。話は聞いたことあるが、詳しくは知らないな。ちょっと調べるか」
検索したところ、ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response」の略語らしい。簡単に言うと、視覚や聴覚の刺激によってなんかこう、ゾワゾワして鳥肌が立つ、みたいなものだ。
多くはバイノーラル録音による音だ。
咀嚼音、包丁で何かを切る音、タッピング、キーボードのタイピング音などなど。王道はささやき声と耳かきだ。
やはりASMRと耳かきは相性がよく、本当に耳かきされているみたいなんだ。
しかし、バカ高いマイクが必要で気軽にはできない、とのこと。
「ちなみに、べこらのマイクっていくらくらいするの?」
「べこらのは100万したべこ」
「ひゃ! ひゃくまんえん!?」
高いとは聞いていたが、桁が違った。
こりゃ迂闊に踏み入れられない世界だぞ。
「もし興味があるなら、べこスタを貸してもいいべこよ?」
「べこスタ!?」
「べこらのASMR用スタジオべこ! 録音機材はもちろん、防音設備もバッチリべこ」
「お、おお! ちなみに、それを作るのにいくらくらいかかったの?」
「イブ。それは聞かないほうがいいべこ……」
「ぐっ!」
100万を事もなげに言ったべこらが言いよどむのだから、その額は……いや、やめておこう。
「まあ、べこスタを借りるのは考えておくよ。ありがとうな」
「わかったべこ」
そんな高価な機材を気軽に借りるもんじゃない。
もし壊しでもしたら、責任が取れないからな。
それにだ。スタジオに行くということは、オフラインで顔を合わさなければならないわけで……俺にはハードルが高い。まだ正体をバラす覚悟はない。
そう考えると、べこらのやつ、オフにまったく抵抗が無さそうだったな。
ということは、べこらは本当に……い、いや、詮索するのは良くないな。
俺はべこらのチャンネルを見てみよう……。
登録者数、確かに10万超え。
動画の再生数は……て、なんだこのサムネ!
全部、胸のドアップじゃねぇか!!
べこらめ。自分の長所を良く分かってやがる!
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