第四十四話「自問自答」
夏休みも終わるというある日、通話してきたのはノワールだった。
他愛もない近況報告のあと、話題はやはり、ネルちゃんのことになった。
「音楽班は明日、お見舞いにいくつもりだけど、イブはどうするの? 一緒に行く?」
ネルちゃんは二学期が始まる前に入院することが決定した。
これは、最後の登校ができないことを意味していた。
卒業式は本人不在で行われるそうだ。
このことは、ネルちゃん本人から、同期全員に連絡が来ていた。
特に親しかった数人には、入院する予定の病院も教えられていた。
嬉しい事に、俺にもその中の一人に選ばれていた。
書かれていたのは病院名だけではない。彼女の本名まで明かされていた。
見舞いに来るならば、受け付けでその名前が必要になるだろうからだ。
そこまでの信頼を受けていたとは、光栄だ。
そんなネルちゃんに、俺はすべてを打ち明けることができるだろうか?
想像するだけで胸が苦しくなる。
本当の俺の姿を見られたら、幻滅されるだろう。
俺には何もない。ただの引きこもりだった。
俺の見た目が悪かったせいだろう。
小さなころから俺は人から嘲笑され、馬鹿にされ、気持ち悪がられてきた。そうされるうち、俺は人の目を見て話すことができなくなっていた。
いつもびくびく怯え、おどおどと小さな声ではっきりと喋ることもできない。
俺はさらに人から距離を置かれるようになった。
いや、距離を置いたのはこちらからだったのかもしれない。
傷つけられることを恐れた俺は、自分の部屋という安全地帯から出られなくなってしまったんだ。
そんな俺が、思い切ってV高に飛び込んだのは、我ながら英断だったと思う。
ここでは俺の内面を出すことができた。
気軽に誰かと接することができた。
気づけば、友達と呼べる存在もたくさんできていた。
少し、調子に乗っていたところもあったかもしれない。
それも仕方ないことだ。人生で、これほど人気者になったことはなかったんだから。
だけど、今回のことで俺はまた、自分を見つめ直すことになった。
「少し、考えさせて欲しい」
ノワールにそう答えた。
通話が切れたあと、自問自答する。
少しとはいつまでなんだ?
ネルちゃんと会う機会なんて、これが最初で最後かもしれないんだぞ。
行かなくていいのか?
もう一人の俺が、俺自身を責め立てるようだった。
だけど、俺のこの姿をネルに見せるべきなんだろうか?
それが正解なのか?
知らなくていいことも、世の中にはあるんじゃないか?
俺は夜も寝ず、ずっとそんなことを考え続けていた。
この作品は有名VTuber事務所が好きすぎて書かれたものですが、フィクションです。実在する団体、個人、VTuberとは一切関係ありません。
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