第四十一話「エンジョイ夏祭り」
「ぎやぁああ!」
最低限の照明しかない薄暗い空間に、白い女の顔を浮かんでいた。
血の気のない真っ白な肌。
口紅代わりに血を塗りつけたような真っ赤な口がまず目に入る。
それは大きく開かれ、何がおかしいのか、大声で笑い出した。
「キャハハハ!」
「あ…」
俺はネルちゃんを置いて逃げようとしてしまった。
だが、すんでのところで思いとどまった。
もちろん、ネルちゃんの体調のこともあるが、ことねとのコラボ配信を思い出したのだ。
今思えば、あの頃はまだ同期というものにそれほどの思い入れが無かったのだ。
だから自分の身だけを考え、真っ先に逃げ出してしまった。
今は違う。
相手がネルちゃんだからではない。
誰であれ、同期を置いて逃げるなど今の俺には考えられないことだ。
「わたしベリーちゃん。お友達になって」
白い顔がそう言った。
その声は、その不気味な顔にもかかわらず、カワイイ。
そのギャップがまた気持ち悪かったけど、この特徴的な声色、聞き覚えがあるぞ?
「ベリーちゃんってお前、べぇたまか?」
そう、こんな分かりやすい声。それにあの笑い方。聞き間違えるはずはない。
その風鈴を思わせる、透明感のある高い声は黒船ベリーのものだ。
「キャハハ! なんで分かったの? せっかくこんな特殊スキンしてるのに」
「声で分かるわ! 驚かすなよな」
「驚かすでしょ。ここお化け屋敷だよ? キャハハ!」
そっか、言われて見れば確かに。
はぁ~、それにしても驚いて心臓が飛び出るかと思った。
ネルちゃんは大丈夫かと思ってふと見てみたが、まったく意に介さずニコニコ笑っている。
あれ、意外にもホラーとか大丈夫なんだ?
「ああ、もうっ! バレちゃったら面白くないじゃん! ほら、とっとと帰って!」
俺たちは半ば追い出されるようにお化け屋敷を後にした。
「おー、お面屋さんだ。ああいうの、お祭りにあるよね」
そこにはたくさんのキャラクターの頭を並べた棚があった。
モンスターや村人のようなNPCなどを、特殊な方法で倒すと頭だけを入手できる。
それをうまく使い、お面屋さんに見立てているってわけ。
「お、あれは綿あめか。りんご飴もあるね」
ゲームのブロックをうまく使い、そう見えるようにうまく作られていた。
残念だけど、食べられるわけではない。
「お、そこのご両人。射的で遊んでかないかい?」
そう声をかけてきたのは浜田だ。
「お、射的なんてあるのか」
「撃つのは銃ではなくて弓だがな。儂の自信作だ。どうだ?」
「ネルちゃん、やってく?」
ネルちゃんは笑顔でこくりとうなずく。
よーし、ここはいっちょ、いいとこ見せちゃおうかなぁ?
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