第二十話「いつの間にか音楽班に」
ネルの天使のようなハイトーンの歌声が素晴らしい。
それとは対象的な、イブの地獄のような低音デスボイスがアクセントになっている。
一見するとミスマッチのようだが、音域の広さが4オクターブあるというノワールが間をつなぎ、奇跡の調和を見せている。
これが『歌ってやった動画』の評価である。
俺は頭を抱えてしまった。
「俺の歌は、なゆが修正してくれたから、それなりに聞けるようになってるだけなんだよ!」
そう何度も正直に告白しているのに、なぜか俺の評価は下ることがなかった。
「よー。イブいるか?」
昼休み。教室のドアを開けて第一声がそれ。
どんなヤツかと見てみれば、見覚えのある顔だ。
「ちょ! あれ! 深井シィさんよ!」
「すごーい!」
そう。確かシィという名前だった。
個人で作詞作曲したという動画が好評で、その勢いで音楽配信サービスで曲をリリース。
それが大ヒットし、今や世間でも注目の歌手と言われている深井シィだ。
このV高でも屈指の有名人である。
「俺だけど、なんか用?」
「おー、いたいた。こないだの『歌ってやった動画』見たよ。すごい良かった」
「ああ……あんがと」
やべぇ。まさか、シィも『歌ってやった動画』をやろうってんじゃないだろうな?
これ以上、なゆに負担はかけたくないぞ。
しかし断れば、生意気と思われてしまいそうだ。どうすべきか。
「それで、アタシと一緒にさー、ライブやんね?」
「ライブかぁ……はぁ? ライブぅ!?」
「そうそう。実はこのメタバースに一般開放エリアが出来てさ。そこに音楽ステージができるんだよ。お客さん入れてライブできんだよ! すごくない?」
「そりゃすごいけど。そういう話なら俺じゃなくて、ネルちゃんとかノワールに頼んでくれ」
「もちろん、音楽班、全員に声かけてるよ」
「音楽班? なんだそりゃ?」
「アタシらみたいに音楽活動を中心にV活動してる生徒をまとめて音楽班って呼ぶんだよ。知らんかった?」
「へー……って、俺は違うぞ!」
「おいおい、あれだけ再生されてる『歌ってやった動画』出しててそれはないだろー。あっはっは!」
「あ、あれはネルちゃんに誘われたから特別で……」
そんな話を聞いていた教室にはざわめきが起きていた。
「ちょっと! 音楽班でライブだって!」
「イブ凄い! シィちゃんに誘われるなんて」
「ヤバい! 拡散しないと!」
うぉおおおい! 拡散すんじゃねぇ!
「まー、考えておいてよ。セトリも考えなきゃだから早めにねー」
勝手なことを言ってシィは出ていってしまった。
遠巻きに見ているクラスメイトの視線が痛い。一体俺はどうすればいいんだ!?
この作品は有名VTuber事務所が好きすぎて書かれたものですが、フィクションです。実在する団体、個人、VTuberとは一切関係ありません。
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