第十九話「歌上手の歌ってやった動画」
放課後。珍しくネルちゃんが俺のところにきた。
「ねぇイブ。私、ノワールといっしょに『歌ってやった動画』出そうと思ってるんだけど、参加しない?」
「『歌ってやった動画』って?」
「曲をカバーして歌って、動画にして公開するんだよ。曲はもう、発注したからあとは歌入れだけなの。あと一人、欲しくて」
「う、歌!? 俺、ちょっと歌は……音痴だし」
「でもノワールも言ってたけど、イブって低い声、出せるよね? そういう子、他にいないんだ」
「で、でもなぁ……」
「……ダメ?」
ネルちゃんは目をうるませ、上目遣いで見てくる。
そ、その顔はズルいぞ!
「わ、わかったよ! やるよ!」
「ホント!? やったぁ!」
両手で胸を押さえ、何度も飛び跳ねるネルちゃん。可愛すぎだろ。
「じゃ、音源と歌詞カード渡すね。録音して持ってきて」
「う、うん」
勢いで引き受けてしまったが、どうする!?
あの二人は歌上手で有名なんだぞ。俺なんか足引っ張るに決まってる。
V高で『歌ってやった動画』を出している奴はいるんだろうか?
俺は生徒のチャンネルをチェックしてみた。
「これは……!?」
※
次の放課後、俺は目当ての刹那なゆの教室へ向かった。
「刹那なゆ、いるかぁ!」
「ん? ボクだけど。あれ、学校の有名人、イブじゃん。何のよう?」
「俺が有名人?」
「うん。クイズ対決、おもしろかったよー」
「アレか。いや、それよりもちょっと相談があるんだ。なゆは『ボーカル補正』ができるんだよな?」
「うん。趣味なんだー」
「お願いしていいか?!」
俺はここまでの経緯を説明した。
「ネルとノワールとイブで『歌ってやった動画』!? おもしろそうじゃん! やるやる! ボクにやらせてよ!」
「よっしゃぁ! 頼んだぞ!」
俺は必死で練習した。
補正があるといっても、最低限、自分でできるところまでやったつもりだ。
その音源データをなゆに送った。
あとは果報は寝て待てだ。
※
三日後。俺のクラスになゆがやってきた。酔っ払いのように足がふらついている。
「イブ~。でぎだよ~……」
「お、おい! 体調悪そうだぞ、大丈夫か!?」
「この三日、ろくに寝てないんだよ」
「なんでそんな……」
「イブのボーカル修正、過去最高難易度だったよ」
「う、それはスマン」
「ううん。おかげでボクもスキルアップ出来た気がするよ。データ、送っておくね」
「ありがとう! ほんと、ありがとうな!」
※
動画はネルちゃんのチャンネルで公開された。
なんとこれが大好評だった。俺はなんとか面目を保ったのだ。
だが……。
「イブ-、私と『歌ってやった動画』とろうよ!」
「ちょっと! 私が先だよ!」
「お、おい、落ち着け! もうやらねーよ!」
俺も歌上手と勘違いされたのか、それから以来が殺到するようになっちまった。
勘弁してくれ!
この作品は有名VTuber事務所が好きすぎて書かれたものですが、フィクションです。実在する団体、個人、VTuberとは一切関係ありません。
誤字脱字があればお気軽にお知らせください。
感想、評価もお待ちしております。たくさんの反応が励みになります!




