第一話「はじまる俺の新たな生活」
この物語はフィクションです。人物名、団体名などは架空のものです。また医療用語など専門的な記述も本職ではない筆者の想像によるものです。何事かでお悩みの方は必ず専門家にご相談ください。
一日中、窓もカーテンも閉めたままの暗い部屋にいては時間がわからない。
今までの俺はそれで問題なかった。
好きなときに起き、好きなときに寝る。
それを自由でうらやましいと思うだろうか?
そんなことはない。こんなことが永遠に続くはずがないんだ。
俺はいつかこの身に襲いかかってくる“最後”が、この闇に潜んでいるところを想像した。
布団に包まり、身を震わせた。そうやって逃げ続けた。
だがそんな日々は、今日で最後だ。
部屋は締め切ったままなので、陽の光こそ拝めないが、今は朝だ。
時計がそれを教えてくれる。
これからは毎日、この時間に起きなけりゃならない。
今日から俺の、新しい生活が始まるのだ。
大変だが、自分で選んだ道だ。
久々に朝飯を食った。
ドアの前に置かれたトレー。母親からのメモが添えられていたが、読めなかった。
読んだらきっと、泣いてしまうだろう。朝から重すぎる。
おっと、ゆっくりしている暇はない。
もう登校時間ではないか。
「いっけなーい、遅刻、遅刻ぅ」
などと言いながら、俺はゲーミングチェアに腰掛け、VRゴーグルを装着した。
次の瞬間。俺は校門の前にいた。
この春から俺が通う学校“メタバース立V高等学校”だ。
「へへっ。秒で登校完了! これがメタバースってわけ!」
それはメタバース内に設立された、新しい通信制学校である。
メタバースにある学校に通うという以外は、普通の通信制高校とほぼ一緒だ。
この学校のことを知ってすぐ、俺は入学を決めた。
こんなに俺向きの学校があったとは、奇跡としか言いようがない。
何がいいって、まず、行かなくていい。
いや、行くけど、現実で家から出なくていい、という意味だ。
俺はできるだけ、この部屋から出たくないのだ。
無論、何に数回は現実に存在する学校の事務所に行かなければならないときもあるが、誰にも合わないよう、配慮もしてくれる。
入学説明のときも、事務員の方以外は誰にも合わなかった。
自由な姿になれるのもいい。
アバターの決まりは、学校指定の制服を着ること。それだけだ。
授業はきちんとある。テストもある。課題もある。これはしょうがない。
なぜならここは本当に学校で、卒業すれば卒業資格が得られるのだ。
だから、親に行きたいと言ったとき、二つ返事で了承されたんだ。
ここをきっかけに、俺がこの暗闇から抜け出せればいい、と。
名前も偽名を名乗っていい。
万が一、生徒内に知り合いがいたとして、互いにそれを知ることはないだろう。
おっと、言い忘れてた。
俺の名は……この春からの名は、イブ。
袰屋イブだ、よろしく!
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