聞いた話し、
聞いた話をまとめます。
私自身は、霊感も何もなくて、
怖い目にあったことも無いです。
それでもなぜか、
人から一方的に話を聞かされることが、
多い気がします。
そのほとんどが、根も葉もない内容で、
馬鹿馬鹿しいモノばかりでしたが、
いくつか、気になるモノがありました。
うろ覚えなモノばかりですが、
私の中だけにしまい込んでおくのも、
気持ちが悪いので、勝手に書かせてもらいます。
これから書くのは、その中でも、
一番、印象が深くて、忘れられない話です。
今、思い出せば、この日を境に、
話を聞く機会が多くなった気がします。
その話を聞いたのは、
大学4年生で卒業間近の2月半ばくらいでした。
そして、その話は、同じ研究室で、
隣の席にいたS君から聞きました。
よく、S君とかM君とか、よく聞きますが、
こうして考えると、確かに、実名は出せません。
S君は、ほとんど話さない人で、
眼鏡をかけていて、やせた印象でした。
彼は、サークルや部活にも入っていないし、
とにかく、影が薄くて、
同じゼミに配属されるまでは、
存在すら気にかけたことが無いほどです。
ゼミでも、ほとんど話すことも無く、
いつの間にか、学校に来ては、
知らないうちに帰っているような人でした。
同じゼミで隣の席なのに、
いつまでも他人行儀で、協力的ではない彼を、
少し、私は、疎ましくも感じていました。
それで、大学での4年間、
特に、最後の1年間は、彼のことを、
無視して、避けていたのは否めません。
とにかく、そんな感じだから、
あの日に一緒に、お酒を飲むまでは、
私は、彼のことを無視していて、
何も知りませんでした。
その日は、2月半ばくらいの夕方でした。
私は、卒業論文を書き上げて、
無事に卒業ができる事が決まり、
少し、浮かれていました。
その日は、卒業論文の提出を教授に報告した後に、
ゼミで、ロッカーに入った、
私物の片づけをしていました。
ちょうどその時に、
隣の席にS君が座っていました。
彼は、何をするでもなく、
ただ、自分の席に座っていました。
こんな時間に、
彼がゼミに残っているのは珍しく思えました。
卒論も投稿して、肩の荷が下りた私は、
彼と、1年間、
全く話していないことに気付き、
ダメ元で、彼を飲みに誘いました。
正直、期待はしていませんでしたが、
彼は、少し、悩んだ後に
誘いを受けてくれました。
私は、少し、意外で、驚きました。
それも彼は、
「今日は、うちに来て、飲んでくれないか?」
と、彼の家での飲みを提案してきました。
私は、ますます驚きましたが、
その提案を受け入れて、2時間後くらいに、
彼の家に行く事にしました。
携帯の地図で示された彼の家は、
大学から、離れた場所にあって、
山の少し、高い場所にありました。
そこは、ひどく街灯が少ない場所で、
どこも薄暗く、
不審者注意の錆びれた看板がありました。
近くを流れる人工的な小さい川の音を、
聞きながら歩き、
教えられたアパートの前についた私は、
呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしました。
すると、ちょうど、S君が扉を開けて、
中から出てきました。
「待っていたよ、早くはいって、」
私は、彼の家に入り、
彼の後に続いて、居間に通されました。
彼の家は2LDKくらいの部屋で、
大学生の部屋にしては大きく思えました。
ただ、彼の家には、家具の1つも、
ベット、座布団すらもなく、
居間の中央に、コンビニ袋と
いくつかのお酒だけが置かれていました。
私は、居間の中央で、お酒を挟んで、
彼の反対に座りました。
家に何もないことを不思議に思ってると彼が、
もう引っ越しが決まっていて、
家具を整理している。と話しました。
私は、納得して、お酒の蓋を開きました。
彼と共通の話題もなく、最初は、
ゼミの研究内容ばかり話して、
退屈でしたが、お酒の力もあって、
彼は、少しだけ、自分のことを話しました。
特に、彼が大学入学までに、
2回浪人していたことは衝撃でした。
実は、私も、2回の浪人をして、
入学しており、彼と同じ境遇でした。
そこからは、それまでが、嘘のように、
話が盛り上がり、楽しい時間を過ごしました。
そこで、私は、彼が、なぜ、今日は、
私を家に誘ってくれたのかを聞きました。
彼は、「これまで、特に、この日は、
お酒は飲まないし、
人にも会わないようにしていた。
だけれども、なんとなく、最後くらいは、
大学生らしいことをしてみたかった。」
なんてことを話してくれました。
私が、理由を尋ねると、
最初は、渋っていた彼ですが、
次第に話してくれました。
それはこのような内容でした。
S君は、高校生の頃にクラス全員からイジメに
あっていました。
特に、クラスにいた、K君、L君、N君、M君
からの暴行が激しく、体は痣だらけ、
毎日、吐くまで殴られ、
川に飛び込まされたりしていました。
しかし、クラスメイトは誰も、彼を、
助けてはくれなく、見ないように無視するか、
遠くから笑って見ているだけでした。
さらに、担任教師は、
イジメの問題が浮き彫りになるのを恐れ、
見ないふりをして、
事実は隠されていました。
何度も自殺を考えた彼ですが、
S君には、心の支えがありました。
それは、一緒にイジメられていたA君でした。
A君に対するイジメはS君よりもひどく、
髪は抜け、爪は剝がされ、
虫や砂を食べさせられていました。
片親で、夜職につく母を持つA君には、
相談できる相手もいないため、
S君は、イジメの後で、A君を慰め、
K君らへの愚痴を聞いたりすることを、
心の支えにしていました。
そして、日に日に、
A君へのイジメはエスカレートしていきました。
半面、S君へのイジメは、少なくなり、
いつしか、無視されるだけの存在となりました。
K君らに関わりたくなかったS君は、
学校で、A君と距離を置いて、その後、
A君がどうなったかは知りません。
しかし、ある日の休日、
S君は、図書館に向かうA君を見つけました。
S君は、A君の後をつけると、
A君は、図書館の分厚い歴史の本を読んでいました。
それから、数日後に、
A君の家に火がつけられ、
A君の母が死んだと聞きました。
火をつけたのはK君らだと、
疑われましたが、証拠不十分で不起訴でした。
それから、数日後に、S君は、
暗い顔で登校してきたA君から、
これまで、話を聞いてくれたお礼にと、
唯一の友達になってくれてありがとうと、
黒い根付のストラップをもらいました。
紐の先には鈴がついており、
振ると、中の白い石で
カランコロンと、
音が鳴るモノでした。
紐の部分は人間の髪で編まれていました。
S君は、申し訳なく、それを受け取りました。
そして、
その後、2年生の2月に、
A君が焼身自殺したと聞きました。
それから、数日後に、
K君らが乗った無免許運転の自動車が、
事故を起こし、全員が焼死したと聞きました。
死後、K君らの学校のロッカーからは、
S君がA君からもらったモノと同じ、
鈴が見つかったそうです。
S君は私に言いました。
「この鈴は気味が悪いが、どうすればいいか
わからない。捨てることもできない。いつも音が
聞こえる気がする。気味が悪い。」
そう言った彼は、鈴をカラカラ鳴らしました。
私は、彼に何も言えませんでした。
彼はそんな私を見て、
「聞いてくれてありがとう。
友達になれたのは君だけだった」
彼は、さらに、
「今日はもう、終わりにしよう」
そう言って、私を玄関まで見送りました。
その後に、私は、どうやって帰れたのか、
わかりません。あまりの内容に、
考える気にもならなく、気づいたら自室でした。
その後、私は、卒業まで、
学校に行くことも無く、
彼と会うこともありませんでした。
ただ、なんとなく気になって、
一度だけ、彼の家を訪れました。
その日は昼間で、明るく、
さびれた看板も、小さな川も、
彼の部屋の窓も、はっきりと見えていました。
彼の部屋の扉の前まで行き、
呼び鈴を鳴らしましたが、
誰も出てきません。
しばらく待った後に、
既に引っ越した後かと思い
帰ろうとしました。
ちょうどその時に、彼の隣の部屋の
住民が出てきて、
訝しげにこちらを見てきます。
私は、不審者だと思われたと感じ、
その住民に、「すみません、この部屋と同じ、
学校の者ですが、この部屋の住民は、
引っ越しましたか?」
と聞きました。
その住民はますます、怪訝な顔をして、
「そこは、私が来た時から、ずっと空室です」
そう答えました。
そして、
「前に住んでいた人は、火事で
亡くなったと聞きました」
そう言いました。
私は、なんとなく、気持ち悪くなって、
自分の家に、帰りました。
それから、そこには行っていません。
ただ、卒業式の日に、
先生から、彼が焼身自殺したことを
聞かされました。
それから、鈴はまだ見つかっていません。
音はまだ、聞こえます。