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ちゃんと読んどけばよかった。

 


  朝露にきらめく草花。吹き抜ける風に揺れる木々。まだ太陽に照らされたばかりの森の中は静けさに包まれている。



「……ってそんなわけあるかぁぁぁ!!!!」



 まてまてまって!!何がどうしてこうなった?!

 朝露のせいで泥まみれになった足を必死に動かしながら考える。走る度に顔や手足は突き出る枝や葉で傷ついてその度に痛みが走るがそんな些細な事気にしてられない。

 後ろからはさわさわと揺れる木々とは違うガサガサとというかバキバキと何か色んなものがなぎ倒されている音がどんどん近づいている。

 やばいやばいやばい!こんな時どうすれば!小さい時に教えて貰った熊に遭遇した時の対処法も毒蛇に噛まれた時の処置法も今となっては何の役にも立たない。





 だって間近に迫っているのは見た事もない巨大な猪なんだから





 こんな状況になるとは数分前までコンクリートで舗装された道をコンビニ袋片手に呑気に歩いていた私は考えてもいなかった。













 


 鈴村なづな。21歳。今は実家から離れた大学に一人暮らしをしながら通っている。家族中も至って良好……いや、最近は急に押しかけてくる兄に少しイラついている。若くして母一人の身で私達2人を育ててくれ家族3人支えあって生きてきたためか普通の家族より若干……いやすこーしだけお互い家族バカではある。

 まぁ、そんな何処にでもいるような普通の女子大生。


 今日だってレポート作成に一息入れたくて近所のコンビニまで足をのばしていた所だった。

 いつもの道。

 いつものコンビニ。

 今まで何十回も通ったいつも通りの散歩コース。

 ただいつもと違う何かが一瞬おきただけ。ガサガサとコンビニ袋を揺らして歩いてたら、ふと自分に大きな影がかかった気がした。振り向こうと振り返った瞬間今までのいつもが全て消えていた。

 コンクリートも電柱も隙間なく建った家も、軒並み行き交う車や人の音が全てなくなっていた。

 代わりにあったのはどこまでも続く木々や草花やそれを揺らす風の音。






「………………え?」

 一瞬自分がおかしくなったかと思ったが頬をなでる冷たい風と足元の土を踏みつけた時の柔らかい感触が現実であることを教えてくれた。


 これが現実だというならば

「…これが異世界ってやつ?」

 よく2次元好きの母と兄がラノベがどうのとか異世界転生とかいろいろ言ってたけど物語の始まりがベタすぎるくらいこんな感じだった気がする。まさか自分が当事者になるとは思わなかったが。


「まぁ、突っ立ってたって仕方ないし……歩くか」

 所謂遭難してる状況だし下手に歩くと命取りだけど、流石に少しも歩かないことには、此処が山の中なのか、それとも近くに人が住んでる場所があるのかもわからない。何せ知らない世界みたいだし。







 ただ忘れていただけ

 異世界で、しかもこんな山の中みたいな場所で何もいない訳がない。

この後出会うのは確率的に

「いぃぃぃやぁァァァーー!!!っっそうだよね良い人が来てくれる確率より盗賊とか?!動物とか?!まっ魔物とかだよねっ知ってた!!」


 でもよりによって魔物!魔物?なのかな動物?いやいや無いか、あんな一軒家ぐらいデカい猪いないわ!

 はっ!普通の異世界ものってなんか魔法使えたりしない?!身体能力上がってたり!

「よし!!!」


 バッと振り返り自分にロックオンした目とかち合う。

 バッと顔を戻す。


「むりぃぃーーー!っこわ!こわいよ!無理でしょ!ラノベの主人公精神どうなってんの?!鋼か?合金なのか?!」

 というか魔法あっても使い方知らないし!勝手に呪文が頭の中にとかならないし!っていうか足も体力も精神力も限界。誰か通りがかりの盗賊でも冒険者でも勇者でも誰でもいいから助けて!!



 ぶわっっ


「っのあ!ッとっとっと?」


 なにか膜みたいなの通り抜けた?疲労でもつれて倒れこんだ足先の空間に揺れる何かを見た気がした。

 ハッとしてその先を見るが先程自分迫っていた魔物もどきはもういなく緑に溢れる森だけが広がっていた。

 あ、やばいもう無理だ……体力も何もかも異常すぎる現実に限界になり薄れゆく視界の中で木々とは違う淡い緑に光る何かが見えた気がした。








 うぅー……あつい、頭がグラグラするし、喉もカラカラする……子供の時風邪引いた時もこんな感じだったかも……、、


 熱をもった額に冷たい何かが当てられたのが朦朧とする中かすかにわかった……、、そういえばあの時は私が初めて熱出して母と兄揃って私より具合い悪そうな顔しながらあわあわしてたな……

「………っふふ」



 カタン、と木に何かぶつかるような音がした。


「おや、目が覚めましたか?」


 そうだ、それで私がうなされて目が覚める度に付きっきりで看病してた兄がこうやって話かけ、て、、、、


 ガバッと反射的に起き上がる。

 兄も男性にしては優しげな声だったがそれよりも大人びた大人びた声。

 一気に頭が冴えてきた。そうだ、兄がここにいるはずは無い。さっきまで信じられないことに全く知らない森の中で全く見た事もない巨大な猪に食べられそうになっていた。それで何かにつまづいて…………、あれ?そのあとどうなったっけ?

 まだ熱をもつ頭でグルグル考える。あ、きもちわるいかも、

 寝かされていたであろうベッドに再び倒れ込みそうになるが、それを支えるように男性にしては細く、女性にしては力強い腕が背中に添えられた。

 その拍子にサラッとした何かが顔を掠めてそれを辿るように顔をあげた。


「大丈夫ですか?まだ熱がありますから急に起き上がらないほうが良いですよ。」

 先程倒れてしまったばかりなんですからまだ安静にしていて下さい。

 そんなことを言われているが頭の半分にも入ってこない。



「ち、……」

「ち?」

「ち…………超絶イケメン。」

 イケメンだ。紛れもなくイケメン。いや、イケメンって言葉でおさめていいのか困惑するくらいイケメン。


 いけめん?と当人は先程頬を掠めた艶やかな髪をサラリと肩から落として首を傾げながら呟いている。

 それも絵になる。なんだこれ、やっぱり私死んだ?天からお迎え来ちゃった感じ?でも最後にこの顔拝めただけでもいいかも。最後に家族に会えなかったのが心残りだけど幸せな人生だった。


「出来れば浮遊霊にはなりたくないです。」

「ふゆうれい?……もしかして教会信仰者の方でしたか」

 それは少し困りましたね。どうしましょう。天からの使いが喋ってる。なづなはそれぐらい頭が熱にやられてた。


「しかし体調を良くすることが今は第一ですね」

 そう言って私の膝上に落ちていた濡れた布をベッドサイドに置かれた水の入った桶につけそれを絞りながら彼は言った。

 どうぞ横になって下さい。と促されるまま横になり冷たい布を額にのせられる。…………冷たい?

「………………冷たい!?生きてる?」


「?はい。今朝家の庭に倒れているのを見つけまして傷だらけで気を失っている様子だったので一旦私が目が覚めるまで手当てさせて貰いました。」

 目が覚めて何よりです。そうほのぼのと彼は笑った。


「ところで何故こんな場所に?」

「……なぜですかね?」




 そんなことでベタなストーリー通りベタにイケメンに命を救われた。






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