モンスターのよしみで、いろいろ聞いてみたヨ
《えーっと……仮に、かりに、だよ? 異世界から来たとしたら……どうするつもり?》
わたしが聞くと、竜はブフウを鼻息を吹いた──笑ったらしい。
《ふん……殺されるとでも思うたか。案ずるな。我らにとっては、転生者など珍しいものではない……そう、我が母も転生者であった》
《はっ、ははって、母っ!? 竜の母!?》
《ウルサいやつだな。そう、竜の母だ》
《いや、驚くでしょ。転生者、身近過ぎない? じゃあじゃあ、お母さん以外にも転生者がいるってこと?》
竜は、フムと息を吐いた。
《そうさな、あれは1000年ほど前だったか。〈第2次転生ブーム〉と呼ばれた時代があったという》
《なっ……なんちゅーしょーもないネーミング……》
《バカにするでない。我が母ヴェズルフェルニル、神鳥グリンカムビ、黄泉がえりの魔王ヘルモーズ……神界、精霊界、魔界の中央に転生者が君臨した、黄金時代と言ってもよいのだぞ》
《へー……なんかすごそうねえ》
《うむ。彼らは〈100柱の神代転生者〉と呼ばれておる》
ってことは、100人の有名人が、転生者だったのかー。
わたしが転生したときは、たしか……32人目って神さまモドキが言ってたよね。
今でも同じくらい転生者が多いなら、家族とか……知り合いが、この世界に来てるかも──。
《えーっと、そしたらさ……最近の転生って、どうなのかな?》
《どう、とは?》
《ブームが去ってからも、転生してきた人はいるんだよね? 1000年も前じゃなくて、たとえば、ここ数年の転生者とかは?》
《はて……ワレは300年ほど、ここで寝起きしてきたからな。数年となると……》
《はっ? 300年?》
《かの〈ヘルモーズの大去勢〉があってからのことだ……正確には数えておらぬが、まあ、だいたい300年だろう》
《だいきょせい?》
わたしが首を……いや、首はないけど、触手をひねると、竜はあきれたように溜め息を吐いた。
《……今世の常識が足りないやつだ。よいか。魔王ヘルモーズは、神界、精霊界、人間界と和平の誓いを立てた。だが、その際、他種族から和議を結ぶ条件を突きつけられたのだ》
《じょーけん?》
《巨大なもの、おぞましきもの、淫靡なもの、死を呼ばざるをえぬもの。この〈四禁忌〉にあたるものは、滅ぼすか、改心させるか、さもなくば他の種族と交わらぬ地に永久追放せよ──とな。魔王は100年悩んだ末に、忠臣や、ともに戦った神代の魔物たちを追放し、あるいは封印した》
《へええええ》
じゃあ、この世界は魔王の大英断のおかげで、もう平和だってこと?
よかったー、魔族と人間の戦争の最中にモンスター転生とか、まじありえないもんね。
さっきのふたりも、人間と魔族って言ってたし……わたしも人間と仲良くできるかも?
わたしは、ひとしきり考えを巡らせてから、はたと竜に目を向けた。
《あなたは……巨大なもの? 封印されたの?》
《なっ──無礼なっ、竜族は精霊界の一翼。そなたらと一緒にするなっ》
《なんだー、モンスター仲間かと思ってたのに》
《ふむ……それ自体は、あながち間違いではない。モンスターとは、もともと人間の言葉でな。モンストラム、「わけのわからぬもの」だ。やつらは、異種族をじっぱひとからげにモンスターと呼ぶ……おかげで、ひとならぬものは、みなモンスターよ》
《へー、なんか勉強になるー。じゃあ、モンスターのよしみで聞くけどさ、結局、あなたは誰で、何を守ってたわけ?》
竜は、グルルと喉を鳴らして、少し考えてから言った。
《我が名はベアヒル=ニム。〈三の封印〉の守り手だ──》