表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/9

旅は道連れ……?

うーん……。


コロコロと、洞窟の中を転がりながら、わたしはうなった。


……ヒマだ……。


あれから数日。

転生前の記憶が戻り、人間らしい(?)人格を取り戻したわたしは、悩んでいた。


最初は、この洞窟を出て、何か楽しいことでも探してみようかと思っていた。

けれども、わたしは触手モンスター……下手に転がり出て、人間に討伐でもされたら、せっかく転生した第二の人生(?)が台無しだ。


そう考えて洞窟の中で過ごすうちに、モンスターとして暮らしてきた日々の記憶が、おぼろげによみがえってきた。


正直、触手モンスターの知性は、それほど高くなかった。考えていたことは、いつも同じ。


ハイル

フエル


他の生き物の体内に入り込むこと。そして、増殖すること。

そんな本能のままに、信じられないほど長い年月を過ごしてきたらしい。


意識のあり方が、野生動物のような状態だったせいだろう。思い出せた記憶も、曖昧で、細切れなものばかりだった。


今、わかっているのは、自分がずっと昔に、宮殿のようなところで飼われていたということ。

誰か、やさしい声の世話係のような人がいたこと。

その人が「ヌルちゃん、ごめんね……」と涙を流しながら、岩の裂け目に捨てたこと。


そう、だから、この世界でのわたしの名前は、たぶん「ヌル」というのだ。

あんまり、いい響きじゃないけど……それはもう、しょうがない。


ところで、わたしがいるこの洞窟は、想像以上に広いようだった。

外に出るのをあきらめてから、上に向かう坂道は避けて、ひたすら下へ下へと転がってきたけど、一向に行き止まりになる気配がない。


ときどき、巨大なヘビ型のモンスターや、ネズミのようなモンスターと遭遇した。

モンスター同士なら話せるかなと、キュルキュル声をかけてみる……けれども、反応はどれも一緒。

牙をむいて、飛びかかってくるのだ。


触手の力で、なんなく絞め殺したり、引きちぎったりすることはできた。だから、今のところダメージは食らっていない。

触手モンスターは、そこそこ、強いらしいのだ。

けれども、モンスターが殺気に満ちた目をして飛びかかってくるのは、やっぱり心臓に悪かった(この身体に心臓があるのか知らないけど)。


倒したモンスターは、触手の先端がバクリと開いて、丸呑みにする。

本能的に身体が動いて、そうするのだけれど、最初に見たときはキョエッと悲鳴をあげてしまった。

消化速度は異常に早く、数十秒ですべてを吸収し切って、また動き出すことができる(とんでもない身体になったわね……)。


そんなこんなで、わたしは誰ともコミュニケーションが取れないまま、ひたすら洞窟の深部へと向かっていた。


──このまま、ネズミやトカゲを食べながら、一生を終えるわけ? 大恋愛や魔法はどこよっ!


あの神のような存在に、内心抗議しながら、わたしはボーッと坂道を転げ落ちつづける。

コロコロコロ……あれ? なんか、速度が……。

気がつくと、坂道はかなりの急角度に変わっていた。マズいかな……でも、この身体なら、どこに落ちてもどうにかなるか……。


なんとなく、投げやりな気持ちのまま、坂を転げ落ちて──


ポーン


突然、トンネルが途切れて、わたしの身体は空中に投げ出された。


──ヤバッ……!


さすがに焦った、次の瞬間、ザブンと冷たい水の中に、わたしは落ちていた。


目玉を出してみる。

水の底が、キラキラと青く光っている。


身体は、すぐに水面に浮き上がって、ゆっくりと岸に流れ着いた。

洞窟の最深部にいるはずなのに、周囲が明るい……なぜ?


そこは、ドームのように丸みを帯びた天井におおわれた、広大な地下の池だった。

池の底や天井の岩からは、光を発する不思議な鉱石が、剣のような巨大な結晶を突き出していた。


流れ着いた砂州は、池の中央に浮かぶ小島だった。

島には、何か神殿のような建物が建っている。

細い、石造りの橋がひとつ、池の外周に向かって伸びていた。


──へえ、いい雰囲気……。


コロコロと橋に続く道まで上がってみる。橋の向こうには、暗いトンネルが続いていた。

たぶん、あっちが正規ルート……人間が、こんな地下深くにまでやってくることがあるのだろうか。それとも、今では打ち捨てられた、古代の遺跡みたいなもの……?


そんなことを考えながら、くるりと神殿のほうに目を向ける。


「キュル……!」

「あ……」


バッチリと、目があった。

神殿の入り口に、少女がひとり、立っている。

魔法使いのように、とんがり帽子をかぶった黒髪の少女は、長く尖った耳をピクリと震わせた。


「お師匠さま──お師匠さま、何かいますっ!」


警戒した少女が叫ぶ。唇からのぞいているあれって……犬歯っていうより、牙?

神殿の中からは、間延びした男の声がした。


「大きなモンスターか?」

「いえ……小さな、ボールのようなモンスターです」

「攻撃されそうなのか?」

「驚いているみたいですけど……襲ってはきません」

「なら、そいつは放っておけ。それより、集中しろ。俺が合図をしたら、全速力で逃げるんだ」

「はいっ──」


──なに、逃げるって言った? 何から……?


そのとき、ゴゴゴゴゴゴゴゴと地響きがしはじめた。

澄み切った池の水面が、小島を中心に同心円状に波打ちはじめる。


神殿の入り口から、茶色い革のジャケットを羽織った男が、何かを抱えて駆け出してきた。

強い光を放つ、青く輝く石──ひとの頭ほどもある、卵型の宝玉だ。


「ミアッ、走れっ! 思ったより、反応が早いっ!」

「師匠っ、待ってくださいぃっ!」


ふたりが、わたしの横を駆け抜けた瞬間──


ザバァァァァァァァァァァッ


神殿の向こうの水中から、巨大な生き物が首をもたげた。


──恐竜っ……ドラゴン? 何なの、あれっ!


なめらかな長い首は、高い地下空間の天井まで届きそうだった。

尾ビレのついた尻尾が、ビュンと勢いよく伸びて、橋の真横の水面を叩く。


「ああっ」


突然の波に襲われた少女が、バランスを崩して端から池の中に落下した。


「ミアッ!」


師匠と呼ばれていた男が、手を伸ばす──その拍子に、抱えていた宝玉が滑って、ドボンと水音を立てて沈んだ。


「くそっ!」


男が悪態を吐いたとき、


「ギャオォオオオオオオオン!」


水の中の竜が咆えて、ザザザザザと一瞬で島を回りこんだ。

巨大な頭が橋の上に伸びて、ガチンと牙が打ち鳴らされる。間一髪でかわした男は、水の中に飛び込んだ。


竜が忌々しげに喉を鳴らす。

ふいに、その鋭い視線が、橋の反対側の水面に向けられて、フンと鼻息を吐いた。


──あの子……意識を失ってる──!


水面には、プカリと浮かぶ少女。

竜は巨体を器用にうねらせると、橋を乗り越えるように首を伸ばす──


──ええい、旅は道連れっ!


わたしは、全力で触手を伸ばしてジャンプした。

ふいをつかれた竜が、驚いたように見開いた目に、わたしは力いっぱい、触手を突き立てた──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ