序章 転生したら、お姫さまに**していた件
えー、どうも、瑞波らんと申します。
気合を入れて書いている、長めの作品『はつサポ!』も連載中です!
なのですが! ゆるーく書いて、ゆるーく読んでいただける作品も作ってみたい欲求にかられ……。
ちょっと浮気です……火遊びです……(いかーん!)。
あー、頭が疲れたーってときに書いていきますので、ぬるーく見守っていただけると幸いですっ!
R18っぽい出だしですが、あくまでR15ですっ!(←当社比)
「ひぐっ……あふっ……いやぁ……」
薄暗い洞窟にこだまする、あやしげな声。
ヌチュヌチュと広げた腕を動かしながら、わたしは、ふと思う。
──いやー、そんなあられもない声を出されたら、こっちが恥ずかし……はいっ!?
視界が、グニャリと動く……のではなく、柔らかい触手の先にある目玉の位置が、グネグネと迷走した。
──ええっと……これって、一体、どういう状況!?
目の前には、手枷をはめられた、可憐な銀髪の女の子。
ドレスは引き裂かれてボロボロになっているけれど、光沢を帯びた絹糸で丁寧に刺繍された高級品だ。
──おひめ……さま……?
わたしは、全身から伸ばした無数の腕で、姫君のか細い身体を押さえつけていた。
そして……一部の腕は、服の中に侵入して、やわらかい肌に触れている。
桃色の唇にねじこんだ細い腕が、くすぐるように姫君の頬の内側をなぞっていた。
「あぐぅ……もぅ……やめてぇ……」
恥じらいに真っ赤になった姫君は、目に涙を浮かべて懇願する。
──ぬわんじゃああ、この放送禁止的な状況はぁっ!!
わたしは、混乱した頭で、考える。
夢──?
でも、わたしは今朝もいつものように、しっかりと目覚めたはず。
ベッドを這い出て、手早く朝食を済ませてから、アパートの部屋を飛び出したのではなかったか。
今日は、大事な企画会議の日──遅刻しかけであわてたわたしは、大通りの信号を渡ろうとして……渡ろうとしたとき、何か強烈な光が射した。とっさに目をかばって……あとは、爆風のような強い力で、身体が宙を舞った感覚しかない。
交通事故──それとも、何かの爆発……?
それから、何があっただろう。
たしか、真っ白な空間にポイッと放り出されて、ギャッと悲鳴をあげたのだった。
その空間はどこまでも白く、均一な光に満たされていて、遠近感がまったくつかめない。
「ああ、もう……めんどくさいことに巻き込んで、ごめんねえ」
突然、気の抜けた声をかけられて、わたしは飛び上がった。
顔は──思い出せない。
そこにいたのは、なんだか、やさっとした、ユルフワな青年だった気がする。
「はっ、はい?」
「ええっと……32人目。大島みずきさん。25歳。会社員。はい。とりあえず、あなた死んだので」
「──っ!?」
「はいはい。死の受容に至る心理学的ファイブ・ステップみたいなのは、ちゃっちゃと省いてね。否定しても怒っても、申し訳ないけど、あなたは死んだので」
「はあ……」
「今回は、いろいろ問題が大きくてね。いちおう、関係者のみなさんから、ヒアリングすることにしたんだよ──来世へのご希望を」
「希望……来世の?」
「うん。生まれ変わったら、どんな生涯を送りたいかって」
──この人……何、言ってるんだろ?
あまりにも唐突な話に、頭がついていかない。
「ごめんねえ、急に言われても思いつかないよね。ただ、ちょっと後ろの人もつかえてるんで、とりあえず思いついたことを言ってよ。なんかあるでしょう、やり残したこととか、前世で経験できなかったこととか」
「経験できなかったこと──」
なんだろう、たいした人生を送ってこなかったから、経験してないことなんて、山ほどある。
仕事も駆け出し、お金持ちになったこともないし、大好きなマンガや小説みたいな大冒険も、したことなんかない……もちろん、大恋愛も大失恋も経験なし。
神さまのような青年は、手に持ったバインダーを、トントンと指で叩きつづける。
いらだってる? 急いで何か言わないと……何の希望もかなわずに、来世に送られてしまうかも──。
「うーん、えーっと……じゃあ、大人の恋愛、とか?」
「おっ、いいねいいね。みずきちゃんの思う、大人の恋愛って、どんなイメージ?」
──いきなり、みずきちゃんかよ……。
「こう……濃厚っていうか、ちょっと背徳感があるとか……あ、でも不倫はいやです。今までの人生では、その……に、肉体的に? 触れ合った経験とかも、あんまりないので……」
「あー、ほんとだねえ。結構、残念だったねえ、今回の人生は」
カルテのような紙をペラペラとめくって、神さまっぽい青年は、サラッと失礼なことを言う。
「あ! あと、できれば、魔法とか使ってみたいです!」
「魔法? ──唐突だなぁ」
「いや……この状況のほうが唐突だと思うんですけど……」
「あははっ、それもそうだねっ。よし、じゃあ……濃厚な背徳感とエロス、あとは剣と魔法の世界、ということで」
神さまらしい人は、カリカリと書類にペンを走らせる。
──いや、エロスとは言ってないような……。
「まあ、こういうのは僕らにとって、大喜利みたいなもんだからさっ。多少、イメージとズレても許してね」
「あっ、あの……でも、わたしまだ、両親にも何も──」
青年は、はじめて、少しだけ悲しそうな顔をした。
「ごめんね、みずきちゃん……前世で大切だった人たちには、たぶん、もう会えないと思う」
「そんな──」
「もちろん、霊魂の世界に絶対はない……でも、あまり期待はできないよ」
「だったら……だったら、希望に追加しておいてくださいっ、前世で大切だった人たちに、なるべく会える来世がいいって」
「ふむ……構わないけど、家族や友達でも、本人の希望が優先だからさ。同じ世界に転生できるとは限らない。まあ、記録には残しておくよ。じゃあ、次の人も待ってるから──行っといで」
トンッ
神さまのような青年は、わたしのおでこを、軽く指で突いた。
その瞬間……わたしの意識は、フッと途切れた──。