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月影のエレメンター(なろう版)  作者: ハイエナ=エレメント
五神祭編第三章・Asterisk
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Awakening・第七十四話

・リヒテンベルク図形

 『ブリタニカ国際事典』より

 気体中の固体表面における沿面放電によって得られる図形のこと。樹枝状に分岐した放射模様を呈している。

 望月朧もちづきおぼろ破沙羅バサラ山滉穎やまこうえいに接近するのを相棒の神格武器、「竜月」で阻害していたが、敵の増援が到着してしまい、その余裕も無くなってしまっていた。

 おぼろは部下の若男と共に再び森の中の混戦へと身を投じた。




 一方、狙撃手からの妨害を退しりぞけた破沙羅バサラは落雷の中をマニプーラ・チャクラによって強化した視覚で避けながら着実に滉穎こうえいへと近付いていた。


 いまだに滉穎こうえいが動く気配はなく、それにアスタグレンス=リヴァインは慌てていた。


 自身の神格武器、「ウラノス」を顕現させ、ようやく《無間地獄》の反動による震えが収まりつつある右手でテロリスト達をほふっていく。


 だが、いつもは正確無比な彼女の光弾は思う様に当たらず、彼らの勢いを止めることはできない。


 洋館の屋上からは不気味な笑い声が聞こえ、それがアスタグレンスの不安をあおり、焦りを増長させていた。




 青白い稲妻が雲の中を走り、数秒の間隔もなく落雷が彼らの周囲に落ちていく。神の怒りを体現した様なそのとどろきは当初こそテロリスト達をおびえさせたが、その効果は今は小さい。


 黒雲に覆われた空により、日中にも関わらず日光は遮られ、まるで暗黒の夜へと辺りは変貌していた。


 しかし、雷の閃光により光には困らなかった。もはや十秒に四から六回は落ちる落雷により、暗き夜に光をもたらしていた。だが、その光景は幻想的でありながらもどこか人の恐怖を煽るものだった。もし、洋館が荘厳な城であれば、人々は魔王城を連想したかもしれない。


 そんな中、また雷光がひらめいた。一億ボルトは超える電圧を持つ青白いイカズチは、この光景を作り出した張本人へと吸い込まれる様にして向かって行った。




 普通ならばその一撃で死ぬはずだった。だが、神威すら感じられるイカズチを浴びたその本人は、先程と変わることなく、その場に立ち尽くしていた。

 いや、外見は変わっていた。落雷によるものか、彼の服が溶け、上半身がさらけ出されていたのだ。


 しかし、そんな些細ささいなことを気にする者はいない。


 周囲の者達は、アスタグレンスでさえも今見た光景を信じられないのだ。当たれば即死になるであろう神威のイカズチを、《ライトニングフィールド》によって強化された落雷を、その身に受けて傷一つなく立っているのだから。


 敵味方関係なく呆然となる中で、彼が動き出す。

 それはまるで、死を与えるはずの稲妻が、彼にだけは生命力を与えたかの様であった。


 そして彼は、滉穎こうえいは雷閃の中で呪文を紡ぎ出す。彼の声は雷轟の中にも関わらず、辺りに響き渡っていた。


「《我は雷竜を従えし月影なり》」


 おもむろに、悠然と、滉穎こうえいは歩き出した。しかし、その眼は何故か閉じられたままだった。

 滉穎こうえいの身体に稲妻を模した様な青白い紋様が浮かび上がり、それは腹部から蛇の様に胸部へと這い上がっていた。


「《信義を貫き、仁愛を懐き、権利を守り、智慧を磨き、功利を求め()》」


 そこで我に返った破沙羅バサラは本能的に悟った。()()が解き放たれれば、自分達には死が待つのみだと。


「《今、我は時機を得たり。海を千年、山を千年生きし蛟竜は、其の真価を発揮す》」


 その稲妻の紋様は胸部から肩へ、首へと這い上がり、その経路上に青白く発光する雷を刻み込んだ。


 その刻印を見たアスタグレンスは、何かに気付いた様に目を細め、呟いた。

「リヒテンベルク図形?」


 リヒテンベルク図形はさらに滉穎こうえいの頬へとい上がっていた。


「《此の時、此の場所に限り、我は、英雄へと至ら()》!!」


 配下の者達と共に、破沙羅バサラは最高速度で滉穎こうえいへと迫った。


 稲妻の紋様は頬を通り、頬にリヒテンベルク図形を刻み付けながら目へと到達した。


 そして、滉穎こうえいはカッとその眼を開眼させ、まるで鬼の様な気迫を伴って呪文を唱えた。

「《雲蒸竜変めざめろ》!!!」


 その時、滉穎こうえいの身体の左上半身に刻まれていた稲妻紋様はその青白い光をより一層強め、大きく開かれたその眼はエメラルドグリーン色に染まり、強く鮮やかな緑色の光を放った。

 同時に、黒雲から蒼白のイカズチが地上に放たれ、それはジグザグに曲がりながらも真っ直ぐ滉穎こうえいの元へと向かった。滉穎こうえいは手を伸ばし、その稲妻を素手でつかんだ。すると、電流がほとばしった後に、彼の右手には六尺棒が握られていた。


 その異常な姿に、カーリーの者達は破沙羅バサラを除き、付き、立ち止まってしまった。そのため、破沙羅バサラは独り、滉穎こうえいに向かって黄金色のオーラを伴って接近していた。

 しかし、そのために破沙羅バサラが命拾いしたのは、まさに皮肉と言うべきだろう。




 滉穎こうえいは自然体の状態から一変、その場から姿を消した。いや、姿を消したのではなく、速過ぎて見えなかったのだ。先程まで滉穎こうえいが居た場所は、彼が巻き起こした風によって灰が散っていた。


 その時、破沙羅バサラは第六感が働き、咄嗟に両手で身体をかばった。

 その瞬間、破沙羅バサラは見えない力によって弾き飛ばされた。いや、これも速過ぎて見えなかったのだ。


 破沙羅バサラは何とか急所を外し、チャクラで打撲した身体の修復を早めていた。

 彼が次に目を開き、仲間の方を見た時には、立っている者は一人として居なかった。


 代わりに広がっていたのは一筋の蒼白の色をした光の軌跡。そして、空間内にほとばしる電流と彼を守る様にして落とされるイカズチ




 破沙羅バサラは思い直した。


 何が《無間地獄》よりも《ライトニングフィールド》の方がましだ、だ。圧倒的な力は同じだが、理性がある分、そして見えない分、こちらの方が何倍も恐ろしい、と。


 しかし、破沙羅バサラは恐怖を感じつつも笑みを浮かべ、《天眼通》を発動させた。




 滉穎こうえいはテロリスト達の腹部に容赦なくその六尺棒で攻撃を加える。

 《雲蒸竜変》によって格段に上昇した身体能力に加え、《ライトニングフィールド》で増強された電気系魔法の効果により、その一撃は狙撃銃のそれよりも重いものとなっていた。


 反応する暇すら与えられず、むしろ攻撃された事にすら気付けず、しかし確かに臓器は内部破裂し、彼らは木々も破壊しながら弾き飛ばされていた。


 一瞬にして滉穎こうえいの周囲にいたカーリーはその場から消え去り、運が悪ければ死に、良くても臓器破裂によって待っていたのは絶え間ない苦しみだった。


 その重い一撃は破沙羅バサラにももたらされたが、彼は《天眼通》により攻撃を事前に予測し、力を上手にいなしていた。幸い、滉穎こうえいは身の丈に合わない強大な力に翻弄されているのか、いなすのは比較的簡単だった。しかし、一撃一撃が重く、彼の手は攻撃をいなす度にしびれ、追い詰められていた。




 彼の覚醒に一番驚いていたのはカーリーの指導者、悠牙ユガだった。


「何だ、何なんだ!?

まさか、()()()が望んでいた力は、皇族の力ではなく、あの小僧のそれなのか!?」


 悠牙ユガは気付けば、走り出していた。それは、恐怖心から来た本能的な逃走だったのか、それとも復讐の完遂に失敗することへの怖れから生じたものだったのか、彼には分からない。

 しかし、逃げ出したのは確かだった。

 カーリーの指導者という不本意な地位も、腹心の破沙羅バサラも放り出して、ひたすらに走った。地下を通り、森の奥の奥へと。ひたすらに。


 その途中で、多くの亡きがらが彼の眼に映った。それらはほとんどがあの憎き小僧と、皇族の少女が殺ったものであった。


 ああ、何故もっと早くに気付かなかったのか。目覚めさせてはいけない奴らを自分達が叩き起こしてしまったということを。


 悠牙ユガは後悔の念に駆られながら走り続けた。




 アスタグレンスは彼女を人質とするために、カーリーの者達に再び囲まれていた。しかし、そこに余裕の顔色は見られないし、むしろ恐怖が彼らの心を支配していた。

 まともに抵抗する力が戻って来ていないアスタグレンスはその腕を捕まれ・・・・・・なかった。


 いつの間にか周りにいたテロリスト達は消え去り、目の前には青白い軌跡を後ろに残す滉穎こうえいが居るのみであった。


「こうえい・・・・・・あなたは、いったい・・・・・・」

 何者なのか? そう問い掛けようとしたが、彼女の喉でその言葉は止まり、そして音に変換されることは無かった。




 滉穎こうえいは彼女の言葉には答えず、代わりに手を差し伸べ、彼女の手を引いて立たせようとし、笑いかけるだけだった。


 しかし、二人の間に長く流れた様に感じた沈黙も、刹那の間に打ち破られる。


殿()()、一つだけ言いたいことが。

()()は過去を繰り返さないために歴史を学びますが、それだけではないんですよ。


僕達は、過去から()()()()()()()に過去を学び、反省するんですよ。

僕は・・・・・・貴女あなたを過去から自由にしたい。ただそれだけのために、貴女をまもります」


 アスタグレンスはハッとして顔を見上げた。


 そこで彼女の瞳に映ったのは、鮮やかに発光するエメラルドグリーンの瞳。そして、それにまるで電力を供給しているかの様な、これもまた蒼白の光を発している彼の頬に刻まれた稲妻紋様のリヒテンベルク図形。


 彼女は胸の高鳴りを感じつつ、彼に問い掛ける。


「何で、何でそこまで・・・・・・。

私は貴方あなたに何もしていません。された覚えもありません。

何で、そこまで・・・・・・そこまで私を助けようとするのですか!

天災の私に巻き込まれて貴方まで死にそうになったのに!

護りたい・・・・・・などと」


 アスタグレンスは声を荒げながら彼と距離を取っていた。しかし、距離を取る度に、彼女の顔は悲しみの色に染まっていく。


 そんな彼女を見ながら、滉穎こうえいははっきりと、強い覚悟を持って答えた。


「最初は、僕のただの傲慢でした。

僕は今まで、自分を死神だと思っていました。人々を争いに駆り出し、そして愛する者でさえも死に至らしめる。

僕は・・・・・・貴女を助けることで、そんな自分を否定して、新たな希望を見ようとしているんです。


でも・・・・・・優しい貴女を見ていたら自然と力になりたいと考えていた。要するに、惚れたんですよ。

理由としては、貴女が望むものではないでしょうがね。

それでも・・・・・・、

貴女を救うことで、僕も救われる。

貴女を護ることで、僕も守られる。

貴女が笑顔になることで・・・・・・僕も心の底から笑うことができる。


だから・・・・・・ここから先は僕の傲慢ではなく、お願いです。

どうか、この手を握って立って下さい」


 そう言って、滉穎こうえいは稲妻が腕に走り、リヒテンベルク図形がしっかりと刻まれていた右手を差し出した。


 アスタグレンスは滉穎こうえいの言葉に面食らっていたが、やがて頬を朱に染め、そしてその華奢な左手を強い覚悟と共に滉穎こうえいの右手に乗せた。妖艶な雰囲気を纏いつつも、その反応は初心うぶそのものであった。


「責任は取ってもらいますよ?」

「喜んで」


 滉穎こうえいはアスタグレンスの手を引っ張り、地面に立たせると、彼女を背に覆う様にして背後を振り返った。




 すると、そこにはいつ取ったのか、剣を右手に握った破沙羅バサラがゆっくりと滉穎こうえい達に近付いていた。

 可視化されている黄金色のオーラは相変わらず照り輝いていたが、心なしかその輝きは弱まっている。

 おそらく、次の攻撃でもう限界を迎えるのだろう。彼にとって最後の攻撃のチャンスである、ということだ。


 これに対し、滉穎こうえいは何も言葉を発せず、悠然と六尺棒を頭上に構え、突きの姿勢を見せた。


 破沙羅バサラも剣を上段に構え、低い咆哮と共に炎をその剣にまとわせる。黄金色のオーラは全て剣に凝縮され、炎は天にも届く勢いを見せた。


「はああああああああああ」


 対して、滉穎こうえいも蒼白の稲妻刻印から電流を走らせ、六尺棒をリヒテンベルク図形で侵食していく。六尺棒は電気を纏い、稲妻紋様がその全てを覆い尽くした。


 炎と雷を纏わせた両者はますますその勢いを強め、向かい合う。しかし、両者の間には敵意は無く、殺意も無い。ただ、どちらが上回れるか、その闘争心だけだった。


 そして、両者は同時に動き出した。


「うおおおおおおおおおお」

 破沙羅バサラは低く野太く、力強い咆哮を響かせながら滉穎こうえいへと迫る。


「"青龍刀"!!・・・・・・《偃月》!!!!」

 二人が接敵する直前、滉穎こうえいの腹部から稲妻刻印を通って青白い雷が六尺棒にまで到達し、そしてまばゆい蒼白の光を放ちながら六尺棒は変形した。




 赤と黄金が混ざり合ったオーラと、青白く光る稲妻。二つの光が衝突した時、辺りは一際眩しく輝いた。


 上段から振り下げられた剣と刺突した滉穎こうえいの六尺棒、いや青龍刀が高い金属音を鳴らした。そして、一瞬の鍔迫り合いの後、破沙羅バサラの剣が砕けた。


 滉穎こうえいの青龍刀は破沙羅バサラの胸元に突き刺さり、光が消え去った時、二人はその状態で硬直していた。




 胸に刃をもらい、深手を負ったはずの破沙羅バサラは何故か満足気に、しかし少しばかりの後悔をその顔に浮かべていた。


 滉穎こうえいの六尺棒は薙刀なぎなたの形に近い青龍刀へと変化し、その柄には青龍が刻印され、刃からは稲妻が空気中に放電されていた。


 その胸元から青龍刀を引き抜いた滉穎こうえいは、力を使い切ったのかその場に座り込む。


 破沙羅バサラは胸に手を置くも、血が止まることはなく、むしろ自身の血圧により動脈の傷は広まるばかりであった。破沙羅バサラは後ろ向きに倒れ込み、地面にその巨躯を横たわらせた。


「フフフフフ」


 死に体の破沙羅バサラは最後の強がりなのか、それとも戦いに打ち勝った()()たたえてなのか、穏やかに笑った。そして、手を天に伸ばし、何かを掴もうとしていた。


「ああ。ここまでか。見事だ。若きエレメンター。

今、くぞ。・・・・・・よ」


 そうして、二人の前に立ちはだかっていた天敵はその目を閉じ、静かに、その一生を終えた。然る後にその巨躯から青白い炎が内から生じ、二人を苦しめたその黄金の覚醒者はその身体を灰へと変えた。




 滉穎こうえいはその光景を静かに、しかししっかりとその眼に焼き付けていた。

 彼を大いに苦しめたはずのその男に、彼は最後まで憎しみという感情を持てなかった。もしかしたら、敵意すら無く、殺意すら無かったかもしれない。男に勝てたということに、誇りさえ抱いていた。


 滉穎こうえいはその男が灰へと変わっていくのを見届け、そして彼もまた地面に横たわった。


 だが、彼の頭部は硬い地面に触れることはなく、柔らかい何かに接触した。


 それが何かを理解するのに、疲労していたからか、それとも衝撃的過ぎて受け止められなかったのか、随分と時間がかかってしまった。


「グレンス?」


 滉穎こうえいの頭部は彼女のももの上に置かれていたのだ。

 滉穎こうえいは彼女の名前を呼ぶも、本人は穏やかな笑みを浮かべるのみで、答えることは無かった。


 しかし、それが滉穎こうえいには心地良いものに感じ、静かに流れる時間を堪能していた。


 長く続いた戦いにより疲弊ひへいし、滉穎こうえいは眠りそうになっていたが、まだ戦いは終わっていない。すぐにこの場から離れたかった。

 だが、この時間をもっと長く味わいたかったのもまた事実であった。


 そうしている内に、滉穎こうえいの唇に柔らかい何かが触れた。

 滉穎こうえいは意識が微睡まどろんでいた事を心底残念に思った。

・雲蒸竜変

 『史記魏豹彭越伝賛』より。

 雲が群がり起こるのに乗じて、蛇が竜となって昇天する意。英雄豪傑が機会を得て立ち上がること。


 滉穎こうえいの固有魔法。固有領域エレメントの《ライトニングフィールド》を展開させ、落雷を発生させる黒雲を操れる様になる。場合によっては雨も降らせることができる。大幅な身体能力上昇と、雷属性系の魔法の威力増大、効果増強を及ぼし、神格武器として「青龍刀」《偃月》を召喚できる。

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