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月影のエレメンター(なろう版)  作者: ハイエナ=エレメント
五神祭編第三章・Asterisk
64/109

Fight or Flight・第五十八話

・デュエット

 二重奏。


・カルテット

 四重奏。

 五神祭初日の第一試合、フレア帝国とトイラプス帝国ベータチーム対決はいよいよ終盤に差し掛かることになった。


 松尾冬輝まつおとうき石田魁いしだはじめが相討ちに終わってからというもの、ニチームの試合は拮抗した姿勢を見せ、遂にリーダー同士の対決となるまでに至ったのだ。




 これまでの経緯を説明しよう。

 冬輝とうきはじめの二人がフィールドから退場してから次に召喚されたのは木村捷きむらさとしとフレイマー=ウィックドであった。

 さとしは、交代する前にフィールド「森林」を最大限に活用して張り巡らせたトラップを発見されるまで補強することに成功し、対戦相手を大いに苦しめた。

 しかし、攻撃にも防御にも秀でてはいたが、所謂いわゆる器用貧乏とされる彼にはフレイマーを倒すことは叶わず、逆に一瞬の隙を突かれて敗北した。


 だが、さとしが創り上げたトラップだらけのフィールドの活用と、甚だしく疲労していた相手の状態もあり、次に出て来た小栗臥龍おぐりがりょうは容易にフレイマーに勝利を決めた。


 臥龍がりょうは続けて召喚された中村耀佑なかむらようすけを威力任せの《振動増幅型攻撃》と《獅子吼》によって所謂いわゆるゴリ押しでぎりぎりの勝利を収めるかと思われたが、思わぬ炎の反撃を受けて敗北した。


 後続の稲垣翔祐いながきしょうすけ耀佑ようすけの猛反撃に苦戦をいられた。しかし、以前のイオパニックでの狂戦士バーサーカーとの対決を彷彿させる戦いで彼は火炎使いに勝った。


 次に登場した細剣使いのオルター=クライシスは、翔祐しょうすけを圧倒するスピードで彼を翻弄し、電気属性の攻撃もはじめに劣らぬ風魔法によって完封した。

 観客は、白熱した刀とレイピアーーー山滉穎やまこうえいは剣道とフェンシングと例えたがーーーの接近戦に冬輝とうきはじめの戦い以上の興奮を覚えていた。

 しばらくの間は伯仲した剣の戦いが続いてはいたが、先の耀佑ようすけとの戦いでの疲弊していた翔祐しょうすけに対して、先程まで体を休めていたオルターに分があったようで、最後の一時的解放のぶつけ合いの末、日本の武士は西洋の剣士に敗れた。


 そして、キャプテンである滉穎こうえいがフィールドに現れた。

 彼はヴァトリー家に伝わる忍術の一つである《繋風捕影けいふうほえい》を駆使してオルターの認識から自身を消し去り、後ろからの不意の一撃によって戦闘不能におとしめたのだ。




 そうして、現在に至る。


 今、山滉穎やまこうえいの目の前には、犬猿の仲であるイヴァン=J=グランドウォーカーが立っていた。

 と言っても、二人の距離は三百メートルを超えており、互いにぎりぎり視界に入るぐらいだった。

 しかし、滉穎こうえいはイヴァンの目を確かに見据えていた。それは、イヴァンからも同様だった。


 試合開始の合図は二人には要らなかった様だ。

 二人はほぼ同時に駆け出しーいや実際に韋駄天走りをしたのは滉穎こうえいのみで、イヴァンは神格武器を召喚していたがーその距離を縮めていった。 




 その様子を観客席から眺めていたルクス=カンデラは、戦局を冷静に分析し、隣の小川おがわに説明するかの様に呟いた。

「この戦い、長距離戦になるか近距離戦になるかによって勝敗が決するだろうね。

はっきり言って、滉穎こうえいは遠く離れた相手に対する攻撃技を投げ槍や弓矢程度しか持ち合わせていない。

対して、イヴァンのソナチネは剣という形こそ取りつつも、彼の得意属性から考えて、おそらくは長距離または中距離が真骨頂となる。だから、距離を保てば滉穎こうえいを一方的に攻撃できる。

しかし、逆に言えば、それは肉弾戦になった瞬間に滉穎こうえいが圧倒的な優位性を持つということ。

彼はイヴァンのアドバンテージを消しつつ、自分の十八番おはこにイヴァンを引き込むために距離を縮めようとするだろうね。

もちろん、イヴァンもそれを理解しているだろうから最初から猛攻撃を繰り出す。

二人の勝負は、最初から激しくなるよ」

 小川おがわは、ルクスの言葉に相槌あいづちを打ちつつ、疾風のごとき速さの滉穎こうえいと、彼を烈火の如く攻撃するイヴァンに視線を送った。


 何故か浮かんで来た「最初からクライマックスだぜ」という台詞せりふは思考の隅に追いやり、これから始まるだろう竜と虎のに闘いに期待を膨らませた。




 いや、二人は犬猿の仲なのだから、戌と申の戦いというべきだろうか。しかし、それは何とも迫力が欠ける。それとも中国の歴史書にもある様に、両虎の争いのというべきだろうか。それも、相討つ、とあり、さらには小さきものに横槍を入れられるのだからやはり適切ではない。

 じゃあ、やっぱり竜と虎か。


 という小川おがわ余所よそに、竜虎の決戦は苛烈さを増していった。




 滉穎こうえいは、交代によって一時中断された試合の再開を合図する機械音を聞くと同時に走り出した。


 今までの戦いにより、かしで成っていた照葉樹林は斬られ、焼かれ、もしくは根本から吹き飛んで視界が開けていた。

 そのため、イヴァンの姿を容易にその目に映していた滉穎こうえいは迷うことなく、一直線に走り出したのだ。


 もちろん、イヴァンはそれを黙って見ているはずはない。

 彼はおもむろに剣を取り出し、かの神格武器を喚んだ。

「ソナチネ!!」

 右手に握られたそれほど重くなさそうな剣は、まるで日の光を纏うかの様に辺りの光を集束し始めた。

 剣は徐々に神々しさを倍加させた新たな形に変形し始め、滉穎こうえいが百メートルを通り過ぎようとした所で完全現界ターンアップした。


「《デュエット・()()()()》!」

 そうイヴァンが唱えた瞬間、滉穎こうえいの周りに目の前のイヴァンと瓜二つの人間が無数と思える程浮かび上がり、彼を取り囲んだ。

 無数のイヴァンは、滉穎こうえいに雪崩れ込む様に接近し、剣を振るい始めた。


 そして、彼が少なからず動揺し、辺りに目を移したその刹那で、遠く離れていた本物であろうイヴァンはいつの間にか消えていた。




 なるほど。どうやら目の前のあいつらは幻術・・・・・・は使えるはずがないから純粋な光と音属性の魔法だろう。イヴァンの姿だけでなく、足音さえも聞こえるからな。

 これだけの規模は神格武器による演算の手助けがないとルクス先輩でも厳しいだろう。故に、おそらくは聖句であるはずだ。


 そう考えながら俺は、《perfect vision》を発動した。

 周囲三百六十度からの攻撃を目の前の視覚情報と聴覚によって捉え、そのことごとくをかわす。


 光によるあいつの呈示であるのだから、あのイヴァンに実体はない。そうなると、俺には避けるという選択肢しか無くなり、少し厳しいものがあるが、それはこの聖句を展開し続けているあいつにとっても同じであるはず。

 一気に突破は難しそうだから、あいつがこの聖句を中断した瞬間が攻撃するチャンスだ。


 そう思考を巡らせながら俺は後ろから迫っていた剣をぎりぎりで回避する。


 この攻撃も自分にダメージがあるかどうかは分からない。しかし、まともに受けるという選択肢はない。高出力の光レーザーであった場合、俺が受けることになる損傷は洒落にならないからだ。


 正面からの振り下ろしをバックステップで避け、死角となっていた所からの斬撃を音を頼りにサイドステップでかわす。

 続けて、左右両方からの同時攻撃をバック転によって回避し、そのまま一回転して後ろへ退いていく。


 はっきり言って、包囲されているこの状況では全方位に注意を払わなければならず、意外と大変だ。

 もちろん、できなくはない、というより実際できているのだがこれが持続する可能性は楽観的には測れない。




 そう俺が考えた刹那、周りのプログラムされた様な動きをするイヴァンとは様子が違う、明らかに本物と思える様な個体が一体飛び出して来た。


 俺は、回避行動の中で咄嗟に拾っていた小石を投げ・・・・・・そして小石はそいつの身体を通り抜けた。


 本物と思ったが、どうやら偽物らしい。

 イヴァンも先程ので学んだのか、おそらくは聖句による分身イヴァンの数はかなり少なくなり、その代わり動きが複雑になっていた。


 さっきまでは、ある程度プログラムされた様な動き方であったので避けることは容易だった。

 しかし、今度はより死角を突き、フェイントをかけようとして来るために、少し余裕が無くなってきた。


 だが、数が少なくなったことで逆に包囲を抜けることの難易度も下がった。


 ある一点に層の薄い所を見つけ、予備動作なしでそこに駆ける。




 この包囲網を脱出したからと言って、分身のイヴァン達の対処ができた訳ではないが、魔法を一旦中断して再構築するのは意外と魔力がかかる。

 イヴァンも莫大な魔力量を有しているのは想像にかたくないが、崩壊、再構築の繰り返しは苦しいはずだ。




 しかし、あいつは俺の考えを読んでいた様だ。

「呈示・展開終了(コールオフ)。《再現》」


 死角からの攻撃だった。後ろに置いてけぼりにしたと思っていた分身のイヴァンの一人が予想外の速さで連続突きを繰り出したのだ。

 俺は、持ち前の危機察知能力で初撃をぎりぎりかわすが、二撃目、三撃目、さらに五撃目を腕や肩に食らう。




 あり得ないことだった。


 別に考えを読まれたことはそれ程驚くことでもない。今考えれば、あの場所をわざと薄くすることによって俺を誘い出したのだろうし、そこに攻撃が来ることも予想はある程度していた。


 しかし、それはあくまで遠距離攻撃での話だ。

 俺が食らったのは剣による刺突。しかも間合いは一メートルもなかった。

 だが、その攻撃を予想していなかった俺は対処に遅れ、その代償として今腕と肩から血を流すことになった。


 それだけではない。

 運動音痴のイヴァンがあの速度で、しかも重量がなかなか有りそうな剣で刺突を繰り出したことが何より俺を動揺させた。

 まあ、やはり本人の身体能力の底が見えるというべきか、俺の急所を狙った攻撃は守ることはできた。

 だが、あれはどう考えても異常な事態だった。




 そう言えば、あの技には見覚えがある。というよりも、さっき見た。

 細剣使いオルターの五段突きだ。

 しかもあいつは《再現》と言った。

 ならば、考えうることは一つ。ソナチネの聖句の一つ、《再現》は技をあらかじめ記憶し、再起して発動するもの。


 これは、まずいな。

 近距離戦のアドバンテージが完全に無くなった訳ではないが、あの技があることで正面から堂々と仕掛けらない。

 あの五段突きは剣ーーー刀だがーーーによる戦いを得意とする稲垣いながきでも全てを捌けていなかったのだから、全て避けられるというのは楽観に過ぎるからだ。




 まあそれでも、戦局は少し俺の優位に傾いた。何せあいつ自身から俺に近付いてくれたのだから、この機会を活かさない手はないだろう。


 しかし、あいつは《再現》に続けて聖句、いや一時的解放を発動した。


「ソナチネ! 《魔弾の射手》」

・plantの意味

 一般的には、「植物」や「施設・設備」などの意味があるが、「盗品・隠匿物」、「策略・罠」、「伏線」などを始めとした多くの意味を持つ。

 また、動詞で一般的ではないが、「(爆弾など)を仕掛ける」、「を隠す」、「(死体)を埋める」、「を隠す」という意も有る。

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