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月影のエレメンター(なろう版)  作者: ハイエナ=エレメント
五神祭編第ニ章・五神祭
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墨痕淋漓・第五十三話

・墨竹

 六花の対となる神格武器。

 墨をモデルに魔草の一種である闇竹から創られ、闇属性を得意とする。

 現在の所有者は、松尾冬輝まつおとうき

 石田魁いしだはじめ松尾冬輝まつおとうきに大きなダメージを与えても慢心することはなかった。


 彼はすぐさま吼天氏こうてんしを振り上げ、《鎌風》の連撃を繰り出した。




 一方、冬輝とうきはじめに仕掛けられた罠の正体に勘付き、すぐに気付けなかった悔しさに顔を歪ませた。


 しかし、それも一瞬だった。間を置かずに攻撃をして来たはじめを見て、彼も即座に回避の態勢を取った。


 冬輝とうきに通用しなくなった《道切り》は効力を発揮することはなく、彼は縦横無尽にフィールドを駆け回る。


 比較的小柄な冬輝とうきを隠すには、充分な大きさである樫の木を盾にしながら、今度こそ、確実に、はじめとの距離を詰めていく。




 冬輝とうきの身体を覆い隠すオークの木を鬱陶しく思ったのか、はじめは《鎌風》の威力を高め、目に付いた木々を切り倒していく。


 そして、数十秒もたない内にはじめの周囲から背の高かった木は一つ残らず消え去った。

 ついに、冬輝とうきの姿を再び捉えたはじめは、今までの攻撃が手加減されたものだと思える程の連続斬りを繰り出した。




 前方から迫り来る波状攻撃は、後ろはもちろん左右の退路さえ絶っていた。


 この戦いに熱い視線を送る者達は、今度こそ六花の使い手の絶対絶命だと感じた。


 しかし、それで終わる様であれば、六花が彼を主人と認めるはずはなかった。


「《てつけ》!!」

 冬輝とうきは前方に六花を突き出した。

 すると、彼とはじめの間には大きな氷壁が出現し、風の太刀をことごとく防いだ。

 役目を終えた氷壁は、空中に氷の結晶を散らばらせ、太陽の光線を方々に、幻想的に反射させた。


 それは、思いの外強く輝き、はじめの視界を狭めることとなる。


 氷壁と結晶により、はじめ折角せっかく捉えた冬輝とうきの姿を見失ってしまった。


 首をせわしなく動かし、辺りを確認すれども、氷のエレメンターが見つかることはない。


 まさか! と思い、はじめは顔を上げた。

 すると、丁度太陽とはじめに挟まれる形で冬輝とうきが飛び降りて来る。


 冬輝とうきは氷壁を出現させた瞬間に、高く跳び上がることで、はじめの視界から消え去ると共に、太陽を背にはじめを攻撃することに成功したのだ。




 はじめ冬輝とうきの姿を確認するも、その眩しさに思わず目を細め、自らその視野を狭めてしまった。


 冬輝とうきがそのチャンスを不意にする訳もなく、自由落下による加速も相まって、彼から繰り出された六花の威力は相当なものになっている。


 はじめは何とか盾で全身を迫り来る氷の剣から守ったが、その途轍もない威力をらって後ずさりをしてしまい、体勢も崩れてしまった。


 冬輝とうきは先程のお返しとばかりに、ここで、今まで見せなかった最強の切り札を展開させた。

「《紅蓮地獄》!」

 冬輝とうきは満を持して、一時的解放を発動させた。


 冬輝とうきの剣に接触していた盾は一瞬で凍りつき、彼らの周囲は急激な気温低下により白いもやがかかっていた。




 はじめは、水が盾に氷となってくっついたことによる急な質量増加に耐え切れず、その盾を落とす。

 自重により地面に突き刺さった盾は、地にまでその氷を広げ、氷の牢獄にとらわれてしまった。

 はじめは盾を失い、危機感を抱いたのかバックステップで後ろへとのがれてゆく。


 だが、《紅蓮地獄》はそれを許さない。


 そもそも、《紅蓮地獄》は個人をピンポイントで狙う一点集中の火力型ではなく、殲滅を目的とした自分を中心とする領域展開系の魔法だ。

 当然、冬輝とうきはその特性を最大限に活かし、はじめを冷気の檻へと閉じ込める。

 冬輝とうきが近くにいる限り、その監獄から逃れられることはできず、また、近くにいればいる程ダメージも大きい。




 既にはじめの皮膚は急激な温度変化により、組織が変性し、至る所が裂けている。


 冬輝とうきはフグの毒と同じで、自らは六花を持つ限り、その地獄に囚われることはない。




 ここで、攻守は逆転した。

 冬輝とうきは盾を失ったはじめに怒涛の反撃を仕掛ける。


「はあああああ!」

 勇ましい雄叫びと共に冬輝とうきは連撃を繰り出した。


 盾での防御が叶わないはじめは、片手直剣に分類される比較的長い剣でそれらを受け流していく。しかし、受ければ受ける程、刀身は六花の冷気に当てられ凍り付き、はじめは変わり続ける質量のせいで剣での防御に苦戦する。


 このままでは負ける。


 危機感と焦燥感をつのらせたはじめも、ここで初めて吼天氏こうてんしの一時的解放を発動させた。


「《黒風》!!!」

 その瞬間、空高くに向かって旋風が、黒いエフェクトを伴った暴風が吹き荒れた。

 剣にまとわりついていた氷は全て剥がれ落ち、上空へと連れ去られる。


 冬輝とうきは、洗練された危機察知能力により間一髪でそれをのがれるが、《黒風》によってフィールドの支配権は再びはじめへと移譲された。


「吹き荒れろ《黒風》!」

 はじめは剣の切っ先を冬輝とうきに向け、黒い暴風を解き放った。


「くっ」

 冬輝とうきはフィールドに広げていた《紅蓮地獄》を一点に集中させ、もう一度氷の防壁によってそれを防ごうとする。

 しかし、儚くもその()()の防壁はピキピキという軋む音の後に、乾いた音を鳴らして崩壊した。


 防風堤を失った冬輝とうきに向かい、黒い風は容赦なく吹き荒れ、冬輝とうきを上空へと連れ去った。




 冬輝とうきは体勢の操作すらままならず、為されるがままに遥か空の彼方へと誘われた。


 このままでは、場外ということで強制的に送還され、青蓮と鎌鼬の勝負は決着する。


 大半の者はそう考えていた。


 しかし、ここに諦めないエレメンターが一人。


「くそっ。こんなところで、負けられるか!」

 冬輝とうきは必死に手を伸ばした。何かを求めるかの様に。

 その手は何度も宙をかすめ、無情にも何の希望を掴ませてくれない。


 だが、冬輝とうきはそれでも諦めなかった。

 黒い暴風に呑まれ、既に傷は無数に、身体からだ中に刻まれていた。

 高速で飛ばされている砂塵が身体を掠める度に、傷は増えていく。

 もはや目を開けることさえ満足にできない。

 そんな中で、冬輝とうきはひたすらに、心の中で彼をんだ。


 こんなところで負けられないんだ。

 お前の力が必要なんだ。

 墨竹!!!


 冬輝とうきが叫んだとき、黒い風の中から一筋の光が輝き、彼を照らした。




 一方、はじめは発動させた《黒風》の操作に脳の能力の大半を使っており、戦いの中で蓄積したダメージからその表情に余裕は見られない。


 冬輝とうきの《紅蓮地獄》は既に消滅し、その効力を失っているが、彼の身体は先程の沍陰ごいんをまだはっきりと覚えている。

 その感触が、彼の脳を時折ときおりむしばみ、《黒風》の支配を手放しそうになってしまう。


 だめだ。今、《黒風》の威力を弱めれば、必ず冬輝とうきは反撃に出る。

 このまま、場外に出すんだ!


 そうはじめは自身に発破はっぱをかけることで、極寒地獄の後遺症から耐えた。


 だが、その決意も次の瞬間にはむなしく消え去ることとなる。


 操作に集中して、しばらく目を閉じていたはじめだったが、異様な胸騒ぎを覚えて不意に空を見上げた。

 その刹那。

 黒い暴風をそれよりもさらに黒い、いや漆黒の光と表現した方が良いだろう。長く長く伸びた漆黒の剣によって真っ二つに斬られてしまった。

 《黒風》はただの風となって辺りへ拡散し、その黒光りする剣の残像は、幻想的に、空へと刻まれていた。


 はじめが驚いていられるのもそれこそ一瞬だった。

 空高くからはじめに向かって一直線に降りてくるエレメンターが見えたからだ。

 その左手に握る剣は、どこから取り出したのか、見たこともない造形のもので、明らかに六花ではなかった。

 そもそも、六花は右手にしっかりと握られているし、墨を塗ったかの様な漆黒さを持っていない。


 墨竹だった。


「このタイミングでか」

 はじめは思わずそう叫んでしまったが、その脳は迫り来る双剣使いに対して次はどう動こうか一心に計算していた。




 冬輝とうきは空中に黒い軌跡を残す墨竹を見ながら、

「さあ、お前の本領を見せてくれ」

 墨竹はその呼び声に応えるかの様に小さく振動した。

 そして、冬輝とうきは目を一瞬瞑り、今にも消えてしまいそうな、しかし人の脳裏に刻み付ける様な声で、言葉を解き放つ。

「《幽かに震え》」


 墨竹が世界に残す黒色の軌跡は、さらに濃くなった。それは、あたかも世界に対して自身の痕跡を必死に残そうとしているかの様であり、自身の存在をこれでもかと主張している様にも見えるものであった。


 冬輝とうきの速度は加速度的に上昇し、はじめに当たると思われた。

 しかし、その寸前、彼は自分とはじめとの間に大きな氷壁を創り出し、それを足場に大きく跳躍した。


 氷壁はそのままはじめへと向かったが、はじめの《鎌風》により真っ二つに切られ、彼の後ろへと飛び去った。


 そして冬輝とうきは、着地点の地面に六花を突き刺し、

「《ホワイトアウト》!」

 と叫んだ。


 すると、六花を中心にしてドーム状に吹雪がゴウゴウと吹くフィールドが広がり、はじめの前後感覚を奪った。

 この聖句により、観客からも彼らの姿が見えなくなったが、辛うじて分かったのは、冬輝とうきの位置だった。


 それもそうだ。

 彼が手放した六花の片割れ、墨竹はまだ彼の右手に握られ、()()()()()を残しているのだから。




 はじめが持つ吼天氏こうてんしは、持ち主の嗅覚、視覚などを上げることができる。実際、はじめはそれで最初に木村捷きむらさとしを探し出したし、盾の目を使って視界も補った。

 しかし、この《ホワイトアウト》はその利点両方を潰すものだった。

 おそらく、このまま手をこまねいていれば、こんな中でも動けている冬輝とうきに呆気なくやられるだろう。


 唯一の助けとしては、墨竹の能力の代償なのかどうか、はっきりと見える黒い軌跡を残してしまうために、冬輝とうきの位置が分かることだった。

 加えて、冬輝とうきも自分と同様そこまで魔力や体力に関しても余裕はないはずだ。


 次が勝負の時だと感じていた。

 ここで勝って、素早く森の中に隠れることができれば、ある程度は時間が稼げるはず。そうなれば、次の相手にもダメージは少し与えられる。


 故に、ただはじめは神経を研ぎ澄ませていた。

 冬輝とうきの攻撃の瞬間を狙うために。


「《構柄太刀かまえたち》」

 はじめが静かに唱えた瞬間、吼天氏の剣は西洋風な両刃の姿から、日本刀な様な片刃の形へと変化した。

 そのまま、はじめは腰を落とし、目を瞑った。


 抜刀術の構えだった。

 範囲はおよそ半径三メートルといったところだろうか。

 きっと、冬輝とうきがその足を抜刀術の領域に踏み入れた瞬間、刹那の刃が彼を襲うだろう。

 それはおそらく、トイラプス帝国の召喚者随一の反応速度を持つ滉穎こうえいでさえ不可避の技。




 冬輝とうきも当然、はじめの思惑に気付いていた。だからと言って、その勝負から逃れることはできない。

 黒い軌跡を()()()()()()冬輝とうきは、彼へと接近した。

 五メートル以内に入ったところで、冬輝とうきは正眼の構えから頭上に剣を振り上げ、

「はあああああ!!!!!」

 まるで決死の覚悟で戦いに挑むかの様な勇ましい、いや猛々しい声と共にはじめへとその剣を振り下ろした。

・黒風

 吼天氏の一時的解放。

 黒い雲を纏って暴風を生み出すもしくは操る能力で、巻き込まれた者はその凄まじい風力から逃れることはできず、高速で当たる砂塵によってダメージを受ける。

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