六花と墨竹・第五十一話
・吼天氏ー風、(金) 盾剣
所有者・石田魁
魔獣「鎌鼬」の素材を基に造られ、その英霊は珍しいケースであるが妖怪の「鎌鼬」となっており、他にもかつて帝王だった人間が英霊となる。その能力は魔獣の鎌鼬や俗信でのイタチ、妖怪の鎌鼬が由来となっている。
聖句は《目陰》、《道切り》、《鎌風》などであり、他の聖句や一時的解放は不明。
時は変わり、ニヶ月程前まで遡る。
山滉穎達は、先のイオパンデミックでのテロリスト集団の制圧において活躍したため、神格武器乃至は準神格武器を報奨として与えられることになっていた。
神格または準神格武器を与えられた六人の内の一人、松尾冬輝はこのニヶ月後にはパートナーとして一緒に戦うことになる神格武器「六花」と「墨竹」と契約するためにある場所へ向かっていた。
向かう場所はトイラプス帝国の北端にあり、気候的には亜寒帯であるガニメド県の最も大きい都市、ガニメデである。
トイラプス帝国南端の都市がイオだとすれば、ガニメデは北端の都市と称される。実際は、さらに北側にも大きな都市はあるのだが、イオと並べる都市かつ有力者がいるのはガニメデだけだ。大きさのみで言えば、イオよりも広大な土地を持つ。故に、北端の工業都市ガニメデと言われることもある。
ガニメデは、首都エウロパの北西に位置し、その北には大規模な鉱山が在る。炭鉱などの採掘で生計を立てる者や、また罪を犯したために労働奴隷に身をやつした者も多い。
工業都市と呼ばれる様に、第二次産業に従事する者が多数であり、すぐ北に鉱山があるため鉱業を生業と人間も多くいる。
ちなみに、稲垣翔祐のつい最近神格武器となった隕鉄刀も、ここで打たれたものである。
そんな都市ガニメデ、いやガニメド県を治めているのは北弓月家という由緒正しい家柄の子爵家だ。
彼らは、隕鉄刀の製作を依頼した工省との繋がりが深く、首都にいる本家の弓月家よりも財力や権力がある。
彼は、剣術指南を受けているルクス=カンデラに連れられ、その工業都市へと馬車で向かい、そして今ガニメデの目と鼻の先にいた。
現在の季節は夏であるためか、亜寒帯に分類されるこの地方もそこまで寒くはなかった様で、彼の服装は少し薄着であった。
空は雲が五割、といったところであったが、雲間から射し込む光は丁度ルクスと冬輝、そして都市に注がれ、その眩しさに思わず冬輝は目を細めた。
ちなみに、残りの五人、つまり滉穎と小栗臥龍、木村捷、稲垣翔祐、林佑聖は既に神格武器を受け取っている。
まあ、滉穎の「電影」に関しては、先の大戦から長い間使われず、埃を被っていた上に、英霊もその三帝=魔王大戦で電影の破損と同時に消滅していた。
故に、正確にはまだ彼は自身の神格武器を持ってはいないのだが、一応その所有者である望月家から譲渡されることは確約されている。
他の四人についても、捷と佑聖は魔省が管理していた準神格武器で、既にもらっており、臥龍は青嵐家から与えられ、翔祐は愛用していた隕鉄刀の神格化が済んでいる。
したがって、未だに神格武器の全容も知らず、正式な契約も済ませられていないのは、冬輝一人だった。
そんな冬輝も、ついに自分の神格武器を得られると、心なしか浮かれている様子を見せていた。
それも仕方ないことではある。アニメや漫画を愛する彼や彼の友人達にとって、特殊能力を持った意志のある武器、というのは憧れのものなのだ。
冬輝はこれでも抑えている方である。滉穎など、与えられることに歓喜して、もちろん人前では自重できていたが、その日の夕方軽く百キロメートルを走って来たのだから。
「大勝利」、と叫ぶどっかのラブコメに出て来る彼女程ではなかったにしろ、訓練がてら、と言って走破して来た彼に臥龍達は軽く引いたものだった。
話を元に戻し、彼もようやくその手に待望の神格武器を持つことができるのだが、一つ問題があった。
「冬輝。
これから神格武器、六花と墨竹とのご対面な訳だが、彼らを使役するためには彼らに認められなければならない。もちろん、使い手として認められない可能性も有る。特に六花と墨竹は先の大戦から誰とも契約を交わそうとしていないから、その可能性はより低いかもしれない。
それを理解しているね?」
ルクスは冬輝に彼が神格武器達から認可されない可能性を示し、暗に、選ばれなくとも不満に思うなよ、と言った。
こればかりは仕方がないことであった。
神格武器というものの根幹には、《英霊契約》という魔術をエレメンターまたは非覚醒者と、英霊との間で交わすのだが、これは両者の合意が必要とされるものなのだ。契約者は対等な関係であり、そうでなくとも信頼関係があって初めて神格武器は本来の力を発揮する。
故に、たとえ一方にやる気があったとしても、もう一方が応えられないのであれば、英霊契約を交わせたとしても意味がない。
はっきり言って、滉穎を除く四人全員がこの短時間で契約を交わせたのが稀なケースと言っても良い。
過去を遡れば、契約を強引に迫り焼死、感電死、凍死などで死ぬ者もいたのだから。
「分かってます。
残念な結果になったとしても、受け入れる覚悟は持った・・・・・・と思います」
冬輝はルクスの言葉に理解している、と言おうとしたが、徐々に声は小さくなっていった。
理解はしているが、もし拒絶された場合を考えるとその時納得できるかどうか、自信が持てなかったのだ。
そんな冬輝の心情をルクスは理解していたが、特に彼に対して何かを伝えることはなかった。
そうこうしている内に、彼らはその二対の神格武器がある洞窟の側まで来ていた。
そこは、今さっき通って来た都市や他の場所よりも明らかに気温が低かった。それは、どうやら彼らが納められているあの洞窟より冷気が漏れ出ているから、の様であった。
ルクスと冬輝は、事前に決められていた案内役との集合地点に着いた。まだ、案内役の人間は来ていない様であったが、その待ち時間を利用して、冬輝は道中聴きそびれてしまったことについてルクスに質問した。
「あの・・・・・・ルクス先生。
今更なんですが、六花と墨竹というのは、どういう経緯で造られた神格武器何ですか?」
その問いに対して、
「そう言えば言っていなかったね。
確か、僕が以前読んだ文献によると、造られたのは約三百年程前。
タートリア帝国に転生した日本人は、ある双子を弟子に取った」
ルクスは少し語り口調で六花と墨竹の物語を語り始めた。
「その双子は性格こそ正反対でまさに雪と墨だったんだが、二人の仲は誰も引き裂けない程強かった。
しかし、ある時暗黒世界との戦争が勃発した。既に年老いていた日本人は徴集されなかったが、弟子である双子はまだ若く、兵士として共に戦争に駆り出された」
そこまで聴き、冬輝はこの物語、いや歴史の先が二つ見えた。二人が活躍するのか、一人が死ぬのか。
冬輝は前者であって欲しいと思っていた。しかし、事実は彼が思うよりも残酷なものだった。
「彼らが再会したのは、戦争が終わった時。
そして、その再会も一人は亡骸となってのものだった。犠牲になったのは、よく周りに雪と墨の内、墨とされていた兄の方。
雪と呼ばれていた弟は、悲しみに暮れた。同時に怒りが込み上げていた。兄を殺した暗黒世界に、戦争を続ける魔境の世界に、そして、兄を近くで守れなかった自分に。
だが、その怒りをぶつけられる所は無かった。戦争はタートリア帝国側、いやエレメンター側の勝利に終わり、本国へと逃げ帰った暗黒世界と休戦状態になったからだ。
彼はやり場の無い炎に苦しんだ。
二刀流使いの転生者は、兄が無くなったこの地に不安定だった彼を連れて来た。そして、ある修行を命じたんだ。
それは、冬には極寒とも思える場所に変貌するこの地の、しかも山奥で、その瞋恚の炎を凍らせること。あらゆる思い出さえも、共に」
「それで、どうなったのですか?」
一瞬、間を置いたルクスに、冬輝はその続きを聴いた。
「彼は、山から永遠に帰って来なかった。それを心配した他の弟子は、双子の師が止めるのを聞かずに、山奥へと足を踏み入れた。
しかし、いくら探せど、彼が見つかることは永遠に無かった。代わりに見つかったのが・・・・・・」
「六花ですか?」
「そう。それが六花の誕生譚。
同時に、兄が埋葬されていた墓地に、魔草の一種である闇竹が急に群生したんだ。リコリスが咲く時期に。
そこから取れた素材を基に造られたのが墨竹。そして、英霊はその墓地の近くで大きな存在感を放っていた特化型精霊となった。
というのが墨竹の誕生譚」
ルクスは最後まで語り終えたことに満足した様な表情を浮かべた。
対して、冬輝は思いもしなかった異常な誕生譚に少し呆けた様な顔になった。
「何か、最初に印象とは違って、不思議な物語になりましたね」
「そうだね。比較的最近に造られたのにも関わらず、その出処が分からないのも特徴の一つだからね。
実際、誰が造ったのかも、誰が最初の使い手だったのかも、本当にその双子が英霊となっているのかも怪しいところだよ。
確かめようにも、ここ百年彼らが使い手として認める者は現れなかったしね。
まあ、それでもその文献は六花と墨竹の出現時期が正確である程度当てはまっているし、実際の人物、二刀流の転生者とその弟子についての記述も事実だけどね」
そう。ルクスが読んだ文献では、実際にいる二刀流の転生者と弟子達についてはかなり正確であった。
兄と弟が戦争に徴集され、兄はその戦争で亡くなり、弟は戦後に行方不明となっている点は共通しており、その後彼らの弟弟子達が二刀流使いに六花と墨竹を献上しているのだ。
さらには、前所有者が六花の性格を「普段は物腰が柔らかいが、突発的かつ理不尽な暴力には容赦がなく、苛烈であった」と評価したのも、雪の弟に重なる。
しかし、一般の見解としては、転生者が深く関係している、というのが主流だった。というのも雪の弟に山に行く様言ったのも彼であったからだが、現在の六花と墨竹の管理者でさえ事の真偽は分からないのが現状だ。
そうこうしている内に、案内人がルクス達の下へとやって来た。
背は高身長のルクスより少し低い程度で、少し色素が薄く長い茶髪を後ろで纏めていた。見たところ、東洋人っぽさを感じる顔立ちであったが、肌はあまり光を浴びていないのか絹の様に白かった。
「遅れて申し訳ありません。緊急事態が発生してしまいまして。初めまして、私は北弓月エイナイエンです。お見知り置き下さい」
北弓月エイナイエンと名乗った人物は、遅れたことに謝罪をした後、友好の握手をルクスに求めた。
「いえ、時間ぴったりですよ。こちらこそ初めまして、SVMDF所属ルクス=カンデラです。今日はよろしくお願いします」
ルクスは感じが良い笑みを浮かべ、エイナイエンの握手に応じた。
その後、エイナイエンは冬輝に身体を向け、
「貴方が松尾冬輝さんですね。よろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
と、再び握手を交わした。
「どうぞ。
こちらが六花と墨竹が納められている洞窟です」
遂に、彼らは曰く付きの神格武器へと対面することになった。
・北弓月家
トイラプス帝国に古代から仕える一族、弓月家の分家で、養蚕を始め、鉱山開発、灌漑・土木事業を得意とする。そのため、辺境や開拓地では影響力が強い。また、近年では北弓月家が治めるガニメデが工業都市となり、発展したため、首都の本流である弓月家よりも財力・権力が強大化した。




