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月影のエレメンター(なろう版)  作者: ハイエナ=エレメント
五神祭編第ニ章・五神祭
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鎌鼬対青蓮・第五十話

・交代のルール

 一対一の戦闘を繰り返す五神祭最初の種目において、交代は一試合に一回。

 山滉穎やまこうえい達が参加しているこの試合は一対一を繰り返し、最後の一人を倒した方の勝ち、簡単に言うとそういうルールである。


 ここで、一つ紹介することが有る。

 それは、現在進行形で戦闘をしているエレメンターと控室で待機しているエレメンターの交代がルール上可能である、ということだ。

 もちろん、交代が無制限にできる訳ではなく、一定の規則が存在するのだが、それは一試合において一回のみ制限を設けず交代を認める、というものである。

 一回だけの交代、というのは非常に貴重なカードであった。なぜなら、相性が必ず存在しているこの戦いにおいて、誰が誰に当たるのか、というのは勝敗を喫する上で熟慮せざるを得ないことだからである。

 それには、過去の一人勝ち、ストレート勝ちの様に、例外も有ることには有るのだが、それが頻繁に起こる訳ではない。


 故に、どのタイミングでこのカードを切るのかは勝ちを狙う上で重要なファクターなのだが、トイラプス帝国βチームは既にそのカードを惜しむことなく、消費していた。




 滉穎こうえい達を除く会場の誰もが、開始早々に手札の一つを切ったトイラプス側の判断に驚いていた。

 それは松尾冬輝まつおとうきの目の前にいる石田魁いしだはじめも例外ではなかった。




 冬輝とうきは、二本の剣を自然体のまま携え、そして、

「Turn up! "六花"」

 二本の内の一本、右手に握っていた剣は冬輝とうきの呼びかけに応じたかの様に、冷気を纏い始めた。

 それにより、辺り一帯の空気は冷え冷えとし始め、足元の草叢は晩夏であるというのに、霜が降りたかの様な状態になっている。ようやく樫の木からの拘束を解いたはじめはその異変に胸騒ぎを覚えた。


 まずい。


 と直感で感じ取ったはじめは、薄着だったためにすっかり冷えてしまったその身体に発破をかけ、目の前の冬輝とうきに対して突進を仕掛けた。


 それに対して、既に六花の完全展開ターンアップを終えていた(というよりそのために木村捷きむらさとしはじめを引き付け、木に拘束したのだが)、右手に青白く輝く剣を持った冬輝とうきは冷静に対処した。


 等身大程に感じる大きさの盾での突進に対して、右側に、つまりはじめの左側に素早くステップで避けると、六花で突きを繰り出す。

 はじめの突進は盾の重量とスピードも上乗せされ、迫力もあったのだが、それに気圧けおされることなく回避から攻撃に素早く移行したのだから、流石さすが神格武器を与えられたエレメンターと言うべきであった。


 しかし、はじめもまた神格武器を与えられる程のエレメンターだけあって、即座に反応し的確に対応していた。

 身体を覆う程の大きさである盾により、視界がある程度悪くなっていたはずだったが、水が流れる様に盾を左側に移動させ、六花の突きを流した。

 そのまま、右手の剣で斜め上から斬り下げる。


 もちろん冬輝とうきはじめの袈裟斬りに気付いており、左手に握った銘なしの剣でそれを受け止め、力を受け流しながらバックステップで一旦距離を取った。

 それに対して、はじめは追撃をせずに彼もまた距離を取る様に動いた。


 こうして、冬輝とうきはじめの戦いは一旦仕切り直しとなり、二人の睨み合いが始まった。




 しかし、それも次のモーションによってすぐに終わった。


「《鎌風》」

 はじめ吼天氏こうてんしの剣を冬輝とうきが近くにいないにも関わらず、大振りに振るった。

 続けて、

「《道切り》」

 と唱えると、振り下ろされた剣の軌道から直線上に見えない鎌が射出された。


 常人であれば、はじめの動きを不可解に思えど、その真意を見極め、その攻撃を見切ることなどできないだろう。

 しかし、神格武器の名前からその属性を推測し、あらかじめその対策を練っていた冬輝とうきには、直線上の攻撃を避けるなど造作もないことだった。


 それがはじめの策だとは気付かずに。




 はじめは《鎌風》が避けられたとしても、一切動揺を見せることなく、小刻みにではなく、大振りに冬輝とうきへ向かってその風の斬撃を放っていた。

 それは明らかに威力が高く、《鎌風》が当たった樫の木は真っ二つに斬られていた。

 冬輝とうきはそれを後ろで感じ、冷や汗をかきながらも、冷静沈着に斬撃を見破り()()()動作で避けていた。


 そして、徐々にはじめとの距離を縮めていた。




 だが、異変が現れ始めるのは意外と早かった。当初こそ順調に《鎌風》を回避していた冬輝とうきだが、三十秒が経過してからは目に見えて危なっかしい避け方に変化していた。

 これには、冬輝とうきも困惑を隠せなかった。相手の攻撃を容易たやすかわせていたはずなのに、気付けばその不可視の斬撃は服を掠り始めているのだ。


 胸騒ぎを覚えた冬輝とうきはすぐさま攻撃に転じようとして、姿勢を低くした。


 しかし、それをはじめは待ち受けていた。

 今まで大振りだった《鎌風》を急に小刻みなものに変化させ、連撃を繰り出して来たのだ。


 威力だけを見れば、それほど高くはないだろう。それに、直線的な攻撃であるし、これまでのものから冬輝とうきはタイミングを完全につかめていた。

 だから、この程度の変則的な攻撃は避けられると、誰もが思っていた。


 それは、冬輝とうきも同様だった。

 けれども、攻撃を見極め、回避しようとしたその瞬間、冬輝とうきは謎の躊躇ためらいを感じ、動きを止めてしまった。

 回避を止めてしまった冬輝とうきに斬撃の嵐が襲った。

 冬輝とうきは咄嗟に両手に持った剣を正面に構えて防御姿勢を取ったが、もちろんそれで防げるはずもなく、彼はすぐ後ろの樫の木にまで吹き飛ばされてしまった。


「がっ・・・・・・!?」

 先程まで傷一つ無かった冬輝とうき身体からだには、今や無数とも思える小さな傷痕きずあとが有った。

 さらには、彼が左手に握っていた銘無しの剣は、先の防御の時に衝撃に耐え切れず折れてしまった。


 冬輝とうきから余裕の表情は消え、代わりに焦燥に満ちた顔が残っていた。




 一方、トイラプス側の控室では、先の光景に対し疑問符が何重にも浮かんでいた。


「おい、やま! 今のはどういうことだ?」

 おそらく、この衝撃的な状況において唯一説明できそうな滉穎こうえいに、木村捷きむらさとしは問いかけた。

 しかし、彼は瞠目したまま、何かを唱えているかの様にその口を延々と動かしているだけであった。

 時折聞こえて来るのは、鼬とか目陰とか最後っ屁とかそういうものであった。


「無駄だ、さとし。こうなったらしばらく戻らないよ。それより、準備した方が良いんじゃないか? 雲行きが怪しくなって来たちゃったし」

「あ、ああ。そうだな。そうするか」

 深い思索に沈み込んでしまった滉穎こうえいを放置する様に稲垣翔祐いながきしょうすけさとしに促した。


 しかし、その時だった。

「そうだ!! ()()()()()だ!!!」

「うあっ!! どうしたんだよ、いきなり」

 滉穎こうえいは唐突に声を上げ、急に立ち上がると、近くで座っていた三人は驚きで体を跳び上がらせた。

 だが、滉穎こうえいはそのことについては特に言及も謝罪もせず、「鼬の道切り」という言葉について口を挟む間もなく説明を始めた。

「こういう俗信があるんだ。

イタチの通路を遮断すると、イタチはその道を再び通らないという俗信が。

これから、音信などが途絶えることの例えで、"鼬の道切り"と言うんだ。

くそっ。すぐに気付けたものを」

 そして、最後に察するのが遅れてしまったことへの悔しさを漏らした。


 それに対して、臥龍がりょう達は訳が分からないという顔を浮かべ、どういう事だ? と聞いた。

「さっきの攻撃だよ。

石田いしだが吼天氏を召喚するとき、鼬が現れただろ? だから、能力に関しても妖怪の鎌鼬とか鼬の俗信とか、魔獣の鎌鼬が由来していると考えたんだ。

その中で一つ、さっきの現象を説明できたのが"道切り"だ。

おそらく、あれで()()()ところは再び通れなくなる。松尾まつおは気付かない間に逃げ道を塞がれていたんだ」

 滉穎こうえいの説明を聞いた三人は、目を見開き、

「おいおい。それじゃ冬輝とうきの小回りもやまの俊敏性も活かせないないじゃないか。どうするんだよ?」

 臥龍(がりょうは少し焦った様子を見せていた。それもそうだ。はじめの吼天氏が見せた《道切り》は、言わば相手の活動範囲を限定させるというものであり、その能力自体に派手さこそないが、彼ら、特に滉穎こうえいのスピードが活かせないというのは、途轍もない痛手であるのだから。


 しかし、そんな様子の臥龍がりょうに反して、滉穎こうえいは冷静にその可能性を切り捨てた。

「いや、確証はないが、多分問題はないだろう」

「何で?」

「幻術を使っている経験上、あの手の能力がどういうものかは良く分かっているつもりだ。

吼天氏の能力の名前が分からないから、まあ暫定《道切り》ということにして、道切りはおそらく人の無意識、潜在意識に干渉するタイプのものだ。

あんなに多発していたからな。そうじゃないと魔力消費が激し過ぎて石田いしだはとっくに倒れている。まあ、石田いしだがとんでもない程の魔力量を持っていたなら別だが、それは可能性としては薄い。

だから、俺達に関しては、もう干渉されている、ということを知っているからもう引っ掛かることはない」

 道切りについての分析を滉穎こうえいが語り終えると、臥龍がりょう達はいくらか安心した様子を見せたが、その顔にはまだ憂慮が残っていた。

冬輝とうきは気付くよな?」


 滉穎こうえいは少し黙考した後、

「察する、と思う。違和感はとっくに覚えているだろうな。

そうなれば、俺の幻術の訓練に付き合わせていたから、どう対処すればいいか分かるはずだ」

 と、言った。

 だが、彼の表情からもまた険しさが消えることはなかった。冬輝とうきのダメージは決して浅くはない。戦闘が不利になったのは明確だった。

 彼はさとしに準備を促し、注意することを伝え、静かに座り直した。


 そして、顔を下に向けた。その姿は、はたから見れば落胆している様に見えるが、しかし彼が浮かべていた表情はそれとはまるでかけ離れていた。

 彼は獰猛どうもうな笑みを浮かべ、一言、

「面白い」

 と呟いた。

 その笑顔は、まるで獲物を見つけた獣のそれであり、その鋭い目は、極めて好戦的なさながら熊鷹眼であった。

・道切り

 吼天氏こうてんしの聖句の一つ。

 吼天氏の剣から放たれる特殊な部類の聖句であり、相手の無意識下、潜在意識に干渉し、剣で切ったまたは剣から放たれたもので切った所を通れない様にする。しかし、潜在意識の操作であるので、干渉されていることを自覚した、または強い意思を持って行動する者には通用しない。


・道切りの意味 『大辞林』より

 道を遮ること。

 また、疫病神など災厄をもたらすものの侵入を防ぐ呪術行為。

 「鼬の道切り」は、イタチの通路を遮断すると、イタチはその道を再び通らぬという俗説から、交際や音信が絶えることのたとえ。

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