五神祭初日・第四十七話
・フィールド
五神祭の初日から始まる種目では、ランダムに戦闘場所が決められる。自然のフィールドが七割、人工物が多い場所が三割である。
このフィールドは、聖教会教皇の聖魔法によって創造され、範囲内では死亡する様な攻撃も無効化して強制転移させられることができる。五神祭では、このシステムを利用して勝ち負けを判定する。
フィールドは「森林(種類は多数)」、「草原(サバンナ・ススキ草原)」、「荒原(砂漠・凍原)」、「村」、「都市」、「道路」が主である。
ついに五神祭当日となり、つい先程開祭式が終わったところだ。
テロリスト集団「カーリー」は特に動きも見せず、仮初めの平和は保たれたまま、僕達の試合は始まろうとしていた。
五神祭初日の日程としては、午前中に開祭式が執り行われ、午後からトーナメント方式のチーム対抗戦がそれぞれの会場で行われる。フィールドも今さっき決まり、一試合目は「森林」だった。
十六チームがある中で僕達とあのイヴァンのチームが最初に試合を行う。トーナメントなので勝ち進めば全四試合できる訳だが、僕達はどうやらくじ運が悪いらしい。あいつが所属しているフレア帝国のβチームはともかく、軍事国家であり国民全てが軍事的な訓練を受けているタートリア帝国のチームがいるからだ。特に二回戦目で確実に当たるだろうαチームは全員が良家の出身、それに勝ったとしても準決勝で戦う虎武龍麒のβチーム、所謂召喚者チームも粒ぞろいだ。
しかし、今は目の前の試合に集中する他ない。あのニチームに当たるのは早くとも明日の午後なのだから。
ちなみに、五神祭の開祭式は地球のオリンピックと比べて、そこまで派手なものでもなかった。まあ、地球の五輪の開会式ももとは開催国のVIPがいる場で選手に感謝し、激励するというシンプルな形だったらしい。それが、回を重ねるごとにショー化が進み、もはや簡素化するということはないかもしれない。
五神祭と五輪、どちらの開催式が良いかと言われても僕には判断ができそうにないので、ここで思考は中断するが。
そして、最後の作戦会議となり、
「そろそろ試合が始まるけど、ありがたいことに俺達のフィールドは"森林"だ。作戦に変更はない。事前に打ち合わせした作戦に沿って、試合をこちらが主導権を握る形で進めよう。こちらの思惑通りに行かない場合も慌てず、臨機応変に。まあ、何度もシミュレーションしたから大筋を離れることは想定しづらい。問題はないだろう。
教皇猊下の聖魔法による結界のおかげで、本気でやっても死なないんだ。折角だから楽しもうじゃないか」
と俺は言った。反応はそれぞれだったが、あまり緊張し過ぎた様子もない。これならば勝てる、と自分に言い聞かせ、トップバッターである木村捷を見送る。
こうして、五神祭の中でも注目されている初戦は始まろうとしていた。
初戦の会場では、既に席は全て埋まり、これから始まるであろう白熱の戦いに対し、期待が徐々に上がっていた。
VIP席には各組織の主要人物がその圧倒的な存在感を放ちながら座っており、まるで見定めるかの様な目で会場を見渡していた。いや、まるでではなく、実際そうなのだろう。
この五神祭では腕に覚えのある者ならば、所属関係なしに出場可能である。ここで、思わぬ人材が手に入る可能性は大いに有るのだから。
地球の五輪とは違い、国への所属というものにあまり意味がないのも五神祭の特徴だろう。魔境で未だに国民国家というものが誕生していない、ということも理由の一端なのかもしれない。
そのVIP席には、聖教会の教皇はもちろん皇族が座ることができる。
しかし、皇族であるにも関わらず、その席に座らず、一般大衆と一緒になって試合を観戦しようとする一人のエレメンターがいた。
彼女は衆目の中、優雅に最前席へと座った。その周囲の席には、彼女を皇族と知ってか知らずか、誰も座ることはなく半円形に空席となっていた。もちろん、彼女への好奇の視線は途絶えることなく。
その光景は当然目立つもので、彼女の美貌とは別に違う意味で注目を集めることとなる。
そんな中に、近付いて行くエレメンターが二人。
一人は明るい金色の髪と、周囲の女性の視線を集める整った容姿、所謂イケメンであり、彼が醸し出すオーラは人の目を引き付ける。
もう一人は日本人と一目で分かる黒色の髪や瞳、顔つきであり、隣のエレメンターの肩ほどの身長であった。隣のエレメンターが百八十センチメートルという高身長であるだろうから、もう一人は百七十センチメートル弱ぐらいだろうか。
その二人は、皇女と少し後ろで立って控えている護衛に近付くと、彼女に対して会釈をし、一人がその隣の席へと座った。もう一人も、その高身長であるエレメンターの隣に座った。
「お久しぶりですね。ルクス。それに、そちらの確か、小川さんでしたか?」
小川と呼ばれたエレメンターは、「そうです」とだけ答え、早々にルクスに会話を譲った。どうやら、それ程目上の者と話すのは好きでもないらしい。
「はい。我が弟弟子に関しては誠に有難う御座いました」
耳目を集める皇族、アスタグレンス=リヴァインのの挨拶にルクスは応えると、山滉穎のお見舞いの件について感謝の念を述べた。
ルクスは、何故VIP席に座らないのか聴こうと一瞬考えたが、それを音波に変換することはなかった。
「いえ。一人、彼のことを気にしている方がいましたから。
最も、あの二人はどうやら犬猿の仲の様ですが」
「はは、イヴァン=J=グランドウォーカーですか。確かに、彼と対面した滉穎からは普段の彼からは想像できない雰囲気を醸し出していましたが」
ルクスは苦笑いをして、続きを言った。
「まあ、滉穎と彼は所謂喧嘩する程仲が良い、というものでしょうね」
その瞬間、試合の控室で互いに離れている二人が同時にくしゃみをしたのだが、それに気付いたものは誰もいない。
アスタグレンスはルクスの言葉に対して、一瞬もの悲しげな表情を浮かべ、
「互いに高め合える存在がいる、というのは羨ましい限りです。
しかし、反目し合っている今の彼らでは私達の評価に反対するでしょうね」
と言った。ルクスは彼女の羨望が混じった発言には気付いたのどうかは分からないが、
「それは彼らが正反対の信条と性格を持ち合わせているからでしょう」
と応えた。
「それはどういうことですか?」
ルクスの発言に興味を抱いたアスタグレンスは、彼にその真意を問いかける。
「そうですね。あくまで僕から見た一個人の見解ですが、それでもよろしければ」
「良いですよ。ルクスの彼らへの評価にも興味が有りますから」
「分かりました」
ルクスは腕時計を一瞥し、試合開始までまだ時間があることを確認すると、己の二人への見解を語り出した。
「まず、前提として二人の共通点から話しましょう。
どちらも努力家で、悪を憎み、正義感が強い。
滉穎は、正義という言葉をどうも嫌う節が有る様ですが」
ルクスは二人の言動から感じたことを言った。しかし、滉穎については知り合って四ヶ月になるが、イヴァンについては書類や一ヶ月前ぐらいに話したことがあるぐらいなので、無難な言い方にはなっていた。
「確かにそうですね。
しかし、イヴァンはどちらかと言えば絶対的な正義を持ち、滉穎は相対的な義を持つ、という表現の方が良いでしょうか」
「まさしくその通りです、殿下。流石です。
個人的な見解としては、二人の微妙な価値観のズレがお互いを衝突させているのだと思います。
他にも、滉穎は科学者で、イヴァンは芸術家などの違いが有りますね
二人とも本質は同じなんですがね」
とルクスはアスタグレンスを称賛した上で自分の評価を付け加えた。
続けて、ルクスは自分の私見を語る。
「さらに、滉穎とイヴァンでは物事の終着点に対する考え方が異なるのでしょうね。滉穎は過程を重んじ、イヴァンは結果を重視する、といった感じでしょうか」
その言葉に対して、アスタグレンスは、
「それは・・・・・・魔術と魔法の様な違い、と考えて良いですか?」
と、ルクスの言葉を魔術と魔法を使って比喩で例えた。
「そうですね。一般的に、魔術は過程の構築によって発動しますが、魔法は結果から先行して然る後に過程が続きますからね。言い得て妙な喩えです。
しかし、滉穎とイヴァンではどうやらその考え方がかなり極端の様で、滉穎は最善・・・・・・いえ最適を積み重ねた結果であれば、どのような運命でも甘んじて受け入れる。対して、イヴァンは最良の結果から逆算することによって、物事を考え、まさしく"終わり善ければ全て善し"の精神で事に臨みますからね。ベターとベストをそれぞれ信条とする二人では、衝突も避けられません」
それで、ルクスは言葉を切った。
「なるほど。言われてみれば、確かにそうですね。さながら滉穎は政治家、イヴァンは企業家のイメージでしょうか。ふふっ。真逆のイメージになるのは何とも可笑しなものですね」
アスタグレンスは、二人の信条を政治家と企業家で喩えたものの、それぞれの能力と印象との乖離に思わず微笑んだ。
側で二人の会話を静かに聞いていた小川も、二人を比較し、運動部と文化部だな、と思ったが声に出すことは無かった。
さらに、小川はルクスのイヴァンに対する印象が努力家ということに今更ながらに驚いていた。彼にとっては、イヴァンは努力家というよりも天才肌であり、滉穎とは全く正反対、というより自分達とは住んでいる世界が違うと感じていたからだ。。
イヴァンは裕福な家庭に生まれ育ち、両親のおかげで言語に堪能であり、運動オンチではあるが学力はかなり高い。おそらく、日本史と数学、国語(日本語)が無ければ滉穎にも勝てるだろう。
おまけにかなりのイケメンである上に、ピアノで高い成績を残し、絵に関しても頭一つ抜けている。芸術面に関してはあの完璧主義者、虎武龍麒にも勝る。
色恋沙汰も噂が絶えることがないのだ。
はっきり言って、小川には何故家族も居て、明らかに地球にも揺るがない居場所がある彼が喚ばれたのか分からなかった。
小川はこの日、誰にも悟られることなく、イヴァンへの見方を改めた。
・涼羽=ヴァトリー 75歳
玄羽=ヴァトリーの祖父であり、秀羽=ヴァトリーの父親。
若い頃は中性的な顔つきで、名前が涼羽とも読めることから、それを利用して悪戯を繰り返していた。快活な性格をしており、裏表がない。
学園在学中は成績下位と呼ばれていたが、それは学園の教育内容(魔法・魔術・言語学等)が彼の適性(仙術・忍術・幻術等)に合っていなかっただけであり、ヴァトリー家内の教育では誰よりも高い成績を修めた。
卒業後、テロリスト集団「カーリー」の諜報活動等の功績により皇帝に直接仕える様になり、彼独自の部隊が後の「SVMDF」である。
現在は仙人として、青蛙山に籠もり、仙術の修行をしている。




