開祭十日前・第三十九話
文の「雪月花」得意分野ー月
・月の望月家
軍にも多く所属するが、政治や経済に強いエレメンターは議員や資本家になり、特に商業の道に進んだ者は望月家の運営する株式会社(多数)の重職に就く。2000年程前から望月家の傘下にある自由組合の長となることもある。
ヴァトリー家や江月家と比べて、庶民から親近感を感じられている。
五神祭もいよいよ後十日となり、作戦と訓練が煮詰まってきた。
僕も電影の扱いに慣れ始め、当日には問題無く絳河と連携できる所までになった。しかし、休息を時々入れなければ、せっかくの力も発揮できず、努力が無駄になる。
故に、今日の訓練は午前だけにして、午後は各自で自由に過ごす。と言っても、自由にも度合いはあるし、支障を来さない程度に羽を伸ばすだけなので、できることは限られる。
僕は、あまりにも退屈を持て余していたので、というのも修行を禁止されたことで宿泊施設でできることがなく、江月華のお土産選びに付き合っていた。
宿泊所に残っている小栗達は、ゲームに熱中し、このことに気付いてはいないが、もしもこの場にいたら僕の下心を疑うだろう。まあ、否定はできない訳だが。それでも一応は善意でやっている。
それに、僕も普段お世話になっているトイラプスの方々にお土産を渡そうと思い、街に来たのだ。
余談ではあるが、日本の昔の土産というのは旅が一苦労であるために、所謂土産話だったそうだ。旅先で何があったとか、どういうものを見て来たとか、その村の代表として。
まあ、これに完全に即する訳ではないが、この五神祭が終了したらSVMDFに入隊する。その時に話の一つもできない訳にはいかないだろう。だから、聴かれたら答えられる様には頭の中で構成をしておこうと歩きながら考えていた。
「滉穎先輩。玄羽従兄さ・・・・・・玄羽師匠には何が良いと思いますか? 私はあまりこういうものが分からないので、助言をいただけると助かります」
そして、今は皇帝陛下の不在で留守を任され、トイラプスから出られない師匠のためにお土産を選んでいた。
ちなみに、彼女が出会った当初から僕を「先輩」と呼ぶのはSVMDFにニ人共入る予定であり、その際年功序列で上の者には「先輩」を付けなければいけないからだ。隊長である師匠だけはそのまま「師匠」と隊員全員から呼ばれているが。
ぶっちゃけ、SVMDFの隊員は玄羽師匠とその門下だけであり、その影響からこういう呼び方になっている。
また、江月華の母親の妹は師匠の母親、つまり彼女は師匠と従兄妹の関係にある。そのため、時々彼女は師匠のことを従兄さんと呼びそうになっている。
ついでに言うと、彼女の神格武器、月華の一代前の所有者は師匠の母親、ヴァイオラ=ヴァトリー氏だ。
話を元に戻し、その師匠のためにお土産で彼女に助言をしたいのだが、なにせ師匠はこれが欲しいとか、これは要らないとか、全く言わない。プライベートについても僕と同様話題にしないタイプであるし、物欲も薄い。だから、少し悩んだ。
「そうだね。師匠は実用主義者だから、形として残りやすいものより、活用できるものが良いと思うよ。フレア帝国で、オリンピアだけで売ってるものとなると、何が有るんだ?」
そこまで言うと、彼女は何かが浮かんだ様で、
「ありがとうございます。ちょうど思い当たるものが有りますので、ニ階に行きましょう」
そう言うと、彼女は近くの階段に向かった。この商店は街の中でもかなり大きなもので、六階まで有る上に、平日にも関わらず買い物客でごった返していた。
そんな中でも、彼女の歩き姿は気品に溢れ、常に周りから視線を浴びせられていた。彼女の隣にいる僕にも。まあ、彼女への視線とはかなり種類が違うのだが。
彼女に向けられる視線は憧憬と言った類のものだが、僕に向けられるのは羨望と嫉妬と言うところか。分からなくはないが、あからさま過ぎる。
しかし、彼女はそれに気付いていない。もしかしたら、慣れるものでもないとは思うのだが、慣れた、いや慣らされたのかもしれない。
彼女を追って階段を上ると、彼女は誰かと話していた。よく見ると、その人物はつい十日前に会った望月朧だった。
彼は僕に気付くと、驚き少し険しい顔をした。と言っても些細な変化であり、他の人は気付いていないだろうが。
彼は江月華に気があるのだろうか、五歳程年下ではあるが問題になる程の差ではない。もしこの仮説が合っているとしたら、僕が彼女の買い物に付き合っているのが、極端に言えばデートが、気に食わないのかもしれない。
彼女はそれに気付く訳でもなく、デートと意識している訳でもないが。
まあ、人の恋? についてとやかく言うのは下品だから、あまり詮索しないでおこう。
もしかしたら違う可能性もあるし。
朧は、この呼び方はこの前会った時呼び捨てで良いと言われたので。僕に近付くと、
「十日ぶりです。電影、絳河との調子はどうですか?」
「おかげさまで好調です。当日を期待していて下さい。ご期待を越えて見せましょう」
「それは楽しみです。では、僕も用事が有りますので、これにて失礼します」
そう軽く挨拶を交わし、颯爽と消えてしまった。心なしか彼が早歩きをしていた様に思えた。
しかし、一体彼は何用でここに来たのだろう。そう考えていると、彼女がそれを察したのか、
「この商店は望月家が株の八割を買い占めた会社の支店なんです。江月家はどちらかと言えば官僚よりの一族で、そういう商売に関しては疎いのでよく分かりませんが、おそらくはその関係かと」
「ありがとう」
彼女は本当に察しが良く(自身に向けられる感情以外は)、僕の意図をすぐ理解してくれるのでとても助かっている。
加えて、ルクス先輩程ではないが、戦術に関しては
僕や他のチームメンバーよりも卓越しており、作戦立案ではもはや僕達の立つ瀬がない。
そこで思考を止めると、いつの間にか彼女はお土産を購入していた。僕は既に一階で目的の品は買ったので、これで買い物は終了した。
建物から出ると、そこでもまた意外な人物と出会った、いや遭遇した。イヴァン=J=グランドウォーカーだ。彼女はこの男とは初対面のはずだが、奴に近付くと、
「こんにちは。初めまして、イヴァン=J=グランドウォーカーさん。今回、初戦の相手をさせていただきますトイラプスβチームの監督を務める江月華と申します。以後お見知り置きを」
と丁寧な挨拶をした。
それに対して、女好きは、
「初めまして、華さん。素晴らしい試合になることを願っていますよ。
そうだ。もしよろしければ、一回戦が終わった後でもお話したいのですが、いかがですか?」
一切の戸惑いもなく、手慣れた感じで彼女を誘った。やはりこの男はナンパ男だな、と評価を改めつつ、彼女の前に出て、
「すまんな。俺達にはニ回戦が待っているからそんな暇じゃないんだわ。
じゃあな、今度は試合で会おう」
「ふん、お前もいたのか。言っておくが勝つのは俺だ。俺が喧嘩が弱いからといって見くびらないことだな」
「期待せずに待っておこう」
俺を前にすると、こいつはあっさりと素が出るな。それでも、色んな女子からモテるのだから納得がいかない。そして、俺達と入れ替わる様にさっきの商店に入って行った。
「とても親密そうで羨ましいです。私はあまり、親友と呼べる人がいないので」
「親友? いやいや、あの男とは所謂犬猿の仲さ。僕が心を許せたのは古今東西一人だけだったさ」
そう言うと、少し彼女は訝しんだが、深くは追求せず、
「では、戻りましょうか」
「そうだね」
文の「雪月花」得意分野ー花・雪
・花の江月家
多産で女性が多い江月家には、戦を忌避するエレメンターも多く、望月家と比べると軍よりも政治に優れた人材を輩出している。特に、官僚となり省庁の要職を何代にも渡り務める。そのため、彼女達はトイラプスの内政においてはなくてはならない存在である。
・雪のヴァトリー家
江月家とは対照的に少産で男が多く、仙術や忍術といった希少性が高い魔法の使い手である。戦闘に不向きな家系のため、内政を担うエレメンターが多い。
さらに幼い頃からの英才教育により、知能指数が高い者を輩出し、そのほとんどが皇帝直属の特殊部隊や宰相等の要職に就くことが多い。そのため、「皇帝の耳」「皇帝の脳」「皇帝の右腕」と称される。その最たる例が玄羽=ヴァトリー所属の特別諸般対策考案部隊(SVMDF)である。
気高く高嶺の花である江月家と清廉潔白で誇り高いヴァトリー家は相性が良く、玄羽=ヴァトリーの父母もこの2家のお見合いから一目惚れで夫婦となった。




