幕間・月の異名
我が望月家は、このトイラプス帝国の中では最も影響力を持つとされる一族です。その所以は2000年も前に遡ります。
by 朧
僕は東の帝国から南の帝国へと、我が一族の家宝とも言える電影をあるエレメンターに渡すために向かっていました。
家宝を渡すなど、本来であれば一族全員から反発が起きる案件ではあるのですが、電影という弓の神格武器は既に時代遅れとなっていましたし、何より一族の中に満足に扱える使い手がいませんでした。故に、実用主義が多い我が一族では賛成が多数となり、現在へと至った次第です。
かつては、月と狩猟の女神アルテミスの加護までいただく程に弓の扱いに長けた我々一族でしたが、今では趣味のレベルでしかありません。良弓も使われなければ意味を持ちません。まさに、この話は渡りに船だったのです。
正直に言うと、弓の神格武器を使いたいと言うエレメンターがいることに一驚し、そのエレメンターに興味を持ちました。
聞けば、そのエレメンターは未だに事件の前の詳細が明らかになっていない「イオパニック」において、多大に貢献したそうで、しかも召喚者の中では成績一位というのですから優秀と言えるでしょう。
さらに、文の「雪月花」の「雪」を冠するヴァトリー家の次期当主である玄羽=ヴァトリーの門下に入り、SVMDFへの入隊も内定しているとなると、将来性も期待できます。
故に、僕は今回父である現当主より「彼を見定めて来い」と申し付けられました。
理由は至ってシンプルです。僕の妹達の婚約者として彼が候補に挙がったために、彼の人格と能力を見極める必要があるからです。
この魔境では、地球よりも家と家の繋がりや血統は重視されています。それは、エレメンターの力が遺伝しやすいという背景が有るためで、だから許嫁というのも珍しくありません。
もちろん、自由恋愛が禁止という訳ではありませんし、子どもの幸福を親が願わない訳もなく、それ故の見定めであり、決して強制という訳ではありません。
もし、子どもの幸福を願わない親がいるので有れば、僕はその人達のことを親と呼んで良いものか疑問符が浮かぶでしょう。
話が少し逸れましたが、彼を候補に挙げた理由はもう一つ有ります。
それは、彼が「仙術」を使えるという点です。はっきり言って、我が一族は他の良家と比べても強さ、力に貪欲です。故に、遺伝するエレメンターの力をより強固なものにするためには、より強い血筋、そうでなくとも、個人として名を立てられる者であれば婚姻を結ぶのです。
もうお分かりでしょうが、現在というよりも昔から望月家が目を付けているのは仙術です。しかし、仙術の希少さから我々はその力の一端でさえ持てたことはありません。
エレメンターの遺伝研究はある程度進んではいますが、仙術においてはその遺伝性が全く分かっていません。というのも、極端な使用者の少なさとその秘匿の度合いが強過ぎるために、調査を始めることすらできないからです。
「雪」のヴァトリー家は仙術も使えますが、彼の一族は遺伝に対して我が一族よりも関心が強くありません。また、恋愛による結婚が何世代も前から途切れずに続いており、一夫多妻制が風化したとはいえ、一応存在しているこの魔境でも古代より一夫一妻で貫いているので、関与の余地すら無いのです。
我々が現在認知している使い手も両手で数えられる程度であり、先述のヴァトリー家の現当主とその息子玄羽、今は仙人となった彼の祖父、彼の門下にニ人、そして自由組合に一人だけです。
次期当主である玄羽=ヴァトリーと婚姻を何とか結ばせようと画策していた時も、既に彼は皇女殿下と恋仲であり、すぐに結婚までしてしまいました。余談ですが、その時は幾人もの女性が涙を流したとか。
この様に、彼等は狙いを付けた時には将来を誓い合う相手を見つけており、策を立てることすら許してはくれません。
そんな時に現れたのが、山滉穎という召喚者です。彼はあの玄羽=ヴァトリーに師事し、たったのニヶ月で仙術をものにしたのですから、我が一族の関心が彼に向いたのは言うまでもありません。
さらには、我が一族の重要な財源でもあったイオでのバイオテロと、秘匿されてはいますが魔物の襲撃において大いに活躍したと聞けば、候補に挙がるのも当然と言えます。
受け渡しの当日となり、実際に彼と対面した感想としましては、簡潔に言って面白い人でした。人と人との相性など千差万別ですが、どうやら彼と僕は良い方みたいです。彼とならば、兄弟となっても大丈夫でしょう。
と言っても、妹を彼に渡すのとは電影とは別問題ですが。彼が妹に相応しいかどうかを見極める必要はまだありますし、そのために僕も五神祭が終わるまでここに滞在するつもりです。
そして、彼の英霊契約が終了し、ついさっきまでゴーレムとしてそこにいたAS、絳河は英霊として電影に宿り、ゴーレムはだだの土塊となりました。
彼は、ゆっくりと魔術式が消失した床に近付き、電影を手に取ると、目を閉じました。何を言っているのかは分かりませんが、絳河と念話で会話しているのでしょう。しばらくすると、電影は光となって消失し、精神世界に情報として保管されました。これで、契約を結んでいる限り、彼はいつでも精神世界から物質世界を召喚できます。
僕達は教会を出ると、互いに用事があるためまた会う約束をして別れました。
僕は急ぎ桜家から買った駿馬で望月家の別荘に行きました。
二十分程度馬を走らせると、派手過ぎないが威厳がある館が現れ、知らない顔の執事が出迎えてくれました。労いの言葉をかけ、書斎に向かい、父上に手紙を書きました。
彼は月英の婚約者に相応しいかもしれない、と。
理に対する魔法の認識
エレメンターは、脳を入力装置、本体として魔力を操作し、魔法を使い、非覚醒者は文字や音声で入力、精霊を本体として魔術を用いる。その時、理から逸脱すればする程、消費する魔力量すなわち脳への負荷が大きいので、理に従うことが多い。しかし、魔法の種類により理に対する認識が異なる。
・魔法(属性)
理に則り、魔力を情報から物質に変換することで現象を操作する。
・魔法(暗黒世界)
死、時間、空間など物質世界からの認識の外である現象を操作するので、理から外れたものとされる。故に、危険性も高い。
・魔術(魔法の入力方法を改造)
理を文字や音声として書き起こすので、理を投影するものとされる。
・仙術(魔法の派生)
常人では使えないものが大半なので、理を超越したもの、認識を超えたものとされる。




