日光と月光(2)・第三十四話
・アカデメイア
地球では、紀元前387年頃、プラトンがアテネの郊外に建てた学園のこと。プラトンの死後も後継者を輩出したが、529年東ローマ帝国ユスティニアヌスにより異教思想の温床として閉鎖された。アカデミア。
魔境では、聖教会が創った知性の枠を集めた指導的団体及び学園の総称となっている。非覚醒者の学校は別に存在するので、エレメンター専用の団体・機関と言える(しかし、非覚醒者が通えない訳ではない)。
アスタグレンス=リヴァイン第三皇女が通っているのは、魔境でも指折りのフレア帝国のティマイオス学園。彼女は飛び級でそこに入り、既に卒業資格まで取得可能な状態である。
「おいおい無様だな、滉穎。それで俺達との試合に出れんのか?」
横開きのドアが中々大きな音を立てて開き、あの男の次に嫌いなイヴァン=J=グランドウォーカーが挑発する様な口で入って来た。
「久しぶりだな、イヴァン。しかし、病室に入って来る時は静かにしたらどうだ。そんなに俺に会いたかったのか?」
「ふん、巫山戯た事を。お前の情けない姿を拝みに来ただけだ。山賊ごときに遅れを取るとはな」
「ほお〜。随分と暇な様だな。それともあれか、俺達との試合に負けた時の言い訳でも作りに来たのか?」
「二人共?」
イヴァンとの言い争いがヒートアップしそうになった時、ルクス先輩の呼び掛けによって我を取り戻した。
周りを見ると、俺達βチームとイヴァン達フレア帝国のβチーム、加えてアスタグレンス第三皇女がいた。木村達はこの光景を見慣れているから特に狼狽えず、呆れるばかりだったが、初めて見た皇女様は一驚していた。
皇女様は前回もそうだったが護衛が一人も付いてないな。一国の姫なのだから、前回は仕方無いにせよ、付くものだと思っていたが。それとも、護衛が要らない程強いのか? アカデメイアでも成績一位だと聞くし。まあ、後で聞くこともできるし、今はいいか。
「全くねぇ、いつも冷静な滉穎が。二人は所謂犬猿の仲か?」
その疑問に稲垣が答える。
「はい。会う度に互いに貶し合うんですよ」
「そうそう。一周回って仲が良いぐらい」
「「良くない!!」」
「ほら」
木村の応答に、若干苛立ってしまったが、話を元に戻すためにルクス先輩の方を向く。その時、一番後ろで立っている皇女様は肩が少し震えるぐらいで笑い、何故かその目には憧憬? いや羨望? があった。
「申し訳ありません、ルクス先輩。話の続きを伺っても?」
ルクス先輩はイヴァンや皇女様の方を向きながら、
「そうだな、まあ彼等やアスタグレンス殿下にも聞いてもらった方が良いかな。それと、僕が話したら滉穎もあの時の状況を話してもらうよ」
「分かりました」
そして、皇女様も、
「我々は元々彼のお見舞いに来ただけでしたし、急ぎの用事もありませんので、その話お聴かせ下さい」
「お見舞い」という単語が聞こえた瞬間、イヴァンが顰めた面になったが、ここでそれに言及すると、またヒートアップしそうなので、ぐっと堪えた。
「まず、君等を襲った山賊達だけど、論証の迷宮の管理者兼守護者であるAS様が一人残さず捕らえて下さったのでそこは問題ない。七十三人いた山賊の内、死亡したのが三十九人、重傷者が三十一人だね。山賊のリーダーはASによって両腕を切られ、今は意識を失っているが、取り戻し次第拷問をして問い詰める予定だよ」
拷問、ね。まあ、それはいいか。
意外と死亡者数が多いな。まあ、殺してしまったからと言って、悪事を働く人間を殺すことに罪悪感は無いし、どこかの主人公の様にそれほど優しい心は持ち合わせてはいないが。
「しかし、ここで問題があるんだ。
滉穎と捷が倒れていた場所では戦闘の痕跡、滉穎と敵のだろうけど、それが有ったんだ。加えて、そこには魔法、いや魔術だったかな? その痕跡も同時に有ってね。山賊の中にエレメンターが居たとしても魔術ができる程の頭は持っていないはずなんだ。
とするとだ。山賊が持てるはずがない反魔の短剣を持っていたことと合わせて、裏に援助していた者がいると考えられる訳だ。そこで」
ルクス先輩は俺の方を向き、説明を求める。
「・・・・・・分かりました。
あの時、確かに僕はその援助しているだろう人物に接触しました。
その人物の名前は虎武龍司、僕の敵です」
その瞬間、木村や小栗をはじめとした地球、日本出身者に緊張が走った。
・武の花鳥風月
トイラプス帝国の名門一族を称した言葉。戦闘力における名門一族を示し、
花はもとは望月家の分家である江月家、
鳥は鳳家、
風は鳳家の分家であった青嵐家
月はトイラプスにおいて、最も影響力を持つとされる望月家である。
・知の雪月花
権力、財力、知力において優れた一族を指し、月と花が示す一族は武の花鳥風月と同じ。
雪は玄羽の一族であるヴァトリー家を指し示す。




