強者故に弱者・第三十三話
強者と弱者の境界線は曖昧だ。力を持つ者は当然その力を持たない者のために使うべきであるが、それはこの2つの関係に適用はされない。弱者は強者を無条件に恐れるが、強者もまた弱者がなす社会から迫害されることを怖がる。
私は後者だった。故に持つ力を弱者のために使った。しかし、結局恐れられた私は2千年俗世との関わりを断つことになった。
強者と弱者の概念では、ノブレス・オブリージュの概念が失せていた。
by AS
遠い昔の話をしよう。暗黒世界の誕生から数百年しか経っていない時代、私がエレメンターとして生きていた時代の話を。
確かあれはトイラプス帝国が独立するより約六十年前、フレア帝国と暗黒世界は戦争を幾度となく繰り返していた。現在とは比較にならない程に。
現在は最後の大戦から百年経とうとしているが、この頃の帝国と暗黒世界は数年に一度は戦争をしていた。と言っても規模は今と比べものにならない程小さい。エレメンターと覚醒者が戦場で出逢えば戦い、負ければ軍と共に敗走、勝てば占領、といった感じで被害は小さかった。何せその頃はエレメンターと非覚醒者の力の差は歴然で、軍を創設しても一人のエレメンターの敵ではなかったのだから。
そして、暗黒世界は窮地に立っていた。数に勝るフレア帝国相手に苦戦し、防戦一方になっていたのだ。歴史の中で暗黒世界殲滅の一番の好機だったと言われ、私も奴等を最後まで追撃しなかった事を今でも悔いている。
しかし、奴等が滅びなかったのはエレメンターが攻撃の手を緩めたことだけが原因ではない。暗黒世界の抵抗もまた激しかったのだ。
奴等は実験を日夜繰り返していた。私を含めエレメンターを殺せるだけの力を持った兵器の。暗黒世界の奴等は生、死、魔物属性に長けており、その分野で言えば、我々は奴等にかなりの遅れを取っている。
奴等の実験はお世辞にも人道的なものとは言えない。人間の尊厳を弄び、人を人とも思わない、そうした実験の末に生み出されたのが魔族だ。
魔族は非覚醒者、人間を土台にし、魔力を使うことでその身体を強化させた。それは、魔獣との融合や魔石を取り入れさせることでの変身が主流であった。前者が獣人で後者が魔人と呼ばれるものである。
彼等は戦争に強制的に駆り出され、我々と戦った。多くのエレメンターの血が彼等の身体を濡らし、瞬く間に暗黒世界は現在の形を手に入れた。だが、彼等がいつまでも戦場にいる事はなかった。
反乱である。どの時代のどの場所でも、人は恐怖を恐れても、恐怖には屈しない。人が人の心さえも縛れる道理はない。
彼等は結果的に反乱に失敗したが、暗黒世界からは脱出した。そして、我々に助けを求めた。しかし、我々は彼等を信じなかった、信じられなかった。「昨日の敵は今日の友」と言うが感情はそうはいかない。先日まで敵として戦い、互いの命を奪い合っていたのだから。さらに言えば、暗黒世界の演出かどうかも分からなかったのだから。
彼等は都市を追い出され、ある者は辺境の農村部、開拓地に逃げ、ある者は北へ南へ逃れ、またある者は人間が住めない、例えば魔獣の森に散った。
それでも、彼等に平穏は訪れなかった。暗黒世界の追撃である。奴等にしてみれば、戦争の切り札とも呼べる彼等の力が敵のものになる可能性がすぐそこまで迫っていた。魔族一人の力は覚醒者と互角かそれ以上、その強さは奴等にとって脅威以外の何ものでもなかったのだ。
暗黒世界の追撃によって初めて、我々は彼等が敵の手先でないと信じられたが、時既に遅し。彼等は戦禍によってその数を減らし、さらに辺境の地へと逃げてしまった。
我々は彼等を庇う様に義を掲げ奴等に戦争を仕掛け、返り討ちにできたが、もはや彼等の力を借りることは叶わなくなっていた。
彼等は暗黒世界に兵器として造られ、何の権利も与えられず戦争に使われた。最終的にはかつての敵に助けを求めたが、その強大な力故にエレメンター、人間、暗黒世界から恐れられ、行き場をなくした。
彼等は自身のために力を使えないまま強者として生み出されてしまったのだ。何の害意も持たないのに怖がられ、辺境に追いやられた。
現代でもその光景は、形を変えて存在していた。
・魔族
エレメンターと似て非なる存在。魔力を意思のままに用いることができる種族の総称であり、主に人間が素体。また、暗黒世界が兵器として生み出した者達と、その子孫について言うのが一般的。
魔獣と結合させられた者を「獣人」、魔石を用いて強化させられた人を「魔人」、(特化型)精霊と融合させられた者達を「霊族」と呼ぶ。
現在は魔獣の森やレグリア砂漠、アトラ洋、極地等に住んでおり、エレメンターや人との交流は少ない。また、数こそ増えつつもその人口は人間の比ではなく、魔族を全て合わせても東京都の人口に及ばない。




