過去の亡霊(3)・三十ニ話
・魔境における名前
魔境では、言霊の力が信じられているので、名前の決定において、細心の注意が払われている。
特に、人の名前、名字に至っても必ず意味があり、実際に名前に即した力が顕著に出ている。中には、気まぐれで付けられることもあるが、それには非覚醒者の影響がある。
ここは、・・・・・・どこだ? 俺はさっきまで迷宮を攻略して・・・・・・。
そうだ! あの男、水明は何処に行った? 早く見つけなければ。
ん? そもそも俺は山の中、それも木が繁った場所にいたはずだ。こんな研究所みたいな、いやここはもはや魔境ですらない。地球だ!
あの男の忌々(いまいま)しい象徴に気付いて、それを俺は確信した。しかし、何故自分がここにいるかは理解できない。もう既に破壊された象徴の中に。
もしかしたら・・・・・・あの魔境での出来事が夢だったのか? 夢?
なるほど、ここは俺の夢の中か、ということはここから先は明晰夢になる訳か。どうしたものかな。
思案していると、夢に動きがあった。二人の人物が突如浮かび上がり、さらに彼等の周りが炎に包まれていたのだ。
これは、・・・・・・あの時の!
「滉穎君。遂に君はその娘を守り切れなかった様だね。生き返らせたいだろ? 私に彼を引き渡したまえ」
夢の中のもう一人の俺は迷っていたが、俺は
「断る!!!」
と、今までにない程強く言い切った。
その時、視界が変わり、俺は真っ白いベッドの中にいた。まだ視界は少しぼやけていたが、少しずつピントが合い、左の窓からは山脈が見える。
「で、何を断ったんだ?」
声に反応して、右側に目を向けるとそこには小栗臥龍がいた。
「俺はどれくらい眠っていた?」
小栗の質問には答えず、自分の置かれている状況を理解しようと問い掛ける。小栗は俺が質問に答えなかったのを不快に思った様子もなく、
「ニ日間だ。魔力欠乏、肋骨とかも折れてたみたいだぜ」
「そうか、我ながらよく死ななかったものだ」
そう言って起き上がろうとすると、胸に痛みが走る。と言っても戦いの時に比べれば、かなり痛みは引いているが。
「ああ、駄目駄目、ダメだよ、滉穎。君はまだ完治していないんだから」
そう言いながら横に開けるドアをゆっくりとスライドさせて病室? に入って来たのは僕達の監督を務めており、兄弟子でもあるルクス=カンデラだった。ルクス先輩は名前の通り光属性の使い手で陽気な性格をしており、僕を何かと気にかけてくれる人だ。
「君は普通ならまだ眠っているところなんだよ。普通なら一ヶ月は眠っているはず、と医師も言っていたのに。素晴らしい回復力としか言わざるを得ないね。これが二ヶ月でアルティメットに認められた我が弟弟子の力か」
と先輩は言っているが、これはアクションタイプ、特に肉体の扱いを得意とするエレメンターに見られる特徴だ。元々僕の回復力は高い方だが、魔境に来てからさらに上昇した気がする。しかし、常時身体の修復に魔力が使われているために怪我を少しでもしていれば、魔力が平常時と比べて少なくなる。まあ、それでも得をしている事には変わりはないだろう。
とちょっとした考えが脳裏をよぎったが、それについては言及せずに先輩に
「来て頂いてありがとうございます先輩。 その、・・・・・・あの後どうなりましたか?」
先輩が口を開こうとした時、閉まろうとしていたドアは力強く開かれ、あの男の次に苦手、というか少し嫌いな人物が中に入って来た。
・波俊水明の意味
彼が連れているエレメンターが天魔、という名前であることから魔王や悪魔を意味する天魔波旬から取ったと考えられる。
水明というのが、川の流れが綺麗という意味であるから、山滉穎の山と対比して付けたと考えられる。




