過去の亡霊(2)・三十一話
・虎武龍司
山滉穎の元里親。地球では、かつて神童と言われ、大人になった後も研究者として様々な功績を残す。しかし、何故か本人は名前を出したがらず、世間での知名度は低い。
幼少期から好奇心旺盛、いや、好奇心しかない様な人物で、常に何かを求めて行動している。地球ではその性格が災いして大事件を巻き起こし、滉穎の手によってその命は尽きたかに思われたが、魔境に召喚されたことで九死に一生を得た。
相手は、俺が位置を変えても全く動かず、向きだけをこちらに合わしていた。俺はその異様さから、こちらから攻撃を仕掛けられず、後に反省することとなる。
そのまま、睨み合うこと、数十秒。ついに相手が仕掛けてくると感じ取った俺は、残り少ない魔力で身体を強化する。
これで決める。
しかし、相手が動き出したと思った瞬間、自分の真正面にその姿はあった。
「っ!?」
速過ぎる! このスピードはもしかしたら師匠よりも・・・・・・。
最大限の身体強化を行おうとしたが、間に合わず、相手の右手が俺の胸に食い込む。
「がはっ」
メリメリという音を立て、俺の体は後ろに数十メートル吹っ飛んだ。背後にあった木に衝突しても、その勢いは止まらず、木を粉砕し、またさらに背後にあった2本目の木に当たることでようやく止まった。
「ぐっ・・・・・・」
俺はその大木に当たった反動でまたさらに体にダメージを負った。
この傷とおそらく折れてしまった骨に加え、枯渇した魔力のせいで意識は朦朧としていた。そんな俺に向かってあのエレメンターの後ろから、俺よりも背が高そうなエレメンター、いや、人間が近付いて来る。意識は既に保っているだけで限界だったが、この声は忘れようもなく、脳裏を焼き付ける様にその言葉が入って来る。
「やあ、久しぶりだね、滉穎君。ニ年の月日が経ったのかな?」
「なっ!!?」
俺と同じくらい低いのによく透き通った声、しかし、その声にはまるで本人の意思が宿っていない。
「虎武、・・・・・・龍司?」
「うん、懐かしい名だな。その通りだ。まあ、今は波俊水明と名乗っているんだ。覚えておいてくれたまえ」
「な、んであんたがいる? 俺が殺したはずなのに!」
この時、自分でも信じられない程の声量が出た。
「それは滉穎君達と同じ、いや厳密には少し方法が違うが、大同小異さ」
「まさか! あんたも・・・・・・召喚、されたのか」
「いや〜、一度は本当に死ぬと思ったよ。でも、死の寸前でこの魔境に召喚されたのさ。人生とは、分からないものだね」
なんてことだ! こいつが生きているなんて、この魔境もあの時と同じになってしまう。まさか・・・・・・?
「じゃあ、イオパニックも、あの山賊達も、あんたの差し金だったのか? 痛っ・・・・・・」
後半は怒声も混じり、傷の痛みが強くなってしまった。
あの男は、ゆっくりと笑みを浮かべ、
「その通りさ。しかし、滉穎君はその悉くを殲滅してしまった。大したものだね」
少し悔しそうな様子を見せるが、その声には、悔しさはおろか、何の感情も含んではいなかった。
「おっと、滉穎君の仲間が来てしまったね。僕達はもうずらかるとしよう。また会おうか、滉穎君。
行くよ、天魔君」
「お、い。ま・・・・・・て」
意識を保つのも限界になり、あの男の笑みとその隣のテンマという少年の恨みのような感情が込められた、鋭い眼光を最後に俺の意識は飛んだ。
・波俊水明
虎武龍司の魔境での名前。その名前に込められた意味はまだ分からない。
召喚された人間は否応なくエレメンターの力を得るはずが、非覚醒者である。




