過去の亡霊・三十話
ヤスパースによると、人間には挫折せざるをえず、逃げる事さえできない状況、「限界状況」があります。それは死、苦悩、闘争、罪責の四つに分けられ、生きている限り必ず直面するでしょう。
貴方の人生を振り返れば、この限界状況はいくつあったでしょうか。
もし、それがたった一人で乗り越えられるものと考えているのなら、それはおそらく、間違いです。適応機制が発動しただけでしょう。
なぜなら、・・・・・・。
by 山滉穎
その俺より背が低い男? と思われるエレメンターは、得物を右手に向かって来た。
(速い!!)
加速はそれほどないが、初速の速さを比べれば、俺よりも速く、あっという間に距離を縮められた。
六尺棒という得物もなく、それを作ってくれる木村も気絶している状態で、俺は素手だった。故に、体術でどうにかするしかない。
そのエレメンターはナイフを顔に突き刺す、と思ったが、それを直前で放し、腰から左手で素早く短剣を取り出した。
(何本持ってんだ?)
左手でナイフを跳ね返した俺に、身体を低くし、下から短剣を斜めに振り上げてくる。後ろへのステップでそれを躱すが、小男は続けて突きを繰り出す。
それを右手で叩き、流れる様に相手の首に手を突き刺そうとするが、右足の回し蹴りが来たため、右腕で受け止める。
さらに、小男は器械体操の様に左手を支えに今度は左足の蹴りを繰り出す。
それを後ろへ少し跳ぶことで避けると、次はこちらの番と相手に向かってダッシュする。
しかし、それを分かっていた様に、小男は背中を向けたままニ本の短剣を投げつけて来る。
「!!」
可能性は脳裏に浮かんでいたものの、実際にやるとは思わず、行動が少し遅れてしまった。
俺は体を反らすことで、そのニ本の短剣を上に見ながら躱し、そのまま後転することで起き上がった。しかし、相手の攻撃は速く、またどこから取り出したのか、両手で持った短剣を頭上から振り下ろす。
両手をクロスさせ、それを受け止めるが、膝を付いた状態になってしまう。すぐさま体を後ろに倒すことで相手の態勢も崩させ、勢い良く体を回転させることで蹴飛ばした。
二人共に起き上がりは速かったが、距離を取られたことで俺は追撃ができず、両者一定の距離を保って睨み合っていた。
身長はやはり稲垣よりも少し低いぐらいで、おそらく俺と同じ「アクションタイプ」。だとしたら、この結界は誰が張ったんだ?
俺のすぐ後ろの壁は依然として変化がなかったが、一つ分かったことと言えば、これが張られたことで外部との連絡が取れなくなったということだろう。
そう考えていると、相手は短剣をこちらに投げつけた。俺はそれを難なく避けたが、次の相手の行動は思いもしなかったものだった。
相手は、左手と左足を前にし、右の手足をゆっくりと後ろに引いた。
何だ? 相手の体術は川相と同等くらいだった。俺は武術を少しあっちの世界でも習ったから当然川相よりも強い。アドバンテージの短剣を捨て、俺の十八番である体術に持ち込む意図がこの時の俺には分からなかった。
・適応機制
防衛機制とも。心の中の不安や緊張を解消し、安心を求めようとする自我の自動的な働き。しかし、根本的な解決には至らない。
その代表的なものに抑圧、反動形成、合理化、退行等がある。




