過去との遭遇(3)・第ニ十九話
・List up
魔力を媒体にして、自身の考えや脳裏に描いた映像を対象に送るオンラインの魔法。仕組みはラジオの周波数とほぼ同じと考えて相違ないが、強い魔力だと相手の意識に強制的に割り込める。
現在は通信用の魔法だが、昔はオンラインが多かった文官専用の魔法で、リストを編集したり送ったりするのに使われたため、この名前になっている
稲垣翔祐達は山滉穎が合流し、木村捷の後を追っていた。そこに、後ろから頭目が迫っていることを知らずに。
「このままあいつらを人質にして、あいつに渡せば、俺は一生安泰だ。はははは・・・・・・!!」
「そんなことはさせない」
頭目の高笑いを遮る様にASは風を斬る様な速さで剣を振り下ろすが、頭目は間一髪でそれを躱す。
「ところで、そのあいつとは誰のことかな? いくら君のような人間でも、司法取引は知っているだろ?」
「残念だが、そいつぁ言えねぇなぁ。捕まる前提だろ? それに俺は人間じゃねぇ、エレメンターだ」
頭目はいつもの挑発するかのような口調で言い放った。そして、ASは頭目の最後の言葉に反応し、
「勘違いしないように。エレメンターの定義を。彼等の正義を」
声に迫力がこもり、それに頭目は気付いた。
「何だ? まさか奴らに正義が有ると、本気でおもっている奴がいたのか? ははっ、笑えるっっっな!!」
頭目は一気にASの元に踏み込むと、湾刀を横に切った。
ASは剣を縦に持ち、さらりと受け流すと、柄で頭目の顎をガンっ! と殴った。
「ぐっ、・・・・・・」
頭目は何とかそれを耐えるが、唇と口内は切れ、血が滲み出ていた。そして、ASは頭目に立て直す暇も与えず、攻撃を加える。
横の一閃を頭目は縦で受けようとするが、ASの力に勝てず湾刀は頭目の手から離れる。その一瞬でASはそのまま回転し、その勢いを利用して剣で頭目の腕を切り落とす。
「ぐあああああああああ」
頭目は悲鳴と共に地に伏し、その痛さを堪えながら
「管理者、おまえ。オーラを隠していたのか」
「《バインド》」
ASの腕から伸びた金属線は頭目の手足を否応なしに縛り付け、同時に出血も止めた。
「なるほど、君はオーラの感受性が高かったのか。でも残念だったな。弱い人間しか狙えない君達に強者の実力は測れない」
「はっ。そう、かよ。だが、残念なのはお前だ。今頃あいつが奴等を皆殺しにしているはずだ」
「!!」
これにはASも危機を感じ、麻酔を頭目に打ち込むと、滉穎達の後を追いかけた。
その頃、滉穎達はその遠隔操作のゴーレムが設置されている場所に着いていた。
「なあ山、捷はここにいるはずなんだよな」
「ああ、しかしおかしいなあ。ゴーレムも起動していないし、姿も見えない。気配さえ感じないなんて」
彼等は捷がこの場所にいないことに疑問を感じ、辺りを探していた。すると、小栗臥龍が、
「もしかしたら、山賊の残党に・・・・・・」
その発言に彼等は緊張を覚え、
「確かに、捷はそこまで一対一の対人戦は得意じゃない。万が一があるかもしれないし、・・・・・・」
滉穎が言いかけたところで、林佑聖が、
「でも、それらしき足音は聞こえないぞ。そこまで遠くに行ってないはずなのに」
「仕方がない。手分けしてこの辺り一帯を捜索だ。まだ山賊の仲間がいるかもしれないから慎重に、《List up》も使ってな」
この十分後、彼は過去の悪夢と遭遇することになった。
「しかし、さすがに無理し過ぎたな。足と魔力が限界に近い」
山滉穎は木村捷を探しながら呟いた。彼は麓や迷宮の方向に行った小栗臥龍達とは逆方向の山の奥へ進んでいた。
木々は鬱蒼としており、静寂が不気味さを強調していた。
そして、捷の気配を探し続けること7分、ついに彼らしき人影が滉穎の目に映る。
その人影は、木の幹に寄りかかっていたが、滉穎に気付いてはいなかった。
『木村がいたぞ。場所は迷宮から北に上って九百メートルだ』
『了解』
「さて、どうしたものか。明らかに罠だが、気配がしない。
気配・・・・・・か、皇女様を思い出すな」
滉穎は木の陰から辺りの様子を伺い、次に取るべき行動を考えていた。
すると、周辺の気色が徐々に薄暗くなる。空が雲に覆われているせいではない。上だけでなく、滉穎と捷を切り離す様に薄い立方体の膜が展開されているのだ。
「っ!?」
滉穎は咄嗟に後ろに飛び退き、そのフィールドから出ようとするが、既に彼は立方体に展開された薄暗い壁に閉じ込められていた。
しかし、壁といっても物理的ではなく、まるで空間的にその場だけ切り取られたような感じであった。
「誰だ?」
滉穎は低く、辺りに響かせる声でこの結界らしき何かを張った誰かに問いかける。
暫く待つが、返答はなく、捷の様子にも変化はなかった。
「閉じ込められたのか?」
警戒したまま、まるで光のような壁に近づき、拾った木の棒で触ろうとした瞬間だった。
木の上から一瞬で誰かが飛び降りてくるが、着地した時の音がまるでしなかった。滉穎はその気配に気付くと、即座に振り返った。
すると、十五メートル後ろにいたはずのその者は既にほんの数メートルにまで接近していた。
「っ!!」
その者は袖から音もなくナイフを取り出すと、滉穎の胸に躊躇なく突き刺そうとする。
しかし、彼は持ち前の反射能力でそれを横にスライドすることで躱し、ナイフを持ったその右手の手首を自身の右手で掴む。
そこから掴んだ手でその者を引き寄せ、左膝で胸に蹴りを入れた。
フードを被ったそのエレメンターと思われる者は、十メートル以上の距離を低い背の草木を掻き分ける様に吹き飛ばされたが、攻撃の際に左手である程度滉穎の蹴りを防いだために、身体にはそこまでダメージは入っていなかった。
「お前は誰だ? 俺をこんなリーチがない武器で殺せると思ったのか?」
滉穎は奪ったナイフを観察しながら問いかけた。
しかし、彼の問いかけにも反応しないそのエレメンターは、隠してあったナイフを取り出し、滉穎に向かって走り出した。
「無視ですか」
・霊液
不思議な働きのある液体のこと。
魔境では、魔力を一時的に回復するポーションとしての役割を担っている。しかし、1日に飲める量には限りがあり、過度に摂取すると神経障害を引き起こす。
・霊露銀
霊液を製造する際の必要不可欠な植物。魔境のみに生息し、標高がある程度高くないと育てられず、また乾燥していても育てられない。そのため、山地で、特に迷宮周辺で植えられる。
情報化した魔力を宿す希少な植物で、とりわけ維管束にその魔力が多い。しかし、水銀(メチル水銀)が根で生じ、それが循環しているため、加工せずに摂取すると、神経系に異常をもたらす。
魔力は気孔によって空気中から取り入れ、魔力を用いることで光合成とは違う手段でエネルギーを手に入れる。
魔獣(草食)に食べられるのを防ぐため、水銀を生成する。特徴として、朝は必ず葉に露が付く。




