月影の起点(2)・第ニ十三話
・覚醒者
魔力に覚醒し、魔法を使える人間を指す。広義ではエレメンターも覚醒者に内包されるが、狭義ではエレメンターと魔族以外の魔法を使える者、主にエレメンターに敵対する者を言う。
山滉穎は入り口に戻る階段をゆっくりと上っていた。左足を前に出し、右足をそれに合わせる様に歩く。
来た時には比較的晴れていた空は、既に灰色の雲が空一面を覆っていた。
視界が開けた先の正面には林佑聖と川相希望が悪人面の大男に後ろから拘束され、左右にはそれぞれ十数人の如何にもむさくるしい男達が入り口を取り囲んでいた。
「これは、手厚い歓迎だな」
滉穎は内心で予想通りな事に笑みを浮かべるが、当然それはポーカーフェイスで覆い隠す。
「おやおや、助けを求められたのにたった一人しか来ないのか。お前たちの仲間は。可哀想に」
「俺はその“可哀想”という言葉、あまり好きではないな。中途半端な同情は反感を買うぞ」
リーダー格らしきその男は低く、淡泊で無機質な声で言い放つが滉穎もそれに対し、買い言葉で答える。
その間、男は隣の手下に対し、命令を下していた。
手下は腰から短剣を抜くと、足早に滉穎に近寄り、その頸元に短剣を突き付ける。
「おい、迷宮の宝があるだろ。出せ」
「やっぱりそれが目的か。残念だけど他の仲間がとっくに運び出してな。この場所には既にない。仲間を呼ばないと。
二人には手を出すんじゃないぞ」
その言葉を聞いた手下は、リーダーの男の方へ振り返る。リーダーの男は頭を動かし、「やらせろ」と命じた。
「さっさと伝えろ」
「了解」『林と川相も聞いていると思うが、返答するとばれるからそのままで良い。次のモーションで仕掛けるから』
魔力の使用、つまり魔法や魔術の発動は世界に痕跡を残す。それは非覚醒者には分からないものだがエレメンターには感じ取れてしまう。
よって、佑聖と希望は拘束状態では使いたくても相手に覚醒者がいる限り使えないのだ。
山賊の後ろでは四人の影がチラチラと動いているが、それに気づいているのは滉穎と佑聖の二人しかいなかった。
「完了だ。でも時間は掛かるそうだ。
で、次は何をすればいい」
滉穎は手下にそう告げる。手下は彼の冷静沈着な行動を不思議に感じていた。
「かなり落ち着いてるな。青二才のくせに」
彼は目を瞑った後、微笑みながらゆっくりと目と口を開いた。
「すまないな。僕の心は砂漠の様に広くてね。この程度、砂が少々消し飛んだくらいの衝撃だからね」
「はっ、広くても乾いてんのか。面白い奴だな。まっ、おしゃべりは終わりだ。さっさと縛られるんだな。後ろを向け」
「はいはい」
しかし、滉穎は右足を一歩前に踏み出した。それに山賊達は反応するが、次の二秒が、まるで十秒まで引き延ばされた様に物事が進んだ。
滉穎は目にも止まらぬ速さで自身の右手を短剣が握られている相手の腕の肘に、左手で手首を掴むと、相手の右手を折り曲げ、短剣を手下の首に密着させた。
そのまま彼は勢いを加速させ、短剣で手下の首を切った。
血しぶきによって彼の髪は赤く染まるが体を半転させた彼の顔に掛かることはなかった。
そして、体を一回転させると奪った短剣を正面の敵に向かって投げつけた。
・山賊
当然、魔境にもならず者は存在している。そういった者、または生活に困窮し、やむ無く盗賊になるしか無かった者達。主に山地等の騎士団から遠い所を拠点とし、商人や旅人を集団で襲い、金品を奪う。大半が非覚醒者だが、1割の確率でエレメンターも混じっている。
しかし、迷宮の近くは山賊にとって危険なため、ほぼいないことが多い。
海賊も存在はしているが、山よりも海の方が魔獣が危険なため、数は極端に少ない。




