月影の起点・第ニ十ニ話
・刹那
本来は仏教で言う時間の最小単位であり、一つの意識の起こる時間。その長さについては諸説あるが、魔境においては一秒イコール七十五刹那が一般的。また、セツナというのは梵語、サンスクリットの音訳。
林佑聖と川相希望は、入口に戻され、山滉穎達の戻りを待っていた。
そこに、黒い影が十、いや二十人かそれ以上忍び寄る。彼等は、みすぼらしく薄汚れた格好にそれぞれ物騒な得物を持っていた。木に身を隠しながら、まるで猛獣が獲物を狙う様に、その距離を縮めていた。
しかし、非覚醒者である彼等は、佑聖の耳まで騙すことは当然できなかった。
「誰だ!」
その呼び声に希望も素早く反応し、戦闘態勢に入る。
「出て来い!」
「やっっっぱりバレちまったか。おい! 囲め!」
次に聞こえたのは、低い男の声であった。そして、二十人程度の規模である彼等は、佑聖と希望を四方から囲んだ。その動きには、規律はないが速く、二人は一瞬で囲まれてしまった。
これはまずいな、と佑聖は冷や汗をかいた。
佑聖は、《list up》を使い、五人に現状を伝えることになった。
その頃、滉穎達は迷宮攻略の報酬を受け取り、帰還の用意をしていた。
「本当に残るんですか?」
「すまないな。死に場所はここと2000年前から決めている。生かしてもらってすまないが本音を言えばこの人生を終了させたかった」
「そう、ですか」
滉穎は目を閉じ、数秒思案した後、小栗臥龍達の方へ振り返り、
「じゃあ、戻るか」
臥龍達は「良いのか」と言いたかったが、無駄だと悟り、
「そうだな」
とだけ言った。
その時、佑聖から《list up》を介してSOSが送信される。
『林! どうした!?』
『山賊!?』
滉穎と松尾冬輝の二人が真っ先に反応し、その目には焦燥感が映る。たとえエレメンターと言えど、多勢に無勢、結果は見えているからだ。
五人の焦りに気付いたASもそれに反応する。
「どうしたのだ?」
「山賊が現れました。・・・・・・あっ、今林からの通信も途絶えました」
それを聞いてもASは全く動じず、冷静に状況を鑑みる。
「おかしいな。迷宮一帯にはいないはずだが。取り敢えず落ち着け。裏口があるからそこから奇襲をかければ良いだろう」
「裏口、ですか?」
「そうだ、長年使っていなかったから蜘蛛の巣がかかっていると思うが、十分使えるはずだ」
「ありがとうございます。四人はそこから山賊の背後を取ってくれ。俺は正面から注意を引き付ける。攻撃の合図は山賊の前で俺の右足が左足より一歩前に出ることだ」
「「了解」」
そこからの五人の行動はまさに風の如くであった。
「すまないな。私も加勢したいが、聖属性を使える代償に迷宮からは出られないのだ」
ASの声には申し訳なさが混じっていたが、滉穎は問題ないことを悟らせる様に、
「いえ、麓の警備隊に連絡していただきましたので。それで十分です」
と気丈に振る舞った。
本音を言えば、最初から迷宮の中で山賊を討伐したかった五人だが、迷宮のシステムでは日に何度も中に入ることができない。したがって、野戦になってしまうのだ。
「それよりも何か嫌の予感がします。あのイオパニックと言い、山賊の強襲と言い、裏に何かある様な」
それに対して、ASは何も答えなかった。滉穎は、沈黙に対しては追及せず、戦いへとその身を投じた。
・非覚醒者
魔力に覚醒していない普通の人間つまりエレメンターではない人類を指す。基本的にエレメンターか非覚醒者かは遺伝によって決まるが、特別な試験に受かった者は聖教会の「洗礼」により、エレメンターになることができるが、例は少ない。
魔法は使えないが、魔術は使える。また、エレメンターと非覚醒者は容姿は同じだが、一般的に身体能力、知能等のステータスがエレメンターの方が高い。そのために、別人種という学説もある。




