第92話・魔族の国
飛行船が南方人民共和国連合東部の街サハスを発って数日後。
僕達を乗せた飛行船は遂に魔族の国へと辿り着いた。
とは言っても、まだ陸地が見えたぐらいだが。
魔族の国は森林地帯が圧倒的に占める大地が多い印象だ。
森が切り開かれて都市が出来ているのは、本当に数えるぐらいで、他にはポツポツと少しずつちょっとした集落が見える程度。
日本の地方都市と山間部の村や町が一番近いイメージだろうか。
まあ、そもそも気候や土地が日本に近いみたいだけど。
それにしても、魔族の国の領空ら辺から飛行船の乗組員達の顔色は芳しくなかった。
何か理由があるのかと思い、グレンスに聞いてみる。
「それは、あれですね。
昔からここは魔の三角水域として知られていたんですよ」
魔の三角水域。
地球では、確かフロリダ半島・プエルトリコ島・バミューダ諸島を結ぶ三角形の水域のことを指していて、船舶や航空機の行方不明事件の多さからそう呼ばれたんだよな。
魔境におけるバミューダトライアングルがどうやら魔族の国の領域だったらしい。
そう呼ばれる理由は至極単純。
魔族が二千年前にこの島を覆った結界により、外部の者たちは嵐や雷雨、津波によって侵入を阻まれていたからだ。
その副作用で、漁船や艦船、飛行船が尽く沈められて来た訳だ。
まあ、もう結界が消えたことでその心配は無くなったが。
◆◆◆
飛行船から陸地が見えて約一時間後、徐々に飛行船はその速度と高度を下げ、海の近くにある平坦な土地に辿り着いた。
そうして下りたのは、島国のほぼ真ん中に位置する都市だった。
大きな湖の南西にある都市で、どうやらエルフの領域に存在しているらしい。
実は、この魔族の国、国とは呼んでいるがその実態は単なる多種多様な種族の集合体であり、僕らが想像する様な国みたいに制度が整っていないらしい。
まあ、国家に必要なのは人民と領域、主権であるからその場合は十分に満たしているのだが。
一応、評議会と呼ばれる各魔族の代表者が集まる魔族の国の最高機関があるみたいだが、実質的に各魔族の利害調整などを行う場所になっており、その場での決定が実効力を持つ訳ではないと言う。まあ、重要なのは変わりないが。
とはいえ、魔族の国は現代の国家というよりは、古代ギリシャのポリスの方がイメージは近い。
だからこそ、国の名前が無く、魔族の国なのだろうが。




