表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月影のエレメンター(なろう版)  作者: ハイエナ=エレメント
アポカリプス編第弐章・魔族の国
106/109

第89話・出立

 追記(2023/07/29)

 「用語解説(6)」を投稿しました。


https://ncode.syosetu.com/n7311hd/104/

 異世界、魔境。

 魔境の中でも一際広い面積を誇るキトゥリノ大陸、そのほぼ中央に位置するフレア帝国で、その式典は行われていた。


 三年前に開国した「魔族の国」。

 その国と融和を図る意図も含めて、彼ら、成人(十八歳)前後の若者たちが交換留学生として今日、かの国へ飛び立つ。

 それを祝う意味でも記念式典が催され、好奇心に駆られた民衆がそこかしこに集まっていた。


 しかし、彼ら民衆は別に未来ある有望な若者に興味がある訳ではない。もちろん、そういう人間もいるだろうが、民草の注目を集めたのはただ一人のエレメンターだ。

 フレア帝国現皇帝マーズ=リヴァインの娘、第三皇女であるアスタグレンス=リヴァインただ一人。

 彼女は成人するまで、あまり表に出ず、その存在があまり知られていなかった。

 だが、三年前から国事にも参加する様になり、また名門中の名門、ティマイオス学園を首席で卒業したことで、瞬く間にその名は人口に膾炙した。


 何より、彼女の見目はとてつもなくうるわしかった。

 スラブ系の血も入ったアスタグレンスは輝く銀色の髪、儚さよりも力強さを感じる紅色の瞳、蠱惑的な唇、男を魅了して止まない身体を持っていた。その姿を一目見れば、彼女に視線が釘付けになってしまう、それ程の美しさが彼女にはあった。

 実際、フレア帝国の国民の中にも彼女の笑みに心を奪われた者は多い。

 今も、民は手を振るアスタグレンスに歓声を上げ、旅の無事を祈っている。


 しかし、彼らの大半は知らない。

 彼女に、恋人がいることを。




◆◆◆




「良いのかい? 滉穎こうえい

殿下の近くに行かなくて」


 言ったのは、ルクス・カンデラ。

 山滉穎やまこうえいの兄弟子であり、滉穎こうえいに目をかけている。

 元はフレア帝国の貴族であったが、滉穎こうえいの師匠、玄羽くろう=ヴァトリーにある事件をきっかけに心酔し、トイラプス帝国に戸籍を移した。

 今は特別諸般対策考案部隊(SVMDF)の諜報を主に担当し、実行部隊にも属する滉穎こうえいとタッグを組むことも多い。


 そんな彼に、物陰からアスタグレンスを見守る滉穎こうえいは身体の向きを変えると、


「良いんです。僕はまだ実績を上げられていない。

民衆からの人気も高い彼女と釣り合う男になっていないのに、図々しくその隣に並べませんよ。

まだ、時期ではありません」


 そう言って、またアスタグレンスがいる方向に身体を向けた。


「そうか。だけど、殿下は寂しそうだよ」


 「行かなくて良いのかい?」と再び声をかけるも、滉穎こうえいは「これで良いんです」と少し罪悪感を帯びた声色で応えるのみで、ずっと視線はアスタグレンスに釘付けだった。


 交錯した思いを抱える弟弟子にルクスは肩を竦め、優しい目でそんな彼を見ていた。


 しかし、もう出発の時刻までそんなに時間が無いため、さっさと本題に入ることにした。


滉穎こうえい。魔族の国で一つ、注意しておきたいことができた」


 すると、滉穎こうえいは後ろを向き、真剣な面持ちでルクスの話を待った。


「魔族の国に、暗黒世界の者が密入国した。

それだけならまだ想定内だったんだが、その中に波俊水明はじゅんすいめいがいるかもしれない」


 その瞬間、滉穎こうえい身体からだ強張こわばった。


 波俊水明はじゅんすいめい、地球では虎武龍司こぶりゅうじという名前で、滉穎こうえいの義理の親だった男だ。

 だが、彼らの間にはもうかつての信頼関係は無い。ある事件によって決定的な決別が成されたからだ。龍司りゅうじの死によって。

 しかし、異世界魔境で龍司りゅうじは生きており、水明すいめいに名を変えていた。


 ルクスは続ける。


「確証は無い。

だが、水明すいめいの部下とされる蚩游しゆうが目撃されたそうだ」

「そう、ですか」


 見れば、滉穎こうえいの顔は険しいものになっていた。


「魔族の国は、一波乱ありそうですね」

「そうだな」


 二人の声色は決して明るくはなかった。




◆◆◆




 その後、滉穎こうえいたちを乗せた飛行船は飛び上がり、南へと向かって進み始めた。


 ルクスは一人飛行場に残り、彼らの旅立ちを見守っていた。


 彼としては、魔族の国にまで付いて行きたかったが、暗黒世界との戦争の足音がする中、彼には役目がある。

 密偵として、師匠である玄羽くろうの元から離れる訳にはいかなかった。


 空は旅立ちの時に相応ふさわしい快晴。と、思えたが、太陽の周りにはかさがあった。いわゆる、ハレー現象。

 ルクスは先の民衆と同じ様に、彼らを信じ、その無事を祈るだけだった。

・ハレー現象

 太陽の周りに虹のような光の輪が現れる現象のこと。 雲の中にある氷の粒に太陽の光が屈折してできる。

 低気圧や前線が接近して天気が崩れる前触れと言われている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ