モノローグ・「私」
・楓双調 20歳
フレア帝国の西方に本拠地を置く楓家の長女。エレメンターとして剣術や古武術を幼い頃より叩き込まれ、既に一流の域に足を踏み入れる。
しかし、その実力に裏打ちされた自信と自尊心によって仕える者は自身で選ぶことを決めている。アスタグレンスを認め、彼女の護衛となる。
私は、フレア帝国のアーバーズに名を連ねる楓家にメイドとして仕えています。
楓家のご息女である双調様は私がお仕えする御方です。
そして、双調様がお仕えになられる主こそ、フレア帝国の第三皇女であらせられるアスタグレンス=リヴァイン殿下です。
私が仕える楓家はアーバーズの中でも由緒正しき家柄です。
中世の時代に勃興し、当時は「かかり」として権勢を振るいましたが、タートリア帝国の誕生に際して力を落とし、今は子爵家です。
ですが、フレア帝国の海岸部に影響力があり、実際に海上貿易の株式会社を持っているため、財力はあります。
そんな家で生まれた双調様は、常に凛々(りり)しく、その冷静沈着さから女性からも人気がある方です。
しかし、双調様には少々、いえ大分難がありました。
故に、第三皇女殿下にお仕えするには、かなりの苦難がありました。
まず、双調様は自分自身よりも弱い主君には仕えない、と明言しております。
普通ならば、そんな発言をしたとしても、若輩者の戯言と捉えられるでしょう。
しかし、幸か不幸か双調様には武に関して天賦の才がありました。
魔眼に加えて、柔軟な身体から繰り出される熟練の技。相手の力を利用する古武術を修得し、剣術も一流の域。
接近戦においては、殿下の恋人である山滉穎様を完封してしまう程に強いです。
素人目ながらに、彼は強いとは思いましたが、双調様はそのさらに上の領域にいらっしゃいました。
そのため、双調様を何とか士官させようと、または自身の配下にしようと、あらゆる方々が双調様の元にいらっしゃいました。
その中には皇族の方もいらっしゃいましたが、双調様は得意の剣術で彼らを全員叩きのめしてしまいました。
大事になる、とあの時は私も含めて楓家に仕える人が覚悟したものでしたが、意外にもお咎めはありませんでした。
ですが、その事件によって双調様は問題児として見られる様になり、三年前の五神祭が始まるまでどこに行っても腫れ物扱いをされました。
ご本人は気にも留めておりませんでしたが。
しかし、私は知っています。
双調様が誰よりも優しい方であるということを。
◆◆◆
もう十年も前の話です。
私は生まれて間もなくして両親が死に、孤児となりました。
両親の顔を知ることもなく、孤児院に入った私はそこで幼少期を過ごすことになります。
小さい頃の私はどうやら生意気だったようで、要領の良さや学力の高さも相まって傲慢な子どもでした。
それ故か、同年代の子どもたちに虐められるようになってしまいました。
まあ、私にも非はあると思います。
孤児院の中という小さい集団の中で、知能の高さで人を見下し、蛙井となっていたのですから。
しかし、辛かったのも事実です。
そんな時でした。
慈善活動として、楓家が孤児院を援助しているのですが、その当主のご息女である双調様が訪問にいらっしゃったのです。
さすがに貴族様の前では虐めもできず、私は久々の休息を得ていました。
貴族様たちが帰ってしまえば虐めはまた再開されますが、この時の私はほんのわずかな休息も嬉しかったのです。
目立たない様にひっそりと過ごしていたところに、あの方はいらっしゃいました。
『ねぇ、私の元で働く気はない?』
開口一番でそう問われました。
一瞬、何が起こったのか分からず、呆然としているうちに、もう一度、
『私の所に来ない?』
と尋ねられました。
それでようやく私に尋ねているのだと認識しました。
それからは、とんとん拍子でした。
訳も分からないままに事が進み、いつの間にか私はメイドの服を来ていました。
そこで私は、初めて自分が頷いていたことに気付きます。
双調様はよく空気を読めない人と誤解されます。
それは、どのような状況でも顔色一つ変えないことから生じたものですが、私は知っています。
双調様は読めないのではなく、読まないだけということを。
だって、双調様は孤児院の雰囲気を察し、私に手を差し伸べて下さったのですから。
私の能力の高さも買ったのでしょうが、双調様の優しさは近くにいる者にはすぐに分かります。
私は、双調様の優しさに惹かれ、双調様に忠義を尽くそうと決意しました。
◆◆◆
クールな印象を受ける双調様ですが、私生活はとてもズボラです。それこそ、私達メイドがいなければ成り立たないぐらいに。
自身の主君であるアスタグレンス=リヴァイン殿下を見習って欲しいものです。殿下は身分故にメイドに世話をされますが、できないのではなくやらないだけなのですから。むしろ、自分でやろうとする気概は誰よりも強いでしょう。
まあ、できたらできたで私の存在意義に疑義が出てしまうので困りますが。
仕方がありませんので、今日も今日で双調様を起こしに行きます。
全く、本当に、仕方のない方です。
「双調様起きて下さい。
出発に間に合いませんよ」
双調様、というよりもアスタグレンス殿下が魔族の国へ交換留学生として行くため、双調様も護衛としてかの国へ行くことになりました。
今日は、その出立の日です。
「う〜ん」
しかし、双調様は寝返りを打っただけで、起きる気配は全くありません。
酷い時は手を捕まえられ、抱き枕にされるので今日はまだ良い方です。
攻撃には敏感に反応するのですが、それ以外にはとんと鈍くなり、家に居る時は常にこんな調子です。
本当に・・・・・・仕方のない御方です。
・桐クルス 20歳
軍事都市アレスを支配する桐家の十女。
古代のスパルタを彷彿させる様な訓練を幼い頃から受け続け、剣術は一流で、武器は全般使える。しかし、刀を得物として普段は使う。その実力からアスタグレンス=リヴァインの護衛に任じられた。
楓双調とは幼い頃からライバルとして競い合い、現在、45110勝45511敗45109分。




