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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最愛である幼馴染の彼女を寝取られてしまったので、執念で取り返す

 今日、北斗健二ほくとけんじは幼馴染であり彼女の南雲真莉亜なぐもまりあが見知らぬ男とラブホテルから出てくるところを目撃した。


 絶望と悲しみに暮れる健二であったが、しばらく経ってから湧いたのは怒りであった。


 十年以上も共に過ごし、築き上げてきた信頼や思いが、たかがぽっと出の間男に奪われたのかと。許せるものか。許してなるものか。


 見ているがいい。人の彼女に手を出した愚かな糞男よ。


 必ずや、真莉亜を取り戻してみせる。


 そして、思い知るがいい。お前が誰の女に手を出したかを。


 今日、一人の復讐者が誕生した。憎悪の炎に身を焦がし、奪われた最愛の彼女を取り戻すため、執念を燃やす。


 まずは真莉亜を取り返すためにやるべきことは、情報収集である。なぜ、真莉亜はあの糞男と出会ったのか。どこで知り合ったのか。どういう関係なのだろうか。そして、糞男は一体何者なのだろうかと健二は情報を集めることにした。


 そこで、健二は過去を振り返ることにした。真莉亜との出会いから健二は思い出す。


 真莉亜と健二が出会ったのは幼稚園のころであった。勿論、思い出せる範囲での話だ。記憶には残っていないがお互いの両親が残した写真を見れば、二人は同じ病院で生まれ、家が隣同士であったのでそこから一気に交流が生まれた。


 それは置いといて、二人は幼稚園の頃からの付き合いだ。真莉亜は大人しい性格であまり活発に動き回るような子ではなかったので、一人部屋の中で絵本を読んでいるような子であった。対して健二は絵に描いたようなわんぱく小僧で、外で遊び回り、しょっちゅう泥だらけになっていた。


 しかし、二人は家族ぐるみで交流があるのでよく遊ぶ仲であった。正反対の性格ではあったが、意外にも相性は良かった。活発に遊び回るような健二であったが、真莉亜のことが子供ながら好きであったのだ。だから、健二はなるべく真莉亜に合わせるように遊んでいた。

 そして、そんな健二の思いは伝わっていたのか、真莉亜も自身に付き合ってくれる健二のことが好きであった。それゆえに二人は性格は正反対でも仲睦まじく日々を過ごしていた。


 幼稚園を卒園して小学校に上がっても二人の仲は変わることはない。低学年の頃は登下校を一緒に手を繋いで歩くほどには仲がいい。ただ、やはりからかわれる事もあった。小学生特有の女子と仲が良いと茶化してくる男子に二人は直面したこともある。


 ここでよくあるのは、男のほうが恥ずかしくなり女の子に対して酷い仕打ちをしてしまうというものなのだが、健二は父親の教育で自分に正直に素直に生きるということを教えてもらっていた。だから、茶化してきた男子に対して健二は拳で解決するという原始的な方法をとった。


 その後、健二は喧嘩したことで保護者である両親を呼ばれて学校で叱られることになったが。


 まあ、最後には喧嘩した理由を知った両親に慰められることになった。


 そして、高学年になり、ここで女子に変化が生まれる。体つきが男と完全に変わり始める。それは、当然真莉亜にもあった。元々、真莉亜は発育が良かった。なので、小学六年の頃には他とは一線を画する存在になっていた。


 真莉亜は男子から厭らしい目で見られるようになり男子に対して嫌悪感を抱くようになった。そのせいで健二とも距離を置くかと思われたが、健二とは変わらず交流を続けた。これは健二の努力である。成長した真莉亜は健二にとっても目に毒であった。なぜならば、健二も他の男子同様にエロいことに興味が出ていたからだ。


 でも、健二は幼馴染だったから真莉亜が男子の視線に対して嫌悪感を抱いていることを知っていた。だから、健二は必死に他の男子とは違うとアピールしていたのだ。具体的には真莉亜に対して性的な視線を送らないように頑張っていた。

 その成果もあって、真莉亜からの信頼を保ち続けることが出来た。だが、ここで一つ誤算が生まれてしまった。


 真莉亜は健二が自分には興味がないと思ってしまったのだ。他の男子とは違うということは嬉しかったが、自分には魅力がなく健二は自分のことを女として見ていないのだと真莉亜は思ってしまった。健二、最大の誤算である。


 それから、小学校を卒業して中学生となった二人。今までと変わらず、仲の良い幼馴染であった。ただし、そこから先に進展しないままの。


 しかし、中学に入ってから真莉亜の美しさに益々磨きがかがり、話題の多い人物となった。容姿端麗で品行方正である真莉亜は中学一年でありながら、多くの男子生徒の憧れとなっていた。


 そんな真莉亜はついに告白をされることになった。


 ある日の帰り道、真莉亜といつものように帰っていた健二は他愛のない会話で盛り上がっていた。


「って言うことがあってさ〜」


「ねえ、健」


「ん? どした?」


「私ね、今日、先輩に告白されたの」


「え……っ!?」


「まだ返事はしてないんだけどね。考えてほしいんだって。どうしよう? どうすればいいかな、健?」


 どんな回答をすれば正解なのか分からなかった健二だが、ここで間違えれば真莉亜が先輩の所へ行ってしまうのではないかと不安になった。


「あ……その……真莉亜が嫌なら断ったほうが良いと思うよ……?」


「……そうだね。先輩のこと知らないし、断るね」


 真莉亜が告白を断ると知ってホッとする健二だったが、なぜ自分がほっとしたのだろうかと考えることになる。

 真莉亜は昔から一緒にいる女の子だ。その真莉亜が他の誰かと一緒になるのは寂しいし、嫌だと健二は気がつく。


(今のままじゃだめだ。告白した先に進まなきゃ!)


 健二は真莉亜が好きなのだと自覚する。そして、決心する。近いうちに告白をしようと。でも、今のままだと自分は真莉亜に相応しくないと思った健二は決意する。真莉亜の横に並んで立てるような男になろうと。


 真莉亜が告白されたと知った日から健二は、自分を鍛えることにした。昔から太らないように運動をしていたが、本格的に鍛えることになる。

 そして、それと同時に勉強も励む。文武両道で質実剛健を目指す。ただ、真莉亜の好みかどうかはわからないが、容姿端麗で品行方正の真莉亜の横に並び立つにはそれくらいにはならないといけないと健二は必死に努力を重ねる。


 健二が必死で努力を重ねている間も、真莉亜は何度も告白をされていた。健二はその度に不安に襲われたが、真莉亜は誰とも付き合うことはなかった。その度にホッとする健二であったが、同時にもっと頑張らねばと思っていた。

 真莉亜の理想はきっとものすごく高いのだろうと。だから、誰とも付き合わないのだと。


 努力を続け、中学二年になった健二は見事に筋骨隆々の男になっていた。同年代の中でもまず勝てる者はいないであろう肉体へと変貌を遂げていた。しかも、それだけでなく成績の方も上がっており、学年に二位にまでなっていた。ちなみに一位は真莉亜である。


 健二はまだ足りないかもしれないと思ったが、来年は受験が控えているので告白をするのなら今年の夏がベストだと判断して夏休みに真莉亜を花火大会へ誘った。


「花火キレイだね」


「ああ……」


 ドンッドンッと花火が夜空に上がり、色とりどりのキレイな花を咲かせていた。二人は花火を見上げていたが、健二は途中から真莉亜の方に顔を向けていた。それに気がついた真莉亜は健二の方に顔を向ける。


「どうしたの、健? 私の顔になにかついている?」


「……好きだ」


「え?」


 花火の音に掻き消されたのではない。花火があがっていないタイミングで健二は告白をしたのだ。だから、真莉亜が聞き逃したのではない。

 真莉亜は驚いているのだ。健二から告白をされたことに。


「はっきり分かったのは真莉亜が告白されたって話を初めて聞いたときだった。あの時、俺は真莉亜が誰かと付き合うって思ったらすごく胸が締め付けられた。嫌だった。苦しかった。だから、断ってくれてすごく嬉しかった。

 でも、俺は今のままじゃいけないって思ったんだ。今のままだといつか真莉亜は誰かと付き合うかもしれない。だから、俺は告白しようって考えた。だけど、真莉亜は頭もいいし、クラスで一番、いや、学校で一番可愛いし、優しくて誰よりも素敵な女の子で俺なんかが隣にいてもいいのかなって思ったんだ。

 俺は真莉亜と違って、頭がいいわけじゃないし、かっこいいわけでもない。強いて言えば、幼馴染って言うことだけが他の奴らよりも真莉亜に近いだけだ。

 それだけだ。それだけだった。でも、それじゃいけないって思ってこの一年たくさん努力した。そのおかげで今の俺がある。今の俺なら真莉亜の横に立てると思ったんだ。

 自分勝手なことばかり言ってるけど、もう幼馴染じゃいられない。俺は真莉亜と恋人になりたい。

 好きです。俺と付き合ってください、真莉亜さん!」


 ありったけの思いを健二は真莉亜にぶつけた。頭を下げて手を伸ばす健二は、振られてしまうかもしれないという恐怖に顔を上げることが出来ない。

 その間もドンッドンットと花火が上がる。一体、どれだけ時間が経ったのだろうか。告白してから、何度花火の音を聞いたのだろうか。


「……バカ」


「へ……?」


「バカって言ったの。私の隣に立つのに相応しくない? 誰がそんなこと言ったの? 私はそんなこと一切気にしない。勝手なこと言わないで。私は好きな人なら、どんな人だって良いの。それこそ、勝手に勘違いして必死に頑張って空回りしてる人でも……」


「え、あ、それって……」


「好き。私も。健が」


「あ、ああっ……!」


 歓喜のあまり思わず健二は真莉亜を抱きしめた。


「きゃっ! け、健!?」


「その、ごめんて言えば良いのかありがとうって言えば良いのか分からなくて、でも、嬉しくて」


「もう……」


 抱きしめられていた真莉亜は健二の背中に手を回す。こうして、二人は幼馴染兼恋人となった。


 それからは、以前よりも距離が縮まり二人は自他共に認められる恋人となった。お互いの両親からはやっとくっついたかと呆れられ、クラスメイトからは祝福された。


 恋人になった二人は以前と変わらずであったが、いくつかの変化はあった。やはり、互いに思春期もあって、そういうことには興味津々であった。中学三年になれば受験が控えているので、そういうことは出来ないかもしれないと二人は同じ結論に至り、中学二年のクリスマスに卒業した。


 勿論、一度その快楽を知ってしまったら抜け出せない。自制が効かない思春期であった二人は度々行為に励むのであった。まあ、三年になり本格的な受験シーズンには控えていたが。


 その後、二人は無事に同じ高校に合格した。


 高校生となったが相変わらず二人の仲は良好であった。勿論、喧嘩することもあったが、長年一緒にいるので互いに嫌な部分は知っている。だから、仲直りも早い。


 さて、高校に上がった二人であったが、真莉亜は中学の時以上に美しくなりモテた。それはもうラブコメの如くだ。入学してから三ヶ月で二桁も告白を受けていた。彼氏がいるというのに、どうして告白するのだろうか。ワンチャンあるのではないかと思ったのか。だとしたら、馬鹿にしすぎである。

 まあ、二年に上がる頃には告白もされなくなったが。


 そして、ここからが悪夢の始まりでもあった。


 二年に進級した二人はいつものように帰ろうと準備をしていた時、クラスメイトの女子から声を掛けられる。


「ねえ、南雲さん。ちょっといいかな!?」


「なんですか?」


「えっと、北斗くんは席を外してくれると嬉しいんだけど……」


「俺がいたら出来ない話なのか?」


「そ、そういうわけじゃないんだけど」


「じゃあ、別にいいだろ」


 健二がいるのは嫌なのかクラスメイトの女子は真莉亜に目配せをする。


「健。少しだけ、外で待っててくれる?」


 真莉亜からの頼みであれば健二も断れない。それに、自分がいては女子は口を開こうとしないのは見て分かるので健二は言われたとおりに席を外すことにした。


「わかったよ。外で待ってるから」


「うん」


「ありがと、ごめんね!」


 健二がいなくなったので女子は真莉亜の用件を話すことにした。


「あ、あのね、南雲さん! 実は今度合コンがあるんだけど来てくれないかな?」


「……あの、私に彼氏がいることはご存知ですよね?」


「うんうん、わかってるの! でもね、そこをなんとかお願いできないかな?」


「嫌です。ほかを当たってください」


「お願い、本当にお願いします! もう相手の方には南雲さんが来ることを約束しちゃったの! だから、なんとか来てくれないかな?」


「はあ? 何を勝手に!」


 真莉亜が怒るのも無理はない。知らないうちに合コンの参加を約束させられていたのだから。


「一生のお願い! 何なら土下座でも何でもするから!」


 そう言うと女子が土下座を始めようとする。流石に真莉亜もそこまでされては困ると、慌てて女子の土下座を止める。


「そういうことはやめてください! わかりました! 参加はしてあげますけど、すぐに帰りますからね!」


「うん、ありがとう! もうそれでいいから、来てくれるだけで嬉しいよ!」


 涙目になりながらお礼を言ってくる女子に呆れながら真莉亜は頭を抱える。どうやって健二に説明をしようかと。


 帰宅した真莉亜は健二に合コンに参加する羽目になたことを打ち明ける。


「よし、今からアイツを殴り飛ばしに行こう」


「やめて。私も、怒ったんだけど、教室でいきなり土下座をしようとしたから仕方なかったの」


「でも、俺達が恋人同士だって知ってるのに、勝手に合コンに参加するって相手に約束させたんだろ? なら、簡単に許せるわけないだろ」


「うん。だから、彼女とはこれっきりの関係にする。次はないから安心して」


「……まあ、そこまで言うなら。でも、合コンってどこで誰と何するんだ?」


「ああ、それは聞いたけど、他校の生徒と駅前のカラオケなんだって」


「じゃあ、俺もこっそりついていっておくか」


「そこまでしなくても大丈夫よ。すぐに帰る予定だから」


「でも、心配だし……」


「ふふ、ありがと。でも、大丈夫だから安心して」


「……わかったよ。真莉亜を信じる」


 それがいけなかったのだろう。健二は自分で言ったように真莉亜の側にいるべきであった。


 合コンに行ってから、少しづつ真莉亜に変化が生まれていた。健二とのデートの最中によくスマホを触るようになった。

 それから、しばらくして真莉亜がバイト始めた。別にお小遣いに困っているはずはなかったのに、一体どうしてバイトを始めたのかと健二は尋ねた。


「どうして、バイトなんか?」


「ちょっと、欲しい物があって」


「おばさんに頼めばいいんじゃないか?」


「結構お金がかかるからお母さんとお父さんに頼むのはちょっとね」


「そっか。俺もバイトしようかな」


「しなくてもいいよ。私も短期のバイトだしね」


「ふーん。なら、いいか」


 それから、真莉亜との時間は減った。デートに健二が誘ってもバイトがあるからと断れることが多くなった。仕方がないかと健二も追求をしなかった。


 しかし、運命の日はやってきた。その日は真莉亜の誕生日で健二はデートに誘っていたのだが、急遽バイトが入ったからとドタキャンをされてしまった。

 流石にその時ばかりは断れよと怒ったが、バイトだからと何度も謝られてしまったから健二も悲しいけど諦めることにした。


「はあ……気晴らしに街にでもいくか」


 そこで、たまたま真莉亜を見つける。見つけてしまった。最低最悪の場面で。真莉亜が見知らぬ男に腰を抱かれてラブホから出てくるところを。

 ここに至って健二は思い知る。最近の真莉亜の行動は怪しいものがあった。その答えが目の前にあった。まさか、浮気をされていたとは思いもしなかったが。


 さて、長い回想であったが健二は情報収集のため、真莉亜を無理やり合コンに誘ったクラスメイトの女子へと接触を図る。


「お前に聞きたいことがある」


 健二はクラスメイトの女子から合コンの内容を聞き出した。相手は他校と言っていたが実は大学生が相手だったらしく、カラオケで盛り上がったところ、大学生側がお酒を頼んだと言う。

 その時、大学生側がお酒を進めてきたが未成年だということで断っていたのだが、ジュースみたいなものだからとしつこく進めてきたので仕方なく飲んだと言うこと。

 その際、真莉亜も飲んでしまったらしい。しかも、真莉亜だけ酔っ払ったのか、眠ってしまったと言う。そこで眠ってしまった真莉亜を大学生の一人が家に送り届けると言ったので見送ったそうだ。


 ここまで聞いて健二はブチ切れていた。おそらく、真莉亜を酔わせたのではない。ネットで見かけたことのある酒に睡眠剤を混ぜて昏睡した女性に性的乱暴をするといった手口だったのだろう。しかも、動画を撮られて脅されている可能性が高い。

 これがエロゲーなら真莉亜は既に身も心も落とされている頃だろう。健二、バッドエンドまっしぐらである。


 いや、もしかしたら既に堕とされてる頃かもしれない。そのようなことを考えるだけで腸煮えくり返る健二は強く拳を握りしめる。


 女子から相手の情報を聞き終えた健二はネットを駆使して、相手のSNSのアカウントを見つけ出し、住所や年齢などを特定する。

 なにやら、SNSの方でも真莉亜について匂わせることを言っている。それを見るだけで奥歯が砕けてしまいそうなほどだ。


 しかし、ここまで調べて思ったのだが、もしかしたら本当に真莉亜はその大学生が好きになった可能性がある。健二は今の所全部憶測でしか考えていない。だから、確かめる必要がある。真莉亜の本心を。


 復讐心に取り憑かれた健二は真莉亜を取り戻すために、また鍛えることにした。主に下半身と女性の喜ばせ方を。健二は鍛えつつも真莉亜の心を必死で繋ぎ止めようとした。どのような些細な変化も見逃さないように彼女を褒め、愛の言葉をささやき続けた。


 それから、半年ほどが過ぎて健二はさらにたくましくなっていた。最早、一介の男子高校生には見ないほどにたくましくなっていた。

 健二は万全の準備を整えて真莉亜をデートに誘った。しかも、お互いの両親に朝帰りすることを宣言して。


「では、行ってくる」


 どこぞの世紀末救世主のような雰囲気の健二は玄関のドアに手を掛けた時、父親から声を掛けられる。


「待て、健二」


「止めるな、親父」


「止めはしない。お前がどれほどの覚悟を持っているかは、この半年ずっと見てきたからな」


「ならば、何用だ」


「愛を取り戻せ」


「っ!?」


 健二は振り返る。そこには如来菩薩のように穏やかな笑みを浮かべる父親の姿があった。後光が差し、神々しい父親を見て健二は不敵に笑う。


「ああ。必ず俺は愛を取り戻そう!」


 そう言って家を飛び出していく健二を見ていた父親と、その二人を見ていた母親は頭が痛くなっていた。


「アホどもめ」


 母親の言葉は二人に届くことはなかった。


 健二は真莉亜を誘い、デートへと向かう。そこにはいつもと変わらぬ真莉亜がいる。ただ、健二の方はいささか雰囲気が違うが。


 デートを楽しむかに思われたが、健二は真っ先にラブホへと真莉亜を連れて行く。健二は鍛えている間、一度も真莉亜と致してはいない。だから、真莉亜も健二が久しぶりに誘ってきたことが嬉しかった。ただ、真莉亜は以前のように健二と愛を育めるか不安であったが。


 その杞憂は無駄に終わる。真莉亜は健二にたくさん愛された。その度に何度も昇天して、気絶してしまったが、健二は何度も何度も真莉亜を抱き続けた。


 翌朝、真莉亜は目が覚める。すると、そこには愛しい健二がいる。ただし、素っ裸で仁王立ちをしている。


「目が覚めたか」


「う、うん。どうしたの、健二?」


「俺になにか話すことはないか?」


「え……な、なんで?」


「誤魔化す必要はない。俺はすべて知っている」


 勿論、嘘である。しかし、健二の圧倒的な雰囲気に心の奥まで見透かしそうな瞳に真莉亜は隠せなかった。


「ご、ごめ……ごめんなさい……っ!」


 滂沱の涙を止めることは出来ず、健二は静かに優しく真莉亜を抱きしめる。健二の腕の中で真莉亜は泣きながらすべてを話した。


 あの合コンの日に、酒を飲まされ眠ってしまい、いつの間にか大学生に抱かれて動画まで取られていたことを。健二の予想は当たっていたが、胸糞な話である。決してその男を生かしてはおけない。


 それからも、真莉亜は動画をネタに脅され関係を続けて、何度も抱かれていたそうだ。さらには大学生の友達にも抱かれたという。


「ごめんね。もう私、汚れちゃったの。だから、健二と付き合う資格なんて――」


「くどい! どれだけ汚されようが最後には俺の横にいればいい! 俺の尊敬する人の言葉だ。いい言葉だろう?」


「でも、私、いろんな人に……」


「真莉亜。お前は昔俺に言ってくれたよな。好きな人ならどんな人だって良いと。俺も同じだ。お前がどれだけ汚されようが俺はお前が好きだ。愛している」


「こんな私でもいいの……?」


「お前が良い。お前じゃなきゃ駄目なんだ」


「うっ……うああああああああああああ!!!」


 見事に真莉亜を取り戻した健二であったが、これで終わりではない。まだ終わっていない。そう、最愛の彼女を寝取り、傷つけたクソ野郎に怒りの鉄拳制裁をくわえていない。


 それに話を聞く限り、クラスメイトの女子も怪しい。最初から真莉亜を寝盗らせるつもりだったのではないかと疑う。だとしたら、確かめねばならぬ。


 後日、健二はクラスメイトの女子を呼び出し、問い詰めた。


「お前、どうして真莉亜が酔って眠った時に俺に連絡をさせなかった?」


「それは、私は北斗くんの連絡先なんて知らないし……」


「まあ、そうだな。でも、真莉亜に彼氏がいることは知ってただろ?

 どうして、その事を伝えなかった?」


「いや、伝えたんだけど、南雲さんが寝てたから起こすのも可哀想だって言われて……それで……その……」


「無責任にもそいつに任せたということか?」


「わ、悪い人には見えなかったし、それで別に大丈夫かなって……」


「……どこまでテメェは勝手なんだ!

 人様の彼女を勝手に合コンに参加させて、挙句の果てには見知らぬ男に任せて!!!

 テメェが女じゃなかったらこの場で八つ裂きにしてるところだぞ!」


「ひっ、ひぃ! ご、ごめんなさい!」


 健二は怒りに任せて拳を振るいたかったが、女子を殴る訳にはいかないと拳を下ろした。

 そして、同時に真莉亜が何をされたかを言いたかったが、何も知らないように見えた。だから、下手な事をして真莉亜の事を面白おかしく言われてはたまらないから何も言わなかった。


 目の前の健二がここまで怒りを顕わにしたから女子も邪推した。もしかして、真莉亜の身に何かあったのではないかと。


「あ、あのもしかして南雲さんって何かされたの?」


 ブワッと女子の全身は鳥肌が立った。言ってはいけないことを言ってしまったのだ。今の健二には最も言ってはいけなかった。しかも、ある意味では元凶になった人物だ。それが余計に健二の心をザワつかせてしまう。


 感情的に動いた健二は女子の口を塞ぎ、吊し上げる。


「何も考えるな。何も喋るな。もしも、真莉亜の事でおかしな噂が流れたら貴様を犬の餌にしてやる」


 ゾッとするような低い声を出す健二に女子は顔面蒼白である。すぐに解放されたが、あまりの恐怖に女子は腰が抜けてしまった上に漏らしてしまった。


「もう一度だけ忠告しておく。何も喋るな。分かったな?」


 女子は壊れたように首を縦に振って、健二に何も詮索しない事を誓った。


 本当は一発顔面にでも拳を叩き込みたかったが、そんな事をすれば傷つくのは真莉亜だ。自分のせいで健二が停学か退学にでもなったら自分を責めるに違いない。

 だから、健二はこれ以上女子に対しては何もしないのであった。


 さて次は真莉亜を寝盗ったクソ野郎である。


 その男子大学生は他にも傷つけた女性がいるはずだと予想した健二は真莉亜から情報を得ることにした。その結果、案の定、真莉亜の他にも被害者がいるということだ。スマホやパソコンにその時のデータを残しているらしい。


 最早、ただ殺すだけでは生温い。この世の地獄という地獄を味あわせてやると健二はそう決めた。


 ありとあらゆる手を使って健二はその男に関する情報を集めた。その中に面白い情報を見つけたので健二はそれを利用することに決めた。


 そして、ついに男へ罪を償わせるため、真莉亜から聞いた男のマンションへと向かうことになった。だが、健二では警戒されてしまうということで真莉亜が男と連絡を取り、警戒をといた所に健二が突入することになった。


「やあ、いらっしゃい。ついに彼氏と別れたのかな?」


「はい。だから、その……」


 中々の演技である。物陰から見ている健二であるが、アレは長年一緒であった自分か親にしか見抜けないようなものであった。


 男の部屋に入った真莉亜はまずトイレに行くふりをして、玄関の鍵を開けた。そして、トイレに入り健二に鍵を開けたことを連絡した。そこで、真莉亜は男を呼び寄せて自身に注意を引かせる。その隙に健二が部屋に侵入を果たした。


 健二が部屋に侵入したことなど知らず、男は真莉亜と事をするために服を脱ぎ始めていた。そこへ、健二が現れて男は下半身を露出させたまま驚いた。


「な!? 誰だ、てめ――」


「アタァッ!!!」


「ぐほっ!?」


「ホォ……アタタタタタタッ!!!」


「やべ、ちょっ、まっ!!!」


 どこぞの世紀末救世主のよう見事に連撃を男に健二は叩き込んだ。鍛え抜かれた健二が放つ一撃一撃は男にとてつもない衝撃と痛みを与えた。しかも、止めは金的である。下半身を露出させていた男に耐えられるはずがなかった。


 気絶した男を健二はプラスチックバンドで縛り上げた。それから、叫ばれても大丈夫なようにガムテープで口を塞いだ。後は、ある人へと連絡して待つだけであった。


 しばらくして、男が目を覚ます。目が覚めた男は自分が縛られていることに気がついて、なんとか抜け出そうとするがプラスチックバンドは簡単に千切れるものではない。しかも、助けを呼ぼうにも口はガムテープで塞がれており助けも呼べない。

 一体、どうしてこのようなことになってしまったのかと男が肩を落としていたら、健二が男の前に現れる。男は健二を見て怒りを顕にして塞がれた口を動かした。


「執念が俺を強くした。貴様のおかげで俺は強くなれたよ。心身ともにな。だからといって貴様を許す気はさらさらないがな。後悔しながら死んでいけ」


 なにを言っているのか男には理解が出来なかった。ただ、わかるのは目の前にいる健二おとこが狂っていることだけは理解できた。


 それから、しばらくするとインターホンの音が鳴る。男は誰かが来てくれたと思い、精一杯身体を動かして音を立てるが意味はない。なぜならばこれから来るのは男にとっては悪魔であるからだ。


 部屋に入ってきたのは、健二に近い筋骨隆々の男であった。その男を見て騒いでいた男は顔を青ざめる。


「覚えているだろう? お前が高校生の頃にやんちゃをして、この人になにをされたかを」


「話は聞いている。じゃあ、約束通りもらっていくぞ」


「ああ。後処理も頼む」


「そういう専門の友人がいるから心配するな」


「本当に助かるよ」


「ふ、構いやしねえよ。ところで、こっちには興味ないか?」


「悪いが俺には愛する女がいるのでな」


「そうか。そいつは残念だ。じゃあな」


 そう言って男は大学生を連れて行った。健二は大学生の使っていたパソコンとスマホを粉々に粉砕して、袋に入れて持ち帰り、土に埋めた。

 これですべてが終わった。復讐劇はこれにて幕を閉じる。


「もう二度と健からは離れないようにするね」


「ああ。それが一番だな」


「もし、私がまた前みたいになったらどうする?」


「その時はまた執念でお前を取り返すさ。だって、俺はお前を愛しているから」


 その後も真莉亜は何度か寝取られそうになったが、その度に健二が活躍するがこれはまた別の機会に。

勢いで書きました。

面白いと思って頂ければ幸いです。

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