ミリアリアの超真剣な悩み(1)
その日、シューニャは人生最大といってもいいくらいのピンチに立たされていた。
助けを求めようにもその場には、シューニャをピンチの状態にさせているミリアリアしかいなかったのだ。
必死な様子でシューニャに詰め寄るミリアリアは、真剣そのものだった。
しかし、そんなミリアリアの問いかけは、シューニャをピンチに追いやったのだ。
「ああぁ……、個人間の好みの問題というか……」
「一般的な意見が欲しいのです。統計を取って、対策を練りたいのです」
「俺的には、小さいのもなかなかいいと思うけど……」
「その言い方ですと、一般的には大きい方がやっぱりいいのですね……」
「いやぁ……。ほら、あれだ、皇帝さんはどんなお姫様でも……」
「慰めはいりません……」
「お姫様ぁ……」
そして、その場には深い沈黙が流れていた。
その沈黙を破ったのは、ミリアリアの悲鳴のような一言だった。
「お胸を大きくしないとジークフリートさまに嫌われてしまいます!!」
「それはないから!!」
何故こんなことになったのかと、シューニャは頭を抱えながら少し前のことを思い出していた。
数時間前のことだった。
ミリアリアと二人で庭園を散歩をしている時だった。
少し先でジークフリートとセドルが何かを真剣に話しているのが見えたのだ。
その時のシューニャは、ただ普段は、ミリアリアの前では冷静で格好を付けているジークフリートを揶揄う意味であるいたずらを考えたのだ。
「なぁ、こっそり近づいて皇帝さんを驚かせようぜ」
シューニャが楽しそうにそう提案すると、ミリアリアは首を振ってそれを止めたのだ。
「ダメよ。そんなことしたら」
「ほら、前にお姫様が侍女から借りた恋愛小説にあっただろう? こっそり近づいて、だ~れだってやるやつ。あれしてみないか?」
シューニャにそう言われたミリアリアは、ちょっとだけそのシチュエーションに憧れていたため、心が揺れてしまっていた。
その結果、小説の中の恋人たちのような触れ合いをしてみたいと思ったミリアリアは、小さく頷いてシューニャの後をこっそりと付いて行くことになったのだ。
ミリアリアは、少しだけわくわくする気持ちを抑えながらジークフリートに近づいたのだ。
ミリアリアとシューニャが、ジークフリートとセドルの話声が微かに聞こえる距離に来た時だった。
「ミリア……の…………ぱいは、ちいさすぎ…………俺は思う。もう少し、大きなお………ぱいなら、きっと……」
「ですが、あまり大きなお……ぱいですと……良くないと…………」
「いや、俺は、おおきなおぱ……いの方が………………。ミリアリアも……」
途切れ途切れに聞こえる二人の話声を聞いたシューニャは、途切れ途切れに聞こえる不穏なワードに滝のように全身から汗が噴き出るのが分かった。
そして、隣にいるミリアリアの方をギギギッというように錆び付く鉄の甲冑でも着ているようなぎこちない動作で振り返ったのだ。
そこには、自分の胸に両手を当てて、ハイライトの消えた瞳でぶつぶつと何かを呟くミリアリアがいたのだ。
「ジークフリートさはま、大きいお胸がお好き……。大きいお胸がお好き……。わたしのような有るのか無いのか分からないようなぺったんこなんて……。ジークフリートさまは、大きなおむ―――」
耳を澄ませたシューニャは、間の悪さに天を仰ぎ見ていたのだった。
そして、先ほどのミリアリアの質問に至ったのだ。
その後、ミリアリアは、過去に読んだという書物から胸のマッサージと胸が大きくなるという食材を食べるという日々を送ることになったのだ。
当然その間、ジークフリートとの夜の触れ合いは一切禁じていたのだ。
ミリアリアとしては、成果が出るまでは、夜の触れ合いを避けたかったのだ。
そのため、ジークフリートは、結婚以来初めての禁欲生活を余儀なくされていたのだった。
そんなミリアリアの努力の甲斐もなく、事の発端から一ヶ月が経ってもミリアリアの胸部に変化はなかったのだった。




