第八章 欠陥姫の嫁入り(2)
「ミリアリア、愛している。俺だけの小さく可愛い小鳥よ。君の可愛い笑顔を俺に見せてくれないか?」
そう言って、泣きそうになる気持ちを押さえつけて、ミリアリアの指先にもう一度口付けたのだ。
その時だった。
ミリアリアの指先がピクリと震えたのだ。
それを見逃さなかったジークフリートは、期待を込めてミリアリアを仰ぎ見たのだ。
しかし、その表情はいつものように何の感情も現していなかったのだ。
そのことに、ガクりと肩を落としかけたジークフリートだったが、僅かな変化に気が付いたのだ。
ミリアリアの小さな耳がほんのりと赤く色づいていることにだ。
ジークフリートは、それを見て、何かしなければという気持ちになったが、何をどうしていいのか全く分からなかったのだ。
しかし、ジークフリートは、あの日見てしまったミリアリアの秘密の日記の黒く塗りつぶされていた一文を偶然思い出していたのだ。
そして、祈るような思いで、その黒く塗りつぶされた一文を実行したのだ。
瞼を閉じるミリアリアの唇に自らの唇をそっと触れ合わせたのだ。
触れるだけの優しいキス。
あの日記にあった、塗りつぶされた一文にはこうあったのだ。
―――いつか王子様が現れて、眠りについたわたしを優しいキスで目覚めさせてくれるの。なんてね。そんな事絶対にないよね。
それを思い出したジークフリートは、ミリアリアを愛する思いを込めてキスをしたのだ。
唇を離したジークフリートは、ミリアリアを抱きしめて掠れる声で言ったのだ。
「ミリアリア、好きだ。愛している。君がどこの誰だって構わない。君の全てが好きだ。君をその心ごと愛している。ミリアリア……」
ジークフリートがミリアリアを抱きしめたままでいると、胸の中のミリアリアがピクリと動くのが分かったのだ。
それに気が付いたジークフリートは、祈りを込めてミリアリアに視線を向けたのだ。
その時、奇跡は起こったのだ。
恥ずかしそうに両手で顔を覆うミリアリアが、腕の中にいたのだ。
ジークフリートは、ミリアリアの心が戻ったことを確信したくて、掠れた声で懇願していた。
「お願いだ。ミリアリア、顔を見せてくれ。ミリアリア、ミリアリア」
それに応えるように、ミリアリアは、両手の隙間から恥ずかしそうにしながらもしっかりとジークフリートの瞳を見つめたのだ。
そして―――
「リートさま、おはようございます……」
小さく掠れる声で、そう言ったのだ。
ジークフリートは、驚くどころではなかった。
ミリアリアが心を取り戻してくれたことが何よりもうれしくて、涙を溢れさせていたのだ。
そんなジークフリートに驚いたミリアリアは、ぎこちなく両手を動かして、ジークフリートの頬を優しく包んだのだ。
「泣かないで……。リートさま、お願い……」
「無理だ……。ミリアリアの心が戻ってくれただけではなく、声も目も……。ミリアリア、ミリアリア……」
「リートさまは、泣き虫さんですね……。ぐすっ……。でも、わたしを想って泣いてくれるリートさまのこと、嬉しいと思ってしまう……。こんなわたしでもリートさまは、わたしを好きでいてくれますか?」
「もちろんだ。ミリアリア、愛してる。愛してる」
「はい。わたしも、リートさまを愛しています……」




