第七章 真実と隠された心の叫び(7)
ジークフリートは、愚王たちが息絶えるまでの間、王城の整理をしていた。
書庫にある本は、全てテンペランス帝国に持ち帰ることとなった。ミリアリアの治療に役立つ情報があるかもしれないと考えたジークフリートの判断だった。
そして、それ以外の財宝は、この国に残すことにしたのだ。
といっても、これからはテンペランス帝国の属国となるのだが。
貴族連中で使える者は、幾人か残して後は処刑なり身分剥奪なりすることとなるだろう。
新しい国の頭には、テンペランス帝国で功績を挙げた者に与えることにしようと考えながら、ジークフリートは、ミリアリアが過ごした部屋を見て回っていたのだ。
一国の姫が暮らすには、とても質素で何もない部屋を見たジークフリートは、ミリアリアがどのような扱いを受けていたのか想像するだけで、再び殺意が沸いてきていた。
そんなことを思いながら、部屋の中を見回した時だった。部屋の隅の床の一部に違和感を感じたジークフリートは、そこでミリアリアの秘密を知ってしまうこととなるのだ。
そこには、一冊の日記が隠されていたのだ。
ジークフリートは、駄目だと思いつつもその日記に目を通していた。
その日記には、ミリアリアの隠された気持ちが綴られていたのだ。
城の中で居場所が無いこと。
たくさん勉強して、いい子にしていれば、いつか家族として認めてもらえるかもしれないと考えていたこと。
どんなに努力しても、無駄だということに気が付いてしまったこと。
初めて父親から誕生日ケーキをもらって嬉しかったこと。
その時、生まれて初めて食べた丸いケーキが甘くて美味しかったこと。
誕生日の次の日から、体調を崩して寝込んでしまったこと。
声が出にくくなったこと。
次第に視力が落ちていったこと。
そして、自分はこのまま死んでしまうのではないかと怯える正直な気持ちが書かれていたのだ。
そんな気持ちが数ページ続いた後に、震える文字でこう書かれていたのだ。
―――わたしは呪毒を飲まされていたみたい。もう、死ぬしかないのかな? 呪毒は、一度飲んだら解毒することは不可能……。でも、ううん。解毒は絶対に無理、解呪なんて絶対に無理だってこと、わたしは知ってる。
はぁ、まだ、恋もしていないし、美味しいものも全然食べてないのに。外の世界も知らない……。はぁ、素敵な王子様に小説で読んだみたいなロマンティックな告白をされてみたかったなぁ。
わたしの手の甲に王子様が口付けて、「僕だけの可愛い小鳥よ。僕の愛を受け取っておくれ。そして、可愛い声で僕に愛の言葉を囁いてくれ」きゃーーー、わたしったら、わたしったら~。えへへ……。
そんなの無理だよね。はぁ。恋してみたかったなぁ。でも、いつか王子様が現れて、※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※。
死ぬのは怖い。怖いよ……。夜眠るのが怖い。次に目が覚めた時、目の前が真っ暗だったらと思うと怖い。夜寝たら、目を覚まさなくなるかもしれないと思うと怖いよ……。
ジークフリートは、一部の文章が黒く塗りつぶされて見にくくなっていたが、そのページに書かれている文字を見て、瞳の奥が熱くなるのが分かった。止めようと思ったがそれは不可能だった。
後から後から、ジークフリートの意思に逆らうように涙が溢れて止めることが出来なかったのだ。
それでも、ジークフリートは、ミリアリアの日記を読むことを止めることが出来なかった。
日記を読み進めていくと、乱れた文字で書き殴られたようなページが数ページ続いたのだ。
―――ごめんなさい。ごめんなさい。わたし……。どうしたらいいの? 分からない。でも、セイラにはわたしの傍にいて欲しい。離れないで欲しい。
ひとりは怖い。わたしはなんて酷い人間なんだろう。セイラの弱みに付け込む卑怯な人間。最低だ。でも、セイラはわたしから離れられない……。
だって、セイラはわたしに罪悪感を抱いてくれている。わたしは、その気持ちを利用してる。こんなわたしの傍に居てくれるたった一人の大切な人……。
セイラごめんなさい。でも、わたしはセイラに傍にいて欲しいから、呪毒を飲み続ける……。
もしわたしが呪毒を呑まされていると気が付いたことが知られれば、セイラはきっとあの人たちに殺されてしまう。
そんなのいや……。
セイラに傍にいて欲しいから、知らないふりをし続けるしかないの。でもその所為でセイラを苦しめることになるのに……。
セイラ、ごめんんさい。わたしはもう助からない。せめて最後の時にセイラに傍にいて欲しい。わがままで勝手で、卑怯なわたしを許さないで……。ごめんなさい。ごめんなさい。わたしの所為で、息子さんが人質に取られてしまっているというのに、わたしはセイラが傍に居てくれるのが嬉しくて、セイラに甘えたくて……。
セイラを縛り付けてしまっている……。ごめんなさい。ごめんなさい。
その衝撃的な内容にジークフリートは、愕然と膝を付いたのだ。
ミリアリアに毒を飲ませていたのがセイラという事実に。
そして、セイラに毒を呑まされていると知っても、飲み続けたミリアリアの孤独に。
毒を飲み続けることでセイラを守ろうとしつつも、セイラを自身に縛り付けることへの罪悪感に苦しんでいたことに。
それから、空白のページが続いた後に、一際乱れた文字で数行書かれてその日記は終わっていた。
―――眠るのが怖い。次に目を覚ませる自信がない。次に起きた時、目の前が真っ暗だったらどうしよう。
もう、声も出せないのに、視力も失ったらわたしは、どうしたらいいの? 怖い、怖い。
でも、起きていようとしても眠くて眠くて………。気が付くと眠ってしまう。もう眠りたくなんてない。
怖い、怖いよ……。
でも、夢の中なら自由に話せるし、出歩ける。いろいろな物を見られる。
わたしは、わたしに都合のいい優しいだけの夢の中にいたいと思ってしまう……。
でも、それでもわたしは、現実を生きたい。生きていたいの……。
ジークフリートは、全て読み終わったとき、その日記を強く抱きしめていた。
そして、ミリアリアの秘密を他の誰にも知られないようにその日記をひっそりと燃やしたジークフリートは、ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、ミリアリアの秘密を心の奥底にしまうと誓ったのだった。




