第七章 真実と隠された心の叫び(3)
何かに気が付いた様子のジークフリートは、それを否定するように自問自答したが、最後には自身の口でその答えを導きだしていたのだ。
「俺の服に花の香り、もしくは花粉が付いていて、それが何かしらの影響を与えた?」
「俺はそう思う」
シューニャの考えを聞いたジークフリートは、硬く握った拳を壁に打ち付けていた。
「俺の所為だ……。もっと慎重に行動すべきだった……」
「皇帝さんの所為じゃないよ。花を渡されて、それに毒があるとか普通考えないしさ。それに、皇帝さんはちゃんとお姫様を守ろうとしたじゃん。たぶんだけど、ロッサって花は、お姫様にだけ効果がでる特別な物なんだと思う……。お姫様から口止めされてたけど、もうここまで来たら真実を言うよ」
そう言って、シューニャは隠された真実を口に出したのだ。
「お姫様の視力と声は、毒によって失われたんだよ」
そう言った後に、セイラのことを省いて、ミリアリアの身に起こったことをジークフリートに告げていたのだ。
その場に居合わせた者たちは、ミリアリアの身に起こった悲劇に悲しみの声を上げていた。
そして、ジークフリートに至っては、ミリアリアを苦しめるメローズ王国に対する怒りが今にでも爆発してしまいそうになっていたのだ。
そして、シューニャは最後に推測を口に出したのだ。
「たぶん、お姫様が飲まされていた毒の成分と反応する何かが、ロッサっていう花にあったんじゃないかな? お姫様の知識が漏れるのを恐れて口封じしたのに、テンペランス帝国でいつの間にかその知識が出回っていると知ったら、普通に考えて暗殺を考えると思う。それで、俺たちみたいな人間には分からない、技術を持っているメローズ王国は、何の変哲もない花に何かを仕込んだんだ」
シューニャの推測は、どこか納得のいくものがあった。
その場に居合わせた者は、ミリアリアの殺害を考えたメローズ王国への怒りが爆発していた。
「陛下、メローズ王国に攻め入りましょう! 王女殿下にあのようなことをする国など滅ぼしてしまいましょう!!」
「メローズ王国を滅ぼしましょう!! あんな国、この大陸から消してしまいましょう!!」
「王女殿下に酷いことをする国なんて消してしまいましょう!!」
その後、物凄いスピードで準備が整い、ジークフリートはメローズ王国に攻め込んだのだった。
テンペランス帝国を出る際、曇り空のような瞳の人形のようになってしまったミリアリアを抱きしめたジークフリートは、聞こえていないと思いながらも言わずにはいられなかった言葉を告げていた。
「ミリアリア、愛している。メローズ王国で、君の症状を治せる何かをきっと掴んでくるから、待っていてくれ。ミリアリア、行ってくるよ」
こうして、ジークフリートを筆頭にテンペランス帝国軍は、破竹の勢いでメローズ王国に攻め込んで行ったのだった。
しかし、不思議なことにメローズ王国にジークフリートが攻め入ったとき、特に抵抗されることもなく王城まで攻め入ることが出来たのだ。
国民たちは、何故かテンペランス帝国の軍事侵攻を喜んで受け入れ進んで村を、街を、明け渡したのだった。
王城にあっという間に到着したジークフリートは、呆気ないほど簡単に王城を制圧していた。
王族を捕らえて、重臣たちも捕らえたところで、騎士団長が意外な、と言っても、そこまで意外でもない報告をしてきたのだ。
「陛下。捕らえた者から聞き出した話によりますと、メローズ王国国王の圧政で国は傾きつつあったそうです。最近では、重税に耐えかねた国民たちで反乱の計画も出ていたそうです。そのため、国民たちは、我が国の進軍を喜んで受け入れたようです」
報告を受けたジークフリートは、鼻を鳴らした後に捕らえた愚王を見下ろした。
その横には、ミリアリアに死の花を届けようとしたロザリーナの姿もあったのだ。




