第六章 欠陥姫と毒花(18)
ジークフリートがミリアリアの部屋に入ったとき、ミリアリアは、シューニャと慕ってくれる侍女たちと一緒になって何かを作っていた。
といっても、ミリアリアは指示を出しているだけで、作っているのはシューニャと侍女たちだったが。
部屋に入ってきたジークフリートに気が付いたミリアリアは微笑みを浮かべて迎え入れたのだ。
侍女たちは、ジークフリートの登場に慌ててテーブルの上を片付けたが、それに対してジークフリートは、意外にも優しい声音で言ったのだ。
「急がずともよい。ところで、何をしていたんだ?」
その声に、シューニャがテーブルを片付けながら説明していた。
「魔法の組みひもだ。何でも、相手を想って特別な手順で編んだ組みひもは、相手を守ってくれるんだとよ。侍女たちの恋バナを聞いたお姫様が、好きな人に渡せばきっと思いが伝わるって言って、侍女たちに作り方を教えてたんだよ」
シューニャが説明している間に、テーブルの上は綺麗に片付けられていて、今はティーセットが代わりに用意されていた。
侍女たちは、部屋の外に出て行っていて、今はミリアリアとジークフリートとシューニャだけとなっていた。
ジークフリートは、ミリアリアの座るソファーに腰掛けてから、ミリアリアの髪を掬いながら優しい声で言ったのだ。
「なら、ミリアリアには俺がその組みひもを作って贈ろう。ミリアリアが世界一幸せになるようにと祈りながら組みひもを編むよ」
その言葉を聞いたミリアリアは、嬉しそうに微笑みを浮かべた。
自分だけに向けられる、愛らし微笑みにジークフリートの胸が高鳴った。
そっとミリアリアを腕の中に閉じ込めて、腕の中の愛しい存在を感じていたジークフリートは、腕の中のミリアリアが咳き込む音を聞いて慌てて身を離して驚愕することとなった。
身を離したミリアリアは、咳き込み、口から血を吐いていたのだ。
何が起こったのか理解できていない様子で呆然とするミリアリアが、恐る恐るといった様子で口元に手を当てていると、鼻からも血が流れていたのだ。
血の気の引いた真っ白な顔色になっていたミリアリアは、唇を動かしてから不思議そうに首を傾げたのだった。
(あれ? おかしいな? 血の匂いがする……。それに、血の味……? なんで?)
意識を失う間際、ジークフリートの悲痛な声を聴いた気がしたように思ったミリアリアだったが、それを確かめることは出来なかった。
ただ、ジークフリートを安心させようと伸ばした手を彼が強く握ってくれたことだけは、沈みゆく意識の中でもミリアリアにははっきりと分かったのだった。




