第六章 欠陥姫と毒花(15)
二杯目のお茶を飲み終わったところで、ミリアリアが侍女に手を引かれながらジークフリートの元にやってきたのだ。
そして、いつものようにジークフリートの隣にぴったりと体を寄せてきたのだ。
ジークフリートもミリアリアを抱き寄せていた。
ミリアリアは、さっそくジークフリートの服を引いてから、いつものようにその手のひらに文字を綴っていったのだ。
「さっき、会話、不思議。温室、使わない、何故……。ああ、さっき部屋に戻ってくるときの文官の会話か……。そうだな。温室で作物を育てられればいいのだが……。ガラスの生産量が間に合わないのが現状だ」
ジークフリートの言葉に首を傾げたミリアリアは、更に文字を綴っていた。
「にびーる、使う。低予算、温室……。すまない。ミリアリア、にびーるとは?」
ジークフリートがそれを知らないということに逆に驚いていたミリアリアは、その細い顎に指を当てて少し考えるようにしてから、鈴を鳴らしていた。
シューニャは、ミリアリアの鈴の音を訳してジークフリートに伝えていた。
「にびーるとは、透明で風も通さない素材なので、保温性もあり、温室の材料としてとても最適なものです。どこにでもある素材で作ることが出来るので、少ない予算で作成できます……。とお姫様は言ってる」
シューニャの通訳が終わると、続いてミリアリアは、鈴を鳴らしていた。
「太陽石、黒曜石灰、塩、いくつかのハーブ、パルプなどを材料にします。作り方も簡単で、黒曜石灰と塩を水で溶いて、それを使って、ハーブを織りで作ったパルプで紙を作るような方法で梳いて行きます。梳き終わったら、一旦干して、乾いたところに、太陽石の粉末と黒曜石灰と塩、ハーブを混ぜ合わせた物に精油を加えて混ぜた物を塗って乾かします。それを数回繰り返します。透明になれば完成です。それがニビールです。それを使ってニビールハウスを建てれば、寒い間でも作物を作ることが出来ます……。と、お姫様は言って……。言ってます」
聞いたこともない技術を披露するミリアリアに驚きながらも、前日の件もあり、ジークフリートは何も疑うこともなくすんなりとミリアリアの示す技術の使用を考えたのだった。
その結果、ジークフリートは直ぐに技術者を呼んで、ミリアリアから聞いたニビールの作成に取り掛かったのだった。
そして、数回の失敗はあったものの、ミリアリアの言うような、透明でいて風も通さず、それでいて保温性に優れた素材が完成したのだった。
材料費もほとんど掛からないといっていいほどの安い金額で抑えられたため、大量生産もすぐに進められ、試験的に帝都の近くの農地で使用することとなった。
更には、ミリアリアの助言で今までは家畜のえさにしていた葉っぱの根が食べられることを知ったジークフリートは、葉を刈り取って畑を休ませていたところを掘り起こして、根を収穫したのだ。
その根は、根菜と言われるものだと説明したミリアリアは、「にんにん」「じゃがも」「さつまも」という野菜の美味しい食べ方も披露したのだ。
それによって、国庫を開かなくとも国民が十分に腹を満たせること分かったのだった。
更には、それらを美味しく食べるための「マヨー」と呼ばれる調味料も広がり、テンペランス帝国にマヨーブームが巻き起こったのだった。
そのことから、ミリアリアの皇妃就任を反対していた勢力も賛成派に回っていたのだ。
ミリアリアのもたらす国を豊かにする知識とジークフリートを変えたその人柄に、人々は魅了されていったのだった。
今では、ミリアリアの侍女と護衛は人気職になっていた。
話は出来ずとも、ミリアリアの世話や護衛をする侍女や騎士に優しい気持ちを向けてくれるミリアリアの心と愛らしさに誰もが心を奪われ心酔していったのだ。
周囲の反対もなくなったことで、ジークフリートは、ミリアリアとの結婚を半年後と決めて準備を始めようとしたところでメローズ王国から使者が訪れたのだった。
それが、運命の分岐点になろうとは、誰も知る由もなかったのだった。




