第六章 欠陥姫と毒花(12)
唇の動きからミリアリアの言いたいことを読み取ったジークフリートは、すぐにミリアリアに着せるためのコートやマフラーなどの防寒着の手配に考えを巡らせていたため、ミリアリアの行動に気が付くのが遅れてしまったのだ。
ミリアリアは、感謝をもっと分かるように伝えたいと考えて、ジークフリートの体に手を滑らせていた。
胸から首に手を滑らせたミリアリアは、そのままジークフリートの首に両手を回して抱き着いていたのだ。
そして、ジークフリートの頬に軽く唇を当てた後に少し体を離してニコリと微笑んだのだ。
昔読んだ小説で、感謝の言葉と共に頬にキスをするシーンを読んだことを思い出しての行動だった。
しかし、不意打ちのキスを受けたジークフリートは、自身の唇の端に指先で触れてからミリアリアを衝動的にソファーに押し倒してしまっていたのだ。
ミリアリアとしては、頬にキスをしたつもりだったが、実際にはジークフリートの唇の端にミリアリアの唇が触れていたのだ。
ミリアリアに唇にキスをする意図はなかったことくらいジークフリートには分かっていたが、それでも衝動的にミリアリアを押し倒してしまっていたのだ。
ジークフリートに信頼を寄せているミリアリアは、突然押し倒されたにもかかわらず、キョトンとした様子でじっとしていたのだ。
ソファーに広がる淡い金色の髪と、何も知らない無垢な唇。何も見えていない瞳の中に映る、欲望にまみれた男の顔が見えた時、優しくしたいという気持ちと、このまま奪ってしまいたい衝動に体が雁字搦めになっていたが、ティーカップが割れる音で我に返ったのだ。
音に驚き、目を丸くするミリアリアに向かってシューニャが優しい声で言ったのだ。
ただし、その表情はジークフリートをゴミでも見ているかのように歪んでいた。
「ごめんな。手を滑らせて、ティーカップを割っちまった」
その声を聞いたミリアリアは、ソファーの上に転がってしまっていた鈴を手探りで探し出した後に、鈴を鳴らしていたのだ。
(大丈夫? 怪我はない? もし、怪我があるならすぐに手当てをしないと!)
心配するミリアリアを安心させるように、シューニャは言ったのだ。
「大丈夫だよ。ちょっと、でっかい虫が出て、それでティーカップを割っちまったんだ。驚かせてごめんな?」
シューニャに怪我が無ないと聞いて安心したのは一瞬で、でっかい虫という言葉にミリアリアは、震えあがって、飛び上がって近くにいるジークフリートに抱き着いていたのだ。
(虫? しかもおっきいの? やだやだ! 怖い、どうしよう、いやー、どこか行って、こっちに来ないで!!)
そんなことを心の中で叫びつつ、シューニャ曰く、でっかい虫であるジークフリートの腕にぎゅっと抱き着くミリアリアであった。




