第六章 欠陥姫と毒花(5)
深く俯き、膝の上に置いた両手をぎゅっと握りしめたミリアリアだったが、息を深く吸い込んだ後に、ゆっくりと吐き出した。
そして、顔を上げたミリアリアは、ジークフリートの方に向かって手を伸ばしたのだ。
ジークフリートは、伸ばされたミリアリアの手を握った後に優しい声で言った。
「ん? どうしたんだ?」
ジークフリートの優しい声を聴いたミリアリアは、もう一度深呼吸をした後にジークフリートの手を引いて自分の胸の前に持ってきたのだ。
そして、ジークフリートの握っていた手を開かせて手のひらを上に向けた後に右手の人差し指で手のひらに文字をゆっくりと書いていったのだ。
ジークフリートは、すぐにミリアリアの意図を理解して、手のひらをゆっくりと動く指先に集中したのだ。
「私、秘密、声……」
ミリアリアの指先が綴る文字からその言葉を読み取ったジークフリートは、ミリアリアを抱きしめていた。
「そうだったんだな。目だけじゃなく、声も……。すまない。今まで無神経なことを言った。今まで苦しかっただろう……」
ジークフリートの言葉を聞いたミリアリアは、驚きの表情を浮かべていたが、それを見たジークフリートは、ミリアリアの頬を両手で包み込むようにしてから優しい声で言ったのだ。
「最初は、視力が低いだけなのかと思っていた……。だが、ミリアリアの動きから、見えていないのではと思うようになったんだ。君が隠しているようだったから、秘密を暴くのではなく、打ち明けてくれるのを待っていたんだ」
それを聞いたミリアリアは、瞳に涙の膜を張って唇を小さく震わせた後に、指先で必死に思いを伝えようとしたのだ。
「違う、ごめんなさい。嫌われる、やだ。秘密、ごめんなさい……。いいんだよ。こうして打ち明けてくれた。俺の方こそごめんな」
その言葉を聞いたミリアリアは、必死に首を振ってジークフリートに謝らないでと唇を動かした。
唇の動きから、ミリアリアの言いたいことを読み取ったジークフリートは、それでもと言葉をつづけた。
「いいや。王宮にミリアリアを移した後から、ミリアリアの動きから察していたのに、君の秘密を暴くようで行動に移せなかった俺の弱さだ。それに、声についてもだ。ゆっくりでいい。今みたいに手に文字を書いてくれてもいい。だから、ミリアリアと話をさせてくれないか?」
秘密を言ったら面倒な存在だと思われて距離を置かれてしまうと思っていたミリアリアは、想像とは真逆の展開に都合のいい夢ではないのかと頬を抓って現実なのか確かめていた。
そんなミリアリアの指先を救い上げたジークフリートは、少しだけ赤くなったミリアリアの頬に触れるだけのキスをしていた。
ミリアリアは、頬に触れる温かくて少しカサカサする感触に首を傾げることとなった。
その仕草が可愛く思えたジークフリートは、思わず笑い声を上げていた。
「くくっ。ミリアリアは、本当に可愛いな」
ミリアリアとしては、揶揄われているような気がして頬を膨らませていたが、先ほどの初めて知る感触に興味がわいて、ジークフリートの手のひらに指先を走らせていた。
ジークフリートは、手のひらの上をゆっくりと動く細い指先に見入りながら、書かれた文字を読み上げていたが、途中から困惑することとなった。
「私、頬、温かい、何、触れた、知りたい……。えっと……。そのだな……」
ジークフリートとしては、ミリアリアの許可も得ないうちに頬に口付けてしまったことが急にいけないことをしてしまったような気がしてきていて、素直にキスをしたと言い出せなかったのだ。
それを見かねたシューニャは、面倒くさそうに言ったのだ。
「お姫様、俺が教えてあげるよ。頬に触れたのはく―――」
「おい!! 余計なことを言うな!」
「ええぇ、いいじゃんか。なんかまだろっこしくて~」
そうやって、言い合う二人のやり取りを聞いていたミリアリアは、二人がミリアリアの気持ちを軽くするために敢えておどけた雰囲気を作ってくれていると感じて微笑んだのだった。
しかし、実際にはジークフリートとシューニャの間には、そう言った意図は全くなく、微妙な空気が漂うだけだった。




