第六章 欠陥姫と毒花(4)
その後、ミリアリアは順調に回復していった。
しかし、ジークフリートに秘密を打ち明けることは出来ずにいたのだった。
そんなある日のことだった。
必要な書類を確認したジークフリートは、残りの書類をセドルに渡しながら言った。
「俺の採決が必要なものは全て終わってる。あとは、お前が目を通して判断して構わない。これは、夕方までに各所に回せ。あっちの山は、仕分けしたのちに、重要度の低いものだけ片付けておけ。あの山は今日中にな」
「陛下……。いくら何でもあの量は」
そう言って、執務室の机の上に山になっている書類を見たセドルは表情を引きつらせたのだった。
しかし、ジークフリートは、何でもないことの様に言ってのけたのだ。
「大丈夫だ。寝る時間が少し減るがお前なら出来るだろ? やれるよな?」
高圧的なオーラをダダ洩れにしたジークフリートは、それだけを言ってセドルの返事も聞かずに部屋を出ていってしまったのだ。
それを見たセドルは、肩を落としながらも大人しく書類に目を通し始めたのだった。
部屋を出たジークフリートは、通りすがりの侍女にお茶と茶菓子の用意を命じた後に、ミリアリアの部屋に向かっていた。
部屋に着くと、中から楽し気な声が聞こえてきたのだ。
もし人目が無かったら扉に耳を付けて中の会話を聞きたいところだが、それを何とか耐えきったジークフリートは、ノックの音と共に部屋に入って行ったのだ。
しかし、ジークフリートの前には既にシューニャが立ちふさがっていたのだ。
シューニャの背は、ジークフリートよりも低かったため、下から睨みつけるようにこちらを見上げるシューニャと目が合ったジークフリートは、軽く舌を鳴らしてしまっていた。
こんなに態度の悪いメイドなどさっさとクビにしたいところではあったが、ミリアリアがシューニャを傍に置き、そのメイド服をぎゅっと握る様子を見るとそれをすることが憚られたのだ。
「今日はお早いご到着ですね」
「ああ。お前は下がっていろ」
「……かしこまりました」
短いやり取りの後に、部屋の隅で控えるシューニャを横目に、クッションを抱きかかえながらソファーに座っているミリアリアの元に近づいて行った。
そして、少し間を開けて、ミリアリアの座るソファーに座ってから、ミリアリアの髪を梳きながら微笑みかけたのだった。
「何やら楽しそうな声が聞こえたが、俺にも教えてくれないか?」
ジークフリートがそう言うと、ミリアリアは一瞬困ったような表情をした後に細い人差し指を口元に持って行って小さな唇に当てたのだ。
そして、小さく首を傾げた後に、俯いてしまったのだ。
それを見たジークフリートは、その仕草で言いたくないとミリアリアが言っていると分かりガクりと肩を落としたのだった。
そこに、廊下で命じた侍女がお茶と茶菓子をもって現れたのだった。
それを見たシューニャが近くに移動してミリアリアのお茶と茶菓子をセッティングした。
セッティングが終わり離れようとしたシューニャのメイド服を掴んだミリアリアは、シューニャの肩を指先で小さく叩いたのだ。
しかし、シューニャはミリアリアの両手を緩く握った後にジークフリートには聞こえないくらい小さな声で言ったのだ。
「傍にいて欲しいのは分かるけど、今は無理だよ。ごめんな。でも、何かあったら助けるから」
そう言われたミリアリアは、小さく頷いたのだった。
そんな二人のやり取りを見ていたジークフリートは、シューニャを少女と勘違いしていながらも嫉妬の炎を燃やさずにはいられなかったのだ。
その所為でミリアリアは、ジークフリートの膝の上に座らされて、クッキーを手ずから食べなければならなくなったが、それはいつものことだった。
ジークフリートは決まって、ミリアリアを膝の上に座らせて過ごすことを好んだのだ。
ミリアリアとしても、ジークフリートを傍で感じられるので恥ずかしさはあっても嫌ではなかったのだ。
しかし、その日のジークフリートは、自分が来るまでは楽しそうに話をしていた二人のことを知ってしまっていたため、ミリアリアを責めるように言ってしまったのだった。
「どうしてミリアリアは、俺といると黙ってしまうんだ? 悪い所があれば直す。だから、理由を話してくれ」
そう言われた、ミリアリアは瞳を揺らした後に唇を震わせて深く俯いてしまったのだった。




