第五章 欠陥姫と暗殺者(6)
「姫様……。き…聞いてください。私は、ずっと姫様を騙していました。私は、姫様に毒を盛っていました……。ごほっ! ある日、陛下が私に命じた……のです……。息子の命が惜しければ、姫様に毒を飲ませろと。私は……、息子の命を……たすけ……ひめ…さま。どく……のませ……ゴホッゴホッ!!」
セイラは、切れ切れにあの日の真実を語ったのだ。
あの日、ミリアリアが初めて姉にあった日の真実をだ。
姉である王女が、ミリアリアに読んでみるように渡したのは、一部の学者しか解読が出来ないような古代文字で書かれた禁書だったのだ。
それをすらすらとミリアリアが読むのを密かに聞いていた学者が国王にそのことを報告したのが始まりだった。
報告を受けた国王は、すぐさま宰相に相談したのだ。
宰相は、冷遇したミリアリアが素直に禁書を解読するとは思えないと考え、情報が漏れることが無いように殺すことを提案したのだ。
それに対し、他の者は、殺すのは惜しいと国王に言ったのだ。
優柔不断で、一人では何も判断を下せない国王は悩みに悩んだ結果、ミリアリアが自国の秘密を簡単に漏らすことのないようにする方法を考え付いたのだ。
その方法は、ミリアリアの視力と声を奪うというものだった。
生かしておけば、いつか禁書の内容を必要とした時、ミリアリアに解読方法を聞けばいいという安易な考えからその計画は実行されたのだ。
そして、乳母としてミリアリアの世話をしていたセイラに息子の命をチラつけせて、ミリアリアに毒入りのケーキを食べさせたのだ。
ケーキにいれた毒は効き目が悪かったのか、高熱が出た後に声がかすれる程度の効果しかなかったのだ。
それを知った国王は、セイラに日々ミリアリアの食事に気が付かれないように毒を盛るように命じたのだ。
効果が出るまで一年ほどかかったが、ミリアリアは国王の計画した通りに視力と声を失っていた。
しかし、ミリアリアは、それを周囲に気が付かせないようすることに成功していたのだ。
セイラからの報告で確かに視力と声を失ったと聞いてはいても、ミリアリアは、目が見えているかのように振舞ったのだから安心することが出来なかったのだ。
それから月日は流れ、テンペランス帝国から花嫁候補という名の人質を差し出すように命じられたのだ。
その頃には、ミリアリアが目も見えず、声も出せないと確信することが出来ていたので、ミリアリアのことはただ煩わしいだけの存在としか思えなくなっていたのだ。
だからこそ、可愛い娘を差し出すことなんて考えられない国王は、ミリアリアを人質としてテンペランス帝国に向かわせることに決めたのだった。
ミリアリアの秘密を知るのはごく一部の人間だけだったので、公に反対する者はいなかった。
しかし、ミリアリアの秘密を知る一部の者は、不安を感じたのだ。だから万が一を考えてミリアリア一人ではなく、セイラを共に付けることにしたのだ。
国王たちは知らなかった。
セイラがミリアリアにこのころ既に毒を盛らなくなっていたことをだ。
セイラは、薄々感じていたのだ。息子がもう生きていないことを。
休暇中、息子に会いに行っても、学校だ、用事だと、一度も会うことが出来ていなかったのだ。
そして、長年傍に居るミリアリアに、次第に愛情を感じるようになっていったのだ。
自分だけを頼り、信頼を寄せてくれる美しい存在をいつしか守りたいと思うようになっていったのだ。
それと同時に、自分が犯してしまった罪を後悔する日々が始まったのだ。
そんな中、テンペランス帝国に来てから、小さな小屋での二人っきりの生活は、ミリアリアだけではなくセイラにとっても楽しいものだったのだ。
ミリアリアが幸せそうに暮らす姿、初めての恋に戸惑う姿、気になる相手の様子を知りたがる可愛い姿。
全てが愛おしかったのだ。
だから、ミリアリアに剣が振り下ろされたとき、何のためらいもなかったのだ。
背中を刺されたときは激痛を感じたが、それと同時に安心もしていた。
これで、罪を償えると。
「ひ…めさま……。ご…め……なさい。どうか、わた…しをゆるさないで……。しあわせ……な…て……」
ミリアリアにそう告げ終わったセイラは、自分のために泣いてくれるミリアリアを見て、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべてから瞼を閉じた。
そして、セイラの命は消え去ったのだった。
切れ切れに語られるセイラの懺悔を聞き終わったミリアリアは、声もなく泣く事しか出来なかった。
(死なないで……。死んだらだめ……。お願いだから、わたしを一人にしないで……。ねぇ、わたしに悪いことしたと思うなら、生きて償ってよ!! 逝かないでよ! 死なないで、お願い……。ごめん、セイラ……。ごめんなさい……)
精神的なショックも大きかったミリアリアは、そのまま意識を失っていたのだった。
その頃には、騒ぎを聞きつけた兵士がミリアリアの部屋の前に集まっていたのだ。
そこにジークフリートが駆けつけたのだった。
血だまりに倒れるミリアリアを抱き上げたジークフリートは、ミリアリアの息があることを確かめて安堵の息を吐いた。そしてすぐに女医を呼ぶように兵士に命じたのだった。




