第五章 欠陥姫と暗殺者(1)
ミリアリアは、最近肌で感じる謎の視線について考えていた。
ジークフリートでもなく、セイラでもない視線。
じっと、ミリアリアを見つめる視線は、悪意も好意も感じられない、ただこちらを見ているとしか思えない不思議な視線だった。
いつもミリアリアを見つめる視線だったが、お風呂の時間とベッドに入る時だけは何故か視線を感じなかったのだ。
いつしか、そんな謎の視線に慣れてきた時だった。
いつものように、着ていた寝間着を脱いでベッドに潜り込もうとした時だった。
頭上からミリアリアを叱るセイラとは別の声が聞こえたのだ。
「あぁぁぁ!! もう、いい加減にしてくれ!! 何でお姫様はいつもパンイチで寝てるんだよ!!」
そう言って、聞き覚えのある少し低い声がミリアリアの耳に入ったのだ。
そして、思わずと言ったようにミリアリアに声を掛けた人物も溜息を吐きながら言葉を続けたのだ。
「はぁ。お姫様の所為でつい突っ込んじゃったじゃんかよ……。はぁ。これまで、密かに観察していたってのに……」
そう言われたミリアリアは、最近感じていた視線の主がこの声の人物だと知り首を傾げたのだった。
しかし、それよりも声の人物は、焦るような声音で言ったのだ。
「あんたにはこっちの姿は見えていないと思うけど、こっちにはあんたの姿が見えてんだよ!! 目の毒だから服を着てくれ!!」
そう言われたミリアリアは、慌てて脱いだ寝間着を着だしたが、慌てていたせいで前後ろは反対の上、袖から頭を出そうと藻がいてしまっていた。
それを見かねたのだろう、謎の声は溜息を吐きながらミリアリアの元に近づき寝間着を着せたのだ。
「はぁ。無防備が過ぎる……。はぁ、こんなに可愛い生き物殺すなんて無理だし……。それに……」
小さな声でそう言った謎の声の人物は、ミリアリアの目元に手を伸ばした後にその手を首に持っていったのだ。
その行動に一切気付いていないミリアリアに、哀れみの視線を向けた後に諦めたようにつぶやいたのだ。
「こんな無防備な女の子、殺すなんて出来ないよ……。可愛い子が死ぬよりも俺みたいなやつが死んだほうがましだよな……」
そうつぶやいた後に、ミリアリアから離れようとしたが、それはミリアリアによって阻まれていた。
ミリアリアは、咄嗟に謎の人物の服を掴んで引き留めていたのだ。
ミリアリア自身、何故そんなことをしたのか分からなかったが、謎の人物の悲し気な声がそうさせたのかもしれない。
何も言わずにただ、服を掴むミリアリアを見た謎の人物は、呆れたようにミリアリアに言ったのだ。
「何? お姫様の秘密は誰にも言わないよ。目も見えていないことも、話せないことも。だから手を離して」
そう言われたミリアリアは首を振って否定していた。
(違う。そうじゃない。この人は、わたしを殺すつもりみたいなこと言っていたけど、それならいくらでもその機会はあったのにそれをしなかった。もし、わたしを殺すように命じられていたこの人が、このままここを去れば、この人はどうなるの?)
自分の命を狙っていたと思われる人物を逆に心配して、引き留めてしまっていたのだ。
それに遅れて気が付いた謎の人物は、小さく噴き出していたのだ。
「ぷっ! お姫様……人が良すぎってか、逆に心配になるくらいお人好しだね」
自分が笑われていると知ったミリアリアは、頬を小さく膨らませたのだった。
それを見た謎の人物は、更に笑い出してしまっていた。
「くすくす。はぁ、俺の負けだ。もうどうでもいいかな。あんなおっさんよりも可愛いお姫様に命捧げたいのが男の子ってもんでしょうが……。よし決めた。今日から、お姫様を守るよ。俺はもうすぐ死ぬから短い間だけどよろしくな。俺は、シューニャだ」
そう小さく呟いた、謎の人物は、自分のことをシューニャと名乗ったのだ。
そしてその日からシューニャは、夜、ミリアリアが一人になると必ず現れては、ミリアリアの話し相手になったのだった。




