第三章 欠陥姫と招かれざる客(5)
ジークフリートは、自室のベッドで眠るミリアリアの髪を梳きながら、女医の診断結果を思い出し安堵の息を吐いていた。
あの後、上半身裸のジークフリートが、少女を抱えて医務室を訪ねたのを目の当たりにした医者たちは腰を抜かしながらもミリアリアの治療にあたったのだ。
初めは、医師長である初老の男が診断をしようとしたが、ジークフリートの言葉で急遽女医が処置をすることとなったのだ。
その時のジークフリートは、今まで誰にも見せたことのないような慌てた様子でこう言ったのだ。
「待て! 駄目だ。男は駄目だ。枯れた老人でも男は駄目だ。彼女の診断中は、男は全員外に出ていろ。中にいていいのは、女医だけだ。いいな」
その言葉を聞いた医務室の医者たちは、低い声が唸るように言った内容を理解した瞬間、外に飛び出していた。そして、中に残った数人の女医たちが、ぎくしゃくとした動きではあったが、丁寧に診断と怪我の処置をするのをきつい眼光で衝立越しに見届けたジークフリートだった。
ジークフリートは、ミリアリアの素肌を見ないように衝立の影から見守っていたが、衝立越しでも感じる圧に女医たちの手が震えていたとしても仕方がないことといえよう。
一通りの処置を終えた後、中に残った女医の中で一番年長と思われる、三十代の女医が震える声で診断結果を報告したのだった。
「陛下……。お嬢様の診断結果ですが、両頬の腫れ以外に外傷はございませんでした。それと……」
そこまで口にした後に、急に口籠った女医は、言っていいものなのかと視線を泳がせた後にちらっとジークフリートを見て息を詰まらせたのだ。
ジークフリートは、言い難そうにしている女医を感情の籠らない視線で見下ろしていたのだ。それを見てしまった女医が言葉を失ったとしても責められはしないだろう。
しかし、女医も医者としての使命感というか、女性としてこれだけは言わないといけないと勇気を振り絞っと言えずにいた言葉を懸命に口に出したのだ。
「それで…ですね……。お嬢様のお体を見ましたが、あちらに触れられた形跡はございませんでした。お嬢様は……間違いなく…………しょ……処女でいらっしゃいます!!」
ミリアリアが性的に乱暴されたわけではないと何とか伝えた女医は、目の前の皇帝が安堵の表情を浮かべるのを見て目を丸くしていたが、そんな事には気が付かないジークフリートは、医務室のベッドに眠るミリアリアの元に向かっていた。
そして、ベッドの横に膝を付いて、まだ青い表情で眠っているミリアリアの頭を優しく撫でながら言ったのだ。
「そうか。よかった……。いや、良くはないが、それでも最悪なことになっていなくてよかった……。ミリー、すまない。俺がもっと早く会いに行っていれば、あんな怖い思いをさせなかったというのに。すまなかった……。守ってやれなくて、ごめん」
その後、ミリアリアを自室に連れ帰ったジークフリートは、自分が使っているベッドにミリアリアをそっと降ろしたのだった。
そして、ミリアリアの髪を優しく梳きながら、診断結果を思い出して安堵の息を吐いていたジークフリートだったが、今回の騒動を起こした花嫁候補たちと兵士たちの処遇について考えを巡らせたのだった。
処遇を考える中、大切なミリアリアの肌を見たであろう兵士たちの処遇を考えた時、ジークフリートは無意識に血の海を頭に思い浮かべていたのだった。




