第三章 欠陥姫と招かれざる客(2)
ミドガルズ王国の王女と名乗った女性は、苛立たし気にそう言ったかと思うと、つかつかと近づいたと思ったら、右手を大きく振りかぶって何も言えないでいるミリアリアの頬を打ち始めたのだ。
パチンッ!
「何か言ったらどうなの!」
そう言って、今度は逆の頬を打ったのだ。
声を失っているミリアリアには、どうすることもできなかった。
止めてと叫ぶことも、悲鳴を上げることも、何一つできなかったのだ。
(痛い……、怖い……。リートさま……助けて……)
ミリアリアは、ミドガルズ王国の王女だという見知らぬ女性に何度も頬を打たれていた。
ミドガルズ王国の王女は、ミリアリアのワンピースを掴み容赦なく平手打ちをしていたが、王女の取り巻きとして付き従っていた他の花嫁候補の女性が恐る恐る言ったのだ。
「あの……、もういいのではないでしょうか? もしこのことが皇帝陛下のお耳に入っては、わたくしたちの立場が……」
怯えたようにそう言った女性をきつい眼付きで睨みつけたミドガルズ王国の王女は、ヒステリックに言ったのだ。
「うるさいうるさいうるさい!! わたくしに指図しないで!!」
そう言った後に、ミリアリアの着ていたワンピースを手放したのだ。
ミリアリアは、手を離されたことでその場に転んでしまっていた。
それを見たミドガルズ王国の王女は、可笑しそうに鼻で笑った後に小屋の中を改めて見まわしたのだ。
そして、部屋の奥に見える調理場に向かったのだ。
小さいけれど、きちんと整理が行き届いた調理場で何かを探していたミドガルズ王国の王女は、引き出しの中から一本のナイフを見つけて冷酷な笑みを浮かべたのだ。
見つけたナイフを手に持って、ミリアリアの元に踵を返したのだ。
危険を感じたミリアリアは、逃げ出そうとしていたがそれよりも早くミドガルズ王国の王女が戻ってきてしまったのだ。
そして、ミドガルズ王国の王女は逃げ出そうとするミリアリアに馬乗りになった後に、見つけたナイフでミリアリアのワンピースを引き裂き始めたのだ。
布を裂く音がした後に、胸元に空気を感じたミリアリアは、遅れて自分の身に起こっている状況に気が付いたのだ。
逃げようと身を捩るが、小柄なミリアリアは拘束を抜け出すことが出来なかった。
背後で、ミドガルズ王国の王女の取り巻きたちが「これはやり過ぎじゃない?」「誰か止めなさいよ」「私は嫌よ。そう言うあなたこそ止めなさいよ」と、言い合いになっていたが、ただそれだけだった。
「くすくす。いい気味。あらまぁ。小国だけあって、質素なワンピースの下は、ぼろきれみたいな下着なのね。これなら、身に着けていない方がまだましではなくて?」
そう言って、ミリアリアをあざ笑うミドガルズ王国の王女は、ワンピースだけではなく、その下の下着にまでナイフを向けた来たのだ。
そして、ミドガルズ王国の王女が、ミリアリアの下着を切り裂こうとした時だった。
「それくらいにしてはいかが? これ以上は、ミドガルズ王国の王女としてのあなたの品位が疑われます。それに、彼女を怯えさせるには十分だと思いますよ」
そう言って、ミドガルズ王国の王女の暴挙を止めたのは、取り巻きの中にいた背の高い、灰色の髪をした少女だった。